9月7日 相豆院咲把
私は半分妖怪だ。そう思う出来事は多々あったけれど半分人間だと思う出来事は一度もなかった。
「咲把さん……まさか貴方が」
訪れた病院の診察室で会った双の表情は険しくて、あまり良くない状態なのだと悟る。
「言いなさい、双。何を言われても受け入れるから」
それが私たち《十八名家》の現頭首の運命。言われたことを、背負わされたものを、拒むことができずに受け入れる運命。
「癌です。余命三ヶ月の」
双の双眸が私を射抜いた。嘘偽りのない彼女の言葉が私を貫くことはなかった。
「半妖でも病気にかかるのね」
その驚きの方が勝っていた。
「私も初めて知りましたよ。聞いたことがない」
「《十八名家》の千年の歴史において初めての、ってことかしら」
「そうかもしれませんね」
「なら、双。私を必ず活かしなさい」
生かしてほしいわけではない。余命三ヶ月が手遅れであることは医者でない私でもわかっている。
「解剖でもなんでもするといいわ」
「さすがにそこまではしませんよ」
呆れられた。けれど、私は《十八名家》の半分妖怪だから──この身を差し出すことに一切の抵抗がなくて。本当に、未来の為になるならばこの身を差し出す覚悟はできていた。
「次の頭首はどうするつもりですか」
双はもう私の病気の話をしない。妖目家の現頭首として、相豆院家の未来の話をする。
「……どうしましょうね」
私は短く溜息を吐いた。双や他の頭首はまだまだ宿命から逃れることができないけれど、私はあと三ヶ月で逃れることができる。そして、相豆院家の誰かが私と同じ宿命を背負う。
「まぁ、鬼一郎でしょう」
鬼一郎が適任かと聞かれたら否と答えるけれど、鬼一郎以外の適任者がいないのが現状だった。
夫の大志には私たち相豆院家の血が流れていない。流れていなくても《十八名家》の現頭首にはなれるけれど大志にその宿命を背負わせることはできなかった。
彼は相豆院家の人間からは私の夫として慕われているけれど、《風神組》の人間からは慕われていない。私が愛してしまったから相豆院家の人間になってもらった可哀想な人なのだ。そもそも彼には現頭首としての器もない。私が亡くなって、相豆院家を辞めたいと言われても──止めることができない。
「愛果はまだ相豆院家に戻らないし、翔太には荷が重すぎるから」
私と彼は、三人の子供たちに一体何を残すことができたのだろう。私が逃げたかった宿命しか残せていないような気がして、泣いてしまいそうになった。




