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天国と地獄と一人の男(仮)  作者: 末広 ガリ
地獄編~償~
8/20

07.地獄漫遊記

「フリーパス、ゲットだぜ!!!」


地獄に似つかわしくない、閑静な住宅街。

ここには獄卒鬼たちの住居がまとめて建っている。

その中でもひと際大きな、白ベースの一軒家で叫ぶのは、この物語の主人公である、神代龍哉その人。

御年(おんとし)152歳。


「うっせえ!こっちはまだ作業中なんだから黙ってろ。」


反応したのは、人手不足とは言えそれでも結構な数のいる獄卒鬼を、獄卒長として取り纏める阿坊。

双子の弟である吽坊と共に、地獄巡りをする龍哉の為、地図を作っている最中だ。

ちなみに現在1192歳である。


「はやくしてぇ。暇だよぉ父ちゃ~ん。」


特にやることがなくて暇な龍哉は、先ほどから何やらこそこそと作業をしている。


「誰が父ちゃんじゃ!こんなに似てない親子見たことないわ!」


阿坊は牛頭の鬼、龍哉は人頭の人である。


「あ、うん、阿坊君うるさいよ。もうその話終わったから。

お前が反応する直前に、俺が飽きて終わったから。

…そんなことよりさぁ、人に振り仮名って振れるのかなぁ。」


「どうしたのでござるか?藪から棒に。」


作業場を部屋の隅に移した阿坊に代わり、吽坊が答える。


「いや、名前の上にバカって書くことってあんじゃん?『木下(バカ)が呼んでるよ。』みたいなさ。

そんでさ、現実でもそれをやってみんの。

人の頭の上に、「バカ」って書いてある紙を乗せたりしてさ。」


「なるほど。」


「…うん。と言うことで、なんと今日は協力者をお呼びしました!みなさんご存知、阿坊ちゃんでーす!!」


タツヤはアボウをショウカンした!

しかし あらわれなかった。


「さっさとこい阿坊(あほう)。」


タツヤはアホウをショウカンした!


「うるせえェ!」


アホウがあらわれた。


「兄者…その、頭に…ルビが…。」


よく見ると、先ほどの龍哉の話のように、阿坊の頭には「あほう」と書いてある紙が、いつの間にか貼られていた。

いつの間につけたのだろうか。


「あん?………!!おい龍哉、なんだ「あほう」って!俺は「あぼう」だァ!」


「いや…何か俺もよく分からんのだが、濁点が夢の世界へ飛んで行ってしまったんだよ。

だからそう呼ぶしかなかったんだ、すまんな。」


「意味が分からんわ!大体夢の世界ってどこだよ!」


「そりゃあお前…心の中さ。」


若干遠い目をしながら、語る龍哉。


「「心」と言う漢字があるだろう?

恐らくお前は、右の点二つを置き忘れてきてしまったんだ。そう、若かりしあの頃へ…。

そしてバランスを失ったまま何百年も経過したお前の心は、もう崩壊寸前だったんだ。

だからそれを補うために、「あぼう」の「ぼ」が持っている濁点が急遽そっちへ行くことになったってわけさ…。

よかったな吽坊!お前の兄者は奇跡的に助かったようだぞ!」


「ううっ…本当に、本当に良かったでござるよ兄者…!某は…某はもういつ兄者が壊れてしまうかとっ…!!」


「吽坊…。心配かけたな…。」


抱き合う二人の背後には、地獄なのに夕日が見える。

その時龍哉は…


「あぁコレ…やりすぎたか?つか何故か吽坊の方がいつの間にか壊れてたな…。」


少し後悔。










数日後――



「さて、どこへ行こうかネ。」


あれから、うざったい兄弟愛を見せつつも彼らが完成させてくれた地獄案内マップを手に、現在のところ当てもなく地獄を歩いている龍哉。


「ン?これは…。」


龍哉が目にしたのは、同じ階層にある(とう)輪処(りんしょ)の項である。


「刀か…担当者も使えるのかナ…。」


どうやら「刀」の文字に惹かれた様子。


「素手での格闘は、とりあえず獄卒相手に圧勝できるまでになったシナ。

次は武器でも使ってみようカ。

防御面も、今まで喰らってきた鈍器とは違った鍛え方ができそうダシ。

…よし、ここに決めたヨ。」


そう言って、龍哉は刀輪処へと向かうのであった。





【刀輪処】

刀を使って殺生をした者が落ちる。10由旬の鉄の壁に囲まれており、地上からは猛火、天井から熱鉄の雨が亡者を襲う。また、樹木から刀の生えた刀林処があり、両刃の剣が雨のように降り注ぐ。人間界の火など、この世界の火に比べたら雪のように冷たい。





龍哉の目の前には、火に追われ、逃げ惑い、刀に切られ、火に焼かれる亡者達…と言った光景が広がっている。


「うン、なるほどネ。おーい、そこの獄卒君。僕もちょっとこの中に混ぜて貰えるかナ?」


「あ?何だお前は。」


「あぁ、何でもいいんだけどね、こういうのを持ってるわけヨ。」


そう言って、懐から自身の名前の入ったパスを取り出す龍哉。


「それは…分かった。自由に出入りしていいぞ。だがそういう物を持っている奴は、普通地獄から抜け出す筈なんだがな。」


「まぁ修行のためだヨ。ここでは肉体も精神も鍛えられるみたいだからネ。

精神力の強さに比例して、肉体が強くなっているように感じるだけかも知れンが。

どっちにしろ、死にながら鍛えられるってのはかなり美味しいナ。

というわけで、ここには刀剣の修業をしにきたヨ。

君は使えるかネ?ある程度まできたら相手をして欲しいのダガ。」


「なるほどな…いいだろう、相手をしてやる。

お前の期待通り俺は剣技を学んでいる。ここの担当になるには必須項目だからな。

ちなみに肉体に関しては前者が正解だ。本当に鍛えられている。」


「そうカ、感謝するヨ。それじゃ、また会おうネ。」


そうして龍哉は、刀輪処内部へと歩を進めて行くのであった――







Side 龍哉


フフフフフ…なるほどな、やはり刀剣は違う。

鬼の力で殴られてもビクともしない俺の体が、簡単に傷ついていくよ。

おまけに炎まであるし。

だが、こんなことで俺を止められると思うなよ…?

こんなモノ、すぐに克服してやるさ。

さて…極苦処と同じように、初めは炎に慣れることから始めるかな。

その後は回避・防御能力だ。俺の体はまだまだ伸ばせる余地がある。

鉄の棍棒を防げると言っても、俺の筋肉には隙間がある。

恐らく、薄い刃物によってその隙間をこじ開けるように傷がついていくんだろう。

だったら隙間をなくすまでだな。

目指せ、全身鋼人間!…いっそダイヤまでいくか?






三十年後――


「よう、バトルしようぜ。」


ここへ来てからしばらくの時が経ち、ようやく例の獄卒と文字通り勝負できるところまできた。


「やっときたか。一体何年待たせるんだと思っていたぞ。」


「まぁそう言うなよ。地獄が相手だと中々骨が折れるんだ。」


「当然だろう。罪人が罰を受ける場所なんだからな。さて、俺は西洋剣でいこうかな。」


そう言って奴は数ある刀剣群の中から、長剣を抜き取った。

ちなみに今回俺が持っているのは、ただの脇差である。


「んじゃ、始めっか。」


正直俺は刀なんて使ったことがなかった。

そりゃあそうだ、現代に生きていた人間なら、ある方が珍しいだろう。

刀輪処の中で適当に武器を拾って使ってみたりもしたが、やはり対人とそうでないのとでは、勝手が全然違うだろう。

なんせ相手は意思のある生物なのだ。


「…。」


そこまで考えて俺は、とりあえずありふれた袈裟斬りを放つことにした。

と言うか、放った。


「太刀筋がよろしくないな。」


しかし、結果は予想通り獄卒鬼(こいつ)には当たらず、風切り音だけが虚しく鳴った。

…やっぱり空振りって恥ずかしいね。


「次はこちらから行くぞ。ハッ!」


「くっ…うん、いい感じだ。」


その剣の描く軌跡は、鬼の体には似合わず、洗練された美しさを持っていた。

…さすがに(はや)い。さすがに鋭い。

大分鍛えたつもりだったが、避けきれず、防ぎきれずとはな…だが、これでいい。

こいつを乗り越えれば、俺はさらに強くなる。


つーか中で体鍛えておいてよかったよ。

防ぎきれなかったとは言え、それほど深くは傷ついてないからね。


「(なんだコイツの体は…俺の刃がほとんど通らないだと…。)

ふむ…獄卒奥義が一つ、《獄炎》。」


奴がそう言うと、剣身に炎が宿った。

流石は刀輪処担当だな、火の扱いはお手の物ってか。

ま、それは効かんがな。


「炎は既に、お友達ッ!」


「フンッ!」


…あれ?ちょっと熱いな。

気とか魔法とかそういうタイプなんかな。

そんで使用者が込める気の量によって、熱さが変わるとか。

でもこっちだって、“それに比べれば人間界の炎など雪の如し”とかって言われる地獄の炎を克服してるんですけど。

周りの炎の影響か?

地獄にいるから簡単にそこの炎を纏えて、尚且つ自分の気・魔力量分の火力をプラスできるみたいな。

…よく分からんな。

よく分からんけど、超えて見せよう。





………。




「ふむ…刀の扱いはまだまだだが、それ以外はかなり高い次元にきてるな。俺の攻撃がほとんど通用せんとは。」


今回は様子見と言うことで、とりあえず数十分やりあったところで仕合を終えた。


「まぁ努力してますから。

でも剣よりも鋭利な刀を使えば、もっと傷をつけられるハズだよ。

君達クラスの斬撃は、まだ無効化できないからね。

…じゃあこんな感じで、これからはしばらく相手して頂戴。」


「分かった。太刀捌きとか教えようか?」


「いや、自己流でやりたいからいらない。気遣いありがとう。」


俺は相変わらず、モノを教わるのが嫌いみたいだな。


「分かった。じゃあまたな。」


「うん、またねん。」



彼と別れた俺は、更なる研鑽を積むために、再び刀輪処へと足を進めた――


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