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隼人が学校にやって来た。クラスメイトはまた暗い顔になった。しかし志保はとても嬉しかった。
「学校で会うのは久しぶりだね」
志保がそう言うと、隼人は少し照れたような顔をした。つられて志保も顔を赤くした。恥ずかしいのを隠すかのように突然隼人が言ってきた。
「お前そのポニーテールしないほうがいいと思うんだけど」
「えっ?」
志保が目を丸くすると隼人は目をそらしながら言った。
「髪下ろしてる方が似合ってるから。もうポニーテールやめろよ」
志保も照れて目をそらした。すぐに結んでいた髪をほどいた。
「これでいいかな」
そう言って笑うと隼人は満足そうに大きく頷いた。
恋人同士ってこういうことをするんだな……。志保は新しい人生が始まったとどきどきしていた。
あの日ミユキに言われて隼人の部屋に言ったのは、とにかく隼人に会いたかったからだ。結ばれなくても好きだって伝えるのは悪いことじゃない。その言葉で志保の迷いは消えた。どうしても隼人に言いたかった。もう限界だった。まさか隼人も志保のことが好きだったと知った時は驚いた。さらにキスもされるとは思っていなかった。恋人同士になれたなんて本当に奇跡のようだと思った。
家に帰ってからも、まだ隼人に抱きしめられているような気持ちだった。そのせいでほとんど眠れない。
志保はそっと隼人に忠告した。
「恋人同士だってばれないようにしようね。名前も倉橋じゃなきゃだめだよ。私も浅霧くんって呼ぶから」
「わかってるよ」
そして大きくため息を吐くと、いじけた声で言った。
「何で隠れなきゃいけねえんだよ。他の奴らは堂々としてんのに」
「仕方ないよ。私たちは本当は付き合っちゃいけない関係なんだから」
嫌そうな顔をしながら隼人は頷いた。
今まで通りの日々を送り、二人は三年生になった。クラス替えはなかったので、また違うクラスだった。
「誰か俺たちのこと知ってて、別れさせようとしてるんじゃねえの」
不満でいっぱいの隼人のために、志保はできる限り隼人の部屋に泊まることにした。もちろん料理だって作った。隼人は「お前はいい嫁になるな」と嬉しそうに笑ったが、志保は心の中が暗くなった。隼人の嫁になれる可能性はほとんどないのだ。
そして来年は大学生になると毎日受験勉強をした。ある夜志保は隼人に聞いた。
「隼人、大学どこに行くか決まってる?」
「大学?」
隼人の口調から志保はまさか、と嫌な予感がした。
「私たち来年大学生になるんだよ。ちゃんと受験勉強やってるの?」
突然隼人の顔色が変わった。冷や汗を流している。
「えっ?そんなものやってねえよ」
志保は驚いた。よく進級できたなと思った。
「ちょっとだめじゃない!受験勉強しないと大学行けないよ!今からでも遅くないから一緒に勉強しようよ」
志保が教科書を開くと隼人は何か考え始めた。
「どうしたの?」
顔を覗き込むと頭を上げ、覚悟をしたように言った。
「俺、大学行かねえ」
「行かない?」
また驚いて目を見開いた。隼人はさらに力強く話した。
「志保と結婚するから」
「け……結婚って……」
志保も冷や汗を流した。それができないから二人とも悩んでいるのではないか。
「私たち結婚できないでしょ?もしかして何かいい方法を……」
「警察とかやくざとかもういい。そんなのどうだっていい」
なぜかとても強気だ。いったいどうしたというのか。
「子供を作ればいいんだ」
「だから」
志保は立ち上がった。緊張でまた体が震える。
「私、子供なんて産めないよ。まだ高校生なのに」
だが隼人はじっと顔を見つめた。
「もう俺たち十八だ。ほとんど大人と一緒だろ」
「いきなりそんなこと言われても困るよ。子供を産むってすっごく大変なことなんだよ」
「大丈夫だよ。うまくいくよ」
「どうしてうまくいくなんて思うの?それに私たちは敵同士で……」
「志保」
隼人は真っ直ぐ志保の顔を見つめた。その眼差しの強さに圧倒され何も言えなくなってしまった。
「俺と別れてもいいのか。他の男と結婚して、そいつの子供産みてえのか」
隼人の言葉を聞きながら志保は迷っていた。隼人の言う通り、子供でもいなければ二人は離れてしまう。これは確実だ。しかし十八歳だからといって出産は早すぎると思った。
「だめだよ……。私……怖いよ……」
涙が出てきた。隼人の気持ちもわかる。しかし子供を産む勇気が今の志保にはなかった。隼人は志保を座らせると、頭を抱え込むようにして抱きしめた。
「言い過ぎた。怖い思いさせてごめん。でも俺はお前と一緒にいたいんだ。結婚して子供を作って幸せになりたいんだよ」
志保は小さく頷いた。その日はあまり二人とも話さなかった。
そんな話をされてしまったら、受験勉強など頭の中に入らない。志保は図書館に行くと子育ての本や出産についての本などをこっそりと読んだ。これも誰にもばれないように気をつけた。ミユキに相談したかったがミユキは男なので意味がない。一人で悶々と考えるしかなかった。隼人は受験勉強をしている。大学受験しないんじゃないの?と聞いたら一応やっておくと言われた。やはり隼人はよくわからない人だ。
ある日志保が部屋に泊まった時だ。思い出したように隼人が声をかけてきた。
「なあ、デートしてみねえか」
「デート?」
全く思っていない言葉だった。まさかこんなことを言ってくるとは。
「普通の恋人だったらするよな」
しかし志保は不安になった。
「でも二人で歩いてたら、誰かにばれるんじゃ」
すると隼人は床に大の字になって寝た。
「ああ、俺は志保とデートもできねえのかあ」
そしてじっと見つめてきた。志保は俯き考えた。
「……じゃあ、電車に乗ってどこか遠くに行こうか」
「遠くって?どこに行くんだよ」
起き上がりながら隼人が聞いた。
「とにかく遠く。私たちが一緒にいても大丈夫なところだよ」
自分でも何を言っているかわからなかった。だが隼人は頷いた。そして次の土曜日にデートをする約束をした。どこに行くのかはわからないが、二人とも楽しみだった。




