8月7日 イザナミ
「……イザナギ、どうして、貴方が……眠るのよ……」
全身が押し潰されたかのように痛むのは、わたくしが二日前に自分の命よりも大切な主──玉依を亡くしてしまったからだ。それは時間が経つにつれて徐々に徐々に消えていっているけれど、芦屋家の式神の家で眠ろうとしているのは、わたくしではなくイザナギだった。
「玉依様が亡くなったからでしょう」
わたくしたちの中で唯一無事なのは、雅臣様の式神のククリのみ。ククリは平気そうな表情で、倒れているわたくしと眠りにつこうとしているイザナギを見下ろしている。
「結希様の式神は間宮家の式神ですから。雅臣様と朝日様の間に第二子が生まれたとしても、間宮家の式神がその子の式神になるでしょう。主なきイザナギは御役御免──だから眠ることを選んだんです」
わかっている。知っている。主なき式神は、次に自分を必要とする主が産まれるまで眠りにつくか──式神界の最古の式神である間宮家のオウリュウのように、野良として次の主を得るまで生き続けるかの二択なのだ。
式神は主がいて初めて式神になる。生きている理由を得て、この世界に触れることができる。でも。
「……主を失ったのは……っ、貴方じゃなくてわたくしよォ……!」
主なき世界では生きていくことができない。そんな式神が大半だから、オウリュウは最古の式神としてこの世界に名があるのだ。オウリュウよりも前にこの世界に生まれて、未だに眠りについている──名を忘れ去られた式神もいるかもしれないから。
「わたくしよりも先に絶望しないで……!」
わたくしを置いていかないで。その声は多分、イザナギには届いていなかった。
「貴方も眠りますか」
ククリが淡々と尋ねる。ククリはわたくしやイザナギがいてもいなくてもどちらでもいいらしい。……わたくしも、ククリ一人を残して眠ることに抵抗はない。
ただ。
「……嫌、よォ」
わたくしまで眠りについたら、わたくしとイザナギはもう二度とこの世界で出逢えないだろう。その名が表している通り、わたくしとイザナギは対になっているから──わたくしはまだこの世界でイザナギと共に生きていたいから、希望を捨てることができない。
「……だってまだ、玉依の娘が生きているものォ」
その娘が玉依を殺した。けれど、恨むことはできなかった。
それはわたくしが玉依の式神だったからだろうか。たった一人この世界に残されて罪を背負った彼女のことを見捨てることもできなかった。




