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 朝になると、隼人は横で寝ている志保を起こした。

「もう朝だぞ」

 志保はゆっくりと目を開けた。起き上がりお互いの顔を見て、同時に赤くなった。つい先ほどまでキスしたり抱き合ったりしていたのになぜか緊張してしまう。

「なんか、すごいことしちゃったね……」

「そ、そうだな」

 どんどん体が熱くなっていく。まともに顔なんか見られない。隼人は目をそらした。

「隼人」

 志保が声をかけてきてどきりとした。動揺しているのを隠せない自分が恥ずかしかった。

「これ、ばれないよね?」

「ばれないって?」

 目を丸くすると、もう一度志保は言った。

「クラスメイトとかにだよ。また噂になったら大変だよ。しかも今回は本当に恋人同士なわけだし。キスと告白なんて聞いたらもう大騒ぎだよ」

 また目をそらしながら隼人はあいまいに答えた。

「大丈夫だろ。学校で、俺とお前が変な行動したり変なこと言ったりしなければ」

 志保はふう、とためていた息を吐いた。

「学校で変な行動しなければね……」

「心配なんかしなくていいんだよ。ばれるわけねえだろ」

 そう言いながら隼人は、自分が学校でおかしな行動をするのではないかと不安に思っていた。

「なんか俺たちってすごい飛躍してるな」

「えっ?」

 志保が目を見開いたので、もう少しくわしく言った。

「だってついさっきまでただの同級生だったのに、今は恋人同士で結婚だとか話してるんだぜ。たった数時間でこんな関係になるとか、すごい飛躍してるだろ」

 ああ、と志保は気が付いた。そして隼人の手を握りながら言った。

「それだけ我慢してたってことだよ。好きなのに好きになっちゃいけないって。警察官の娘とやくざの一人息子が恋人同士になれるわけないって。これは恋愛じゃないって、私ずっと自分に言い聞かせてた。でも、もう限界だったの」

 隼人もそうだった。志保が手に入れられないと悔し涙まで流した。やはり志保は自分と似ていると思った。

「ところで、どうしてそんなに傷だらけなの?」

 志保が心配そうに聞いてきた。志保を諦めるために隼人は体を痛めつけた。このまま傷だらけになって死んでしまおうと思っていた。

「死のうと思って」

「死のう?どうして?」

 驚いて当たり前だ。隼人はゆっくりと話した。

「姉ちゃんには二度と会えないし、志保も手に入れられないって知った時、もう生きてる意味がないって思った。どうにでもなれって投げやりになった。もう死んじゃった方がいいって。俺が死んでも誰も悲しまないって」

「そんな……」

 志保は泣き顔になった。

「じゃあ、あの時私がここに来なかったら」

「自殺してた。絶対」

 ぽろぽろと志保は涙を流した。そして強く抱きしめた。

「でも、もういいよな。一緒にいても。志保のことが好きだって言っても」

 志保は頷いた。抱きしめる力が強くなった。

「もう離れないよ。私たちはずっと愛し合っていけるよ」

 隼人の心の中が暖かくなっていく。紗綾にも抱きしめてもらいたいと思った。


「じゃあ、私帰るね」

 志保が立ち上がった。まだここにいてほしかったが我慢した。こうして志保の気持ちを知っただけでも充分だ。

「ああ、そうだな」

 隼人は玄関まで見送った。

「じゃあ、ありがとう。一緒にいてくれて」

 志保の笑顔を見て、また隼人の心の中が暖かくなった。

「俺も志保が来てくれてすごく嬉しかった。これからは恋人同士でいられるんだな」

「うん。恋人同士だよ」

 二人で確かめ合ってから志保は出て行った。隼人はドアが完全に閉まるまでその場に立ち尽くしていた。

 部屋に戻り散らかったベッドを直した。まだ志保の温もりが残っているような気がした。志保の柔らかい唇。暖かい体。全てが隼人のものだった。志保をベッドに押し倒した時、頭がおかしくなりそうだった。絶対に手に入れられないと思っていた志保が目の前にいるのだ。志保は嫌がらずにじっと見つめてきた。そっとキスをするととても甘い味がした。誰にも取られないようにと腕に力を込めた。耳元で話をすると、志保は気が狂いそうになっていた。隼人もぞくぞくしていた。好きな女の子とこうして話すだけでこんなにも興奮するのか。やめられなくなったが志保がやめてくれと言うので仕方なく顔を上げた。「隼人と呼べ」と言うと志保も「志保って呼んで」と言ってくれた。それだけで距離がぐっと縮まった気がした。志保からのキスで、気が狂う直前まで来た。とても熱く深いキスだった。体中から力が抜けそうになるのを必死で堪えた。

 普通のカップルなら別になんてことないのに、隼人と志保にとってはとんでもないことなのだ。絶対に誰にもばれてはいけないと自分に強く言い聞かせた。ずっと二人きりでいるには、誰にも知られないようにとにかく気をつける。隼人も志保も結ばれたいと願っているのだ。結婚し子供を産んで、愛する志保と家庭を作りたい。

 しかしどう考えても反対されるだろう。志保の言う通り、確かに隼人と志保の親は敵同士だ。恋人同士ではいられても、結婚をするのはかなり難しい。もしかしたら二度と会えなくなるかもしれない。二人きりの恋をしたっていつかは別れてしまうのは目に見えている。きっとお互いに傷つくだろう。隼人はよくても志保を悲しい目に遭わせるのは絶対に嫌だ。

 ではどうすればいいか。出た答えは子供を産むということだったが、それには問題がある。まだ隼人も志保も十七歳の高校生なのだ。十代で子供を育てるなんて無理だ。女の子は特に大変だ。

 やはりだめか……。隼人は俯いた。心の中が悔しい思いでいっぱいになった。恋人同士にはなれる。しかし結婚はできない。なにか他にいい方法がないかと考えても何も出てこない。現実は厳しかった。

 

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