06.拒否
ようやく男の名前が出ます。
【極苦処】
Side 男
ここへ来てから80年、相変わらず、鍛練の日々です。
「おーい、其処な坊主―。」
まずは熱さを受け入れるところから始め、只管無心になってみたり、熱と対話しようとしてみたり…25年かけて、ようやく平気になりました。
何も感じなくなったわけではなく、自分と熱が一体になったような感覚ですかね。
熱は感じるんですが、私の体を焼こうとしないんですよ。
そのお陰で、穴を登ったりするのも容易にできるようになりました。
もう熱は、私のお友達です!
「…聞こえてないのか?おーい!」
次にやったのは、獄卒鬼に投げられることで、自分の体を打たれ強くすることですね。
登っては投げられ、登っては投げられ…繰り返すこと15年、今では“なんとかさんの全力のなんとか投げ”を、こちらが完全に無防備な状態で喰らっても、痛くも痒くもありませんちめんたる。
いやあ、死なない体って便利ですねぇ。
無茶な鍛え方でも体が壊れないんですから!
「あれ、あいつこっち見てね?こら小僧、返事せんかい!」
何かさっきから煩いですね…。
その次が、“私を投げようと近づいてくる獄卒さん達との、戦闘行為”です。
さすがは鬼でしたね、どいつもこいつも戦闘能力が半端じゃないです。
ただ投げられるだけだった前の鍛練とは違い、相手も明確な意思を持って攻撃してくるので、痛かったです。
「鈍器のようなもの」で殴られると、当たった部位が文字通り吹き飛びました。
そこでまずは、回避能力を重点に鍛えました。
結果的には8年弱で、1対5程度なら完璧に避けられるようにまでなりました。
更にその過程での副産物として、殴られ続けた体は、いくら殴られても痛くないし吹き飛ばない、強靭な肉体へと変わってくれました。
そしてようやく、攻撃能力を鍛え始めることができたんですが…。
今までの48年間、来る日も来る日も穴を登り続け、打たれ続け、避け続けた結果、体全体の筋力が相当高くなっていることが分かったんです。
鬼が、ただのパンチ一発で悶絶するんですもん。
とはいえ、技術の方はまだまだでしたからね。初めのうちは、なかなか思うように攻撃が決まりませんでした。
そこで、回避強化で培った動体視力を使ってみたり、理想の型を追及していった結果……30年後には1対10でも完勝できるようになりました!
攻撃の流れなどを体に馴染ませるのに、一番時間を使いましたね。
この時点でとりあえずここには用がなくなりましたが、他に行く当てもないので、そこから現在に至るまでは、毎日獄卒達と喧嘩しながら過ごしていました。
「あの…君…。」
今までの出来事を振り返っていると、突然モブ獄卒が話しかけてきました。
「何ですか?」
「あの三人が、さっきから君の事呼んでるよ。」
えっ…あれ俺のこと呼んでたの?
でもまぁ…無視しようかなぁ…面倒だし。
「おい!聞こえてんだろ!そこの!無視すんなコラ!」
「兄者、落ち着いて…。大王も、無視されたからって落ち込まないで下さい。正直気持ち悪いでござる。」
うわぁ…うわぁ……。
4m超えのおっさんがいじけてるのって、なんかこう…目にクるな…。
「畜生、ムカツクZEEEEE!!!」
「…!兄者!?」
なんかきた。
こいつは確か阿坊だな…メンドくせぇ。
とりあえず殴っとくか。
「返事しろって、言ってんdぷげらッッ!」
フハハハハハ!
この私の前では、獄卒長も形無しだな!
こうなると、苦労した甲斐があったってもんだ。
「あれ、俺の事呼んでたの?」
「「「「「 (ええェ~ッ!?)」」」」」
「いや…お前、気づいてただろ…。」
「もちろん。で、用件は?」
「あぁー…まぁとりあえず別の場所で話そう。」
「おっけー。」
さて、何の話なのかね…。
Side out
Side 吽坊
無事(?)件の男と合流できた某らは、兄者と某の住んでいる家で、彼に事の詳細を説明しているでござる。
「(魔法の言葉、かくかくしかじか)で、(まるまるうしうし)なわけじゃ。」
本当に便利な言葉でござるな!
「…なるほどね。それで、どうするつもりなの?」
「儂の権限で、坊主を地獄から出してやろうかと思っている。こんなことで、坊主への贖罪になるとも思えんが…。」
そうだ。彼には本当に済まないことをしてしまった。(主に閻魔が)
今まで気付けなかった某らも、少なからず罪に加担していたようなものでござる!(閻魔は“ようなもの”ではないけど)
「んー…やだ。」
…!?
「何っ!?何故じゃ!?」
地獄に残りたい理由などあるのでござろうか。
某達が見てきたのは、やめてくれと懇願する者や、狂ってしまい人語を話せなくなったような者ばかり。
彼のような者は初めてだ。
「いやァ、まだ一箇所しか行ってないからね。
まだまだ使える“アトラクション”ありそうだし、ここで鍛えて色々身に着けたいんだよ。」
なるほど、それであのような――なんとかさんが愚痴りたくなるような――状況になって居たのでござるか。
それにしても、地獄を遊技施設扱いとは…。
「そうか…しかしこのままでは儂の気持ちが収まらん。何かできることはないかのう…?」
「つーか、地獄に落とされたことは、気にしてないよ。
自殺の時点で覚悟してたし、期間のことだって別にどうでも。怒るとかそういうの、よく分からないから。
まぁそれでも何かしたいって言うなら、どこでも自由に出入りできる、「フリーパス」みたいなのが欲しいな。色々回りたいし。」
…この者の感情には、まだ現世での影響が残っているみたいでござるな。
この子をこんな風にした奴らを呪い殺してやりたいのう。
そんなことをしても、彼は喜ばんだろうが。
それよりも、多少歪みつつも、優しい人間のままでいられたこの者の芯の強さを、某も見習わなくては。
「相分かった。各階層間を一瞬で移動できる、職員通用口も使えるようにしておこう。」
「俺達の家も使っていいぜ。拠点みたいなのがないと不便だろ。」
「ありがとさん。合鍵頂戴ね。」
…彼女かっ!
「では儂は一旦パスを作りに戻る。出来上がったらこの家に届けさせよう。」
「じゃあ俺は、地獄のマップでも作るか。」
「兄者が進んで頭脳派らしきことをするとは…。」
この者の力になってやりたくなったのかのう。
まぁ某も同じようなものでござるが。
惹きつけられるような、不思議な魅力を持っているように感じる。
「うるせえよ。お前も手伝え。」
「承知。」
「あぁそうじゃ、パスに名前書くから、坊主の名前を教えてくれい。」
「んー…神代 龍哉だ。」
「神代…龍哉じゃな…。
よし、了解じゃ。他にも何か困ったことがあったら、遠慮なく言ってくれ。
儂は大抵冥界にいるからのう。坊主と最初に会った場所じゃ。
…それでは、また、の。」
「あぁ、またな。」「じゃあなー。」「また。」
さて、某らも取り掛かるとするでござるか。
振り仮名がないと読めないようなのは嫌なので、厨二臭がしつつも現実的な名前にしておきました。
設定上の理由というのもあり、一応龍哉くんもそれは承知してくれています。
名乗る時に若干の間があったのは、自分でも厨二っぽいと思っているからです。






