9、そして幸せに
「あのさあ、告白し合うのはいいけど、僕のこと忘れてないよねえ?」
リューエイ王子の衝撃の告白に、完全に頭がいっぱいになっていたシェリアは、ヴァイツのその言葉に我に返った。
「あ、ヴァ、ヴァイツ、ごめんなさいっ…!」
シェリアは慌ててリューエイ王子から離れようとしたけれど、リューエイ王子は、そんなシェリアを引き戻した。
「リューエイ王子っ…!」
再び抱き締められて、シェリアの顔はますます赤くなる。
「子供の前でイチャイチャ、よくやるねー。」
「何が子供だ、小さいのは見た目だけだろう、本当は俺より年上なくせに。」
「えっ…?」
確かに先王の弟の子供ということは、リューエイ王子より年上と考えて良いはずだった。
「魔眼って便利だよね。小さい身体の方が、どこにでも潜り込めて、暗殺には便利なんだ。」
そう言うと、ヴァイツは再び毒入りクナイを構えた。
「せっかくだけど、俺のお仕事はまだ終わってないからさ、とりあえず王子は殺さないとね。」
「はした金のために、お前を暗殺者としてしか扱わない奴の依頼で俺を殺すのか?」
「仕方ないじゃん、家でお腹を空かせたお母さんが待ってるんだ。薬代だって馬鹿にならないんだよ。」
「せっかくの魔眼持ち、暗殺者などにしておくには勿体ない。俺に仕えれば、相応の地位と報酬を約束するぞ。」
「何あんた?自分を殺しかけた相手をスカウトするの?馬鹿じゃないの?」
「確かにお前は、俺を殺しかけ、シェリアをも殺した、この世で一番許せない相手だ。」
「だったら…、」
「だが、一番恐ろしい相手を味方にできれば、この上なく頼もしい仲間になるだろう。それに、魔眼持ちが正しく生きていれば、もしも俺達の子供が魔眼であった時に、良い影響になる。」
「なるほど、子供のために、ねえ…?」
俺達の子供というフレーズに、シェリアはドキドキしたけれど、ひとまずここは王子に合わせて畳み掛けることにした。
「あなたのお母さん、心の病気なら、私、よい薬を持ってるわ、あなたがリューエイ王子に仕えてくれるなら、無償で分けてあげるわよ。」
「お姉さんの薬…、」
シェリアの作る薬は、シェリアの魔力で効き目が高まっているため、流通している並み薬よりもずっと効果が高かった。
「それは、魅力的だね…。」
「それなら…」
「じゃあ俺、お姉さんに直接仕えるよ。クッキーも薬も、王子様を通すより、お姉さんから直接貰った方が早いでしょう?」
「それは…、」
「では、それで良いだろう。そうすればお前は二度とシェリアや俺の命を狙わないのだろう?」
「そりゃもちろん、雇い主のことは、命をかけて守るから。」
「シェリア、それで良いだろうか?」
「え?はい、まぁ、私は構いませんが…、」
本人抜きでトントン拍子に決まった話に、驚きながらも、特にシェリアに反対する理由はなかった。
「じゃあ、契約成立だね、これからよろしくね。」
自分を殺した相手ではあるけれど、確かに味方に引き込めば、これ以上頼もしい相手もいなかった。
「よろしく。」
右手を出すと、ヴァイツは恭しく、手の甲にキスをした。
「服従と忠誠を。」
「許します。」
服従の誓いを許し、正式にヴァイツはシェリアの従者となった。
「いきなりとは思うが、俺も改めて、シェリアに結婚を申し込ませていただきたい。」
「え!?」
そして続いたリューエイ王子の申し出に、シェリアは目を丸くした。
「でも…、」
「再びそなたを危険な目に合わせるくらいなら、この想いは殺すべきかと考えていた。けれど、我々の命を脅かした、一番の刺客は、もう味方になった。ならばこれ以上、俺は自分の気持ちを抑えてはおけない。」
「リューエイ王子…、」
「好きだ、シェリア。どうか俺と結婚して欲しい。」
「ああっ…!」
もう二度と聞くことはないと思っていた、リューエイ王子からのプロポーズに、シェリアの胸はいっぱいになった。
「私も、心よりお慕いしております…、この先も、永遠に…、」
「シェリアっ…!」
リューエイ王子の腕にきつく抱き締められて、シェリアはもう二度と触れることはないと思っていたリューエイ王子の唇に触れられて、幸せ過ぎて信じられない気持ちだった。
それから一年後、無事にリューエイ王子と結婚をしたシェリアは、第二王子との政争にも無事に勝利することができた。
リューエイ王子は、やがてチェスカ王国の国王として即位し、シェリアは王妃となった。
二人の間には、可愛い姫と王子が産まれ、王子は魔眼持ちであったけれど、同じ魔眼持ちのヴァイツが教育係になり、皇太子として立派に成長している。
ヴァイツの母親は、シェリアの薬のお陰で、すっかりと元気になり、今では週に一度はクッキーを焼いて、ヴァイツや王室の皆にも振る舞っていた。
竜眼を持つリューエイ王と魔力を持つシェリア王妃は、その素晴らしい力で、国を永く安泰に治め、チェスカ王国に繁栄をもたらしたのだった。
おしまい
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。