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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2005年
44/201

12月25日 スザク

 生き物の音。心の音。瞳を開けると女性が私のことを見下ろしていた。


「おはよう、スザク」


「────」


 スザク。それが私の名前だということを知っている。

 私は顎を引いて、女性の腕の中にいる赤ん坊の存在に気がついた。


「私は芦屋朝日あしやあさひ。貴方は私の式神しきがみじゃなくて……」


 え? 違うの?


 眉間に皺を寄せた瞬間、赤ん坊が私に向かって手を伸ばしてきた。


「……この子の、芦屋結希ゆうきの式神にさせる為に私がこの手で生み出したの」


「ッ?!」


 この子、の? この赤ん坊の?


「あははっ、ものすごく嫌そうな顔をしてるわね」


 視線を朝日様に戻すと、朝日様は心から笑っているように見えた。


「何故、私が赤子の式神になるのでございますか」


「そうね、ごめんなさい。ちょっと急いじゃったわね」


「ちょっとどころではございません」


「あはは、ごめんなさいって。急に欠員が出ちゃったから焦っちゃったのよ」


 欠員──その言葉が引っかかる。私はずっと見ないようにしていた朝日様の背後へと視線を向け、青色の式神と目を合わせた。


「…………」


 彼は何故黙っているのだろう。無表情を貫いているけれど、その顔には何故か影が見える。


「彼はセイリュウで、私の式神よ。セイリュウ、挨拶しなさい」


「えぇ、そうですね。初めまして、スザク。私はセイリュウです」


 同じことを朝日様から聞いていたから、なんの為に口を開いたのだろうと思って視線を伏せた。


「二人とも、仲良くね」


 その言葉の意味がわからなかった。


「あぁ〜」


 まだ言葉が喋れないのだろうか。結希様がまた私に向かって手を伸ばす。

 あまりいい空気とは言えないけれど、彼の纏う空気はとても柔らかくて──何故かいい匂いがした。


「…………」


「わかるのかしらね。スザクが自分の式神だって」


 手を伸ばすと、結希様も手を伸ばす。結希様は動けないから私が仕方なく進んでいくと、結希様の手が私の指をぎゅっと握った。


「ッ」


「あ〜!」


 幼いから、たいした力強さを感じない。陰陽師おんみょうじ様の力も感じなくて、けれど、守りたいとは思ってしまって。


「結希、様」


 彼の名前を口にする。まだ彼のことは主だと認められないけれど。


「ねぇスザク。式神の家に行く前に少しだけこの子と一緒にいてくれない?」


「え?」


「今日はクリスマスなの。準備をしたいから、セイリュウと一緒に見ていてくれる?」


「承知いたしました」


 そう言ったのは私ではなくセイリュウだ。子守りを押しつけられたと思ったけれど、結希様の手は温かかった。

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