12月20日 炎竜神密
その話を聞かされた時、生まれて初めて動揺した。自分とは無縁のものだと思っていたが、自分は自分が思っていた以上に人間だったらしい。
二十歳の誕生日の日、《十八名家》の人間は本家分家問わずに陽陰町と自分たちの秘密を知る。
この町には妖怪がいて、自分たちは妖怪の人間の間に生まれた半分妖怪の家系で、妖怪の能力を持って生まれる半妖が自分たちの頭首で、町が妖怪に襲われるようなことがあれば、世界と人々を守る為に命懸けで戦わなければならないことを──私は三年前に知って、自らの宿命をしっかりと呪った。
「炬、何故濡れているの?」
そして、今日は従弟の炬の二十歳の誕生日だった。二年前に頭首になってしまったから、私が炬に町の秘密を伝えなければならなかった。
「雪が降ってた」
「そう……。もう、雪が」
人魂の家系で母親が半妖だからだろうか。寒さに鈍く引きこもりがちな私は、そんなことにさえ気づけなかった。
「そんなことよりも説明しろ。頭首が交代して二年。一度も仕事がなかったっつーのに、なんの用で俺をここまで呼び出した」
「何って、今日は炬の二十歳の誕生日だから」
私に祝う気がないことを初めから察しているせいで、炬は顔を出した瞬間から不機嫌そうだった。その不機嫌を受け止める余裕が今の私には存在しない。炬にどう伝えればいいのかがわからなくて、この数週間一睡もできなかったのだから。
「何が言いたい」
「長くなる。から、そこに座って」
傷つけたいわけではない。愛しているわけでもない。死ねと言いたいわけでもなくて、生きてと願うほど傲慢でもない。
炎竜神家に生まれた者は皆、未成年の頃から救いようがないほどに手を汚していた。特に分家は本家ができないような汚い仕事を引き受けている。これは頭首になってから知ったことだけど、そんな私が分家の炬に対して今更幸せを願うことはできなくて、ただ、不幸にすることしかできなくて──そんな自分の立場が嫌になる。
言わなきゃ。早く。どっちにしろ炬にとって私は悪魔なんだから。
「──陽陰町には、妖怪がいる」
炬は表情を変えなかった。
「現実逃避、しないで」
「してねぇ。してるのはお前の方だろ」
「組長」
「組長がわけのわかんねぇことを言ってるんだろ」
その気持ちは痛いくらいによくわかった。
あの日の私がそうだったように、炬も自分を呪うのだろうか。宿命を呪うのだろうか。
その時脳裏を過ぎったのは、綿之瀬有愛と名乗った少女だった。




