彼女のメンタル強度は???
遅れてすみません!
これで完結です。
とある居酒屋の座敷席。
高校時代からの付き合いである四人組が集まって飲み会をしていた。
伊月はすっかり酔い潰れてしまい、初の膝に頭を乗せて、くぅくぅと寝息を立てていた。
「片桐さん寝ちゃった?」
「あぁ……」
声を少し小さくして古賀が問いかける。
初は寝ている伊月に自分の上着をかけてやりながらそれに答えた。
「伊月ったら、お酒弱いくせに甘いものだと飲み過ぎるのよね」
それを苦笑しながら見ているのは皐月。
高校を卒業し、進路が分かれた彼らではあったが、しばしばこのように集まっている。
今日もそのはず、だったのだが。
居酒屋の新作だという酒に興味を持った伊月がそれを飲み過ぎてしまい、酔い潰れてしまったのであった。
「いやぁ、しっかしこういう風に初に甘えてる片桐さん見るの久しぶりかも」
「そういやそうね。高校時代は親ガモと小ガモみたいな感じだったのに、自覚してからはちゃんと恋人だったもの」
二人からの散々な言われように思わず苦笑する初。
(あの一件以来、伊月の奴成長したもんなぁ)
◆◇◆◇◆
学校も自由登校となり、息抜きということで、その、少し遠出をして、所謂デート、という奴をしていたんだが。
ショーウィンドウに並べられた品々を見ては目を輝かせ、うろうろと歩く伊月が人にぶつからないようにしつつ、俺はだらしなく伊月の笑顔を眺めていた。
ふと顔を上げた時、見覚えのある、しかし見たくはなかった人物を見つけてしまった。
越前美亜。
伊月を貶めようとした、伊月を傷つけた奴。
見た瞬間、俺は思わず顔を顰めた。幸い、伊月は気づいていないらしい。
さっさとここから立ち去ろう。
伊月は確かに強くはなった。しかし、だからと言って無駄に傷つけたい訳じゃあない。
「初ちゃん?」
小首を傾げながら上目遣いをしてくる伊月は可愛い。本当に可愛い。
……って、そんなことをしてる場合じゃない。
「いや、確かこの辺に美味いクレープの店があったはずだと思ってな」
これは勿論本当。
ちゃんとデート前に下調べをしといたんだ。
伊月はばっちり食いついたらしく、目がキラキラし出した。
「行くか」
「うん!」
何か騙したようでーー騙してはいないんだがーー心苦しいが、気にしないようにする。
さりげなく、伊月の視界に奴が入らないようにして、歩き出す。
一応様子を伺って見ると。
奴もまたこちらに気づいたらしく、驚いたような顔をした後、ばっと頭を下げてきた。
「クレープ美味しかったね〜」
にこにことしている伊月を見ていると全てが浄化された気がする。
「初ちゃん」
癒されていたら、伊月が少し沈んだ声を出した。
「私は、越前さんに謝られたとしても、許せない」
伊月は、俺の方を見ず、前を向いてそう言った。
「私だけじゃなくて、初ちゃんのことをあんな風に言われて許せるほど、私は、優しくない、から」
ごめんなさい。
呟かれた謝罪は誰へのものなのか。
俺は何も言わず、伊月の手を握っていた。
◆◇◆◇◆
「おーい、初。どうしたー?」
古賀の呼びかけで我に返った初は、自分の膝の上で眠る伊月を撫でながら口を開いた。
「いや、伊月も成長したなと思ってな」
「本当揺るぎねぇなお前」
「それが小鳥遊と伊月よ、いつものこと」
「それもそうか」
妙に息の合った二人に圧されつつ、和やかに宴は過ぎていった。
「じゃあまたなー」
「伊月によろしく」
そう言った二人に挨拶を返した初は、伊月を背負って家路を歩く。
「うい、ちゃ……」
寝ぼけながら、くっついてくる伊月に理性とのバトルを強いられつつ、やや足を急がせる。
「すき……」
「…………俺も好きだ、伊月」
絹ごし豆腐以下のメンタル強度だった伊月。
それよりも強く成長した彼女のメンタル強度はーーーーーー
【END】
駆け足でしたが、完結しました。
読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました!
年内に完結できて本当に良かった……!
謝罪のくだりはどうしようか最後まで迷いましたが、中途半端な形かもしれないですがこうしました。
この後の登場人物たちは、みんな幸せと言える生活を送っていると思います。
改めまして、読んでくださりありがとうございました!




