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天国と地獄と一人の男(仮)  作者: 末広 ガリ
地獄編~償~
7/20

06.拒否

ようやく男の名前が出ます。

【極苦処】




Side 男


ここへ来てから80年、相変わらず、鍛練の日々です。



「おーい、其処な坊主―。」



まずは熱さを受け入れるところから始め、只管(ひたすら)無心になってみたり、熱と対話しようとしてみたり…25年かけて、ようやく平気になりました。

何も感じなくなったわけではなく、自分と熱が一体になったような感覚ですかね。

熱は感じるんですが、私の体を焼こうとしないんですよ。

そのお陰で、穴を登ったりするのも容易にできるようになりました。

もう熱は、私のお友達です!



「…聞こえてないのか?おーい!」



次にやったのは、獄卒鬼に投げられることで、自分の体を打たれ強くすることですね。

登っては投げられ、登っては投げられ…繰り返すこと15年、今では“なんとかさんの全力のなんとか投げ”を、こちらが完全に無防備な状態で喰らっても、痛くも痒くもありませんちめんたる。

いやあ、死なない体って便利ですねぇ。

無茶な鍛え方でも体が壊れないんですから!



「あれ、あいつこっち見てね?こら小僧、返事せんかい!」



何かさっきから煩いですね…。

その次が、“私を投げようと近づいてくる獄卒さん達との、戦闘行為”です。

さすがは鬼でしたね、どいつもこいつも戦闘能力が半端じゃないです。

ただ投げられるだけだった前の鍛練とは違い、相手も明確な意思を持って攻撃してくるので、痛かったです。

「鈍器のようなもの」で殴られると、当たった部位が文字通り吹き飛びました。

そこでまずは、回避能力を重点に鍛えました。

結果的には8年弱で、1対5程度なら完璧に避けられるようにまでなりました。

更にその過程での副産物として、殴られ続けた体は、いくら殴られても痛くないし吹き飛ばない、強靭な肉体へと変わってくれました。

そしてようやく、攻撃能力を鍛え始めることができたんですが…。

今までの48年間、来る日も来る日も穴を登り続け、打たれ続け、避け続けた結果、体全体の筋力が相当高くなっていることが分かったんです。

鬼が、ただのパンチ一発で悶絶するんですもん。

とはいえ、技術の方はまだまだでしたからね。初めのうちは、なかなか思うように攻撃が決まりませんでした。

そこで、回避強化で培った動体視力を使ってみたり、理想の型を追及していった結果……30年後には1対10でも完勝できるようになりました!

攻撃の流れなどを体に馴染ませるのに、一番時間を使いましたね。

この時点でとりあえずここには用がなくなりましたが、他に行く当てもないので、そこから現在に至るまでは、毎日獄卒達と喧嘩しながら過ごしていました。



「あの…君…。」


今までの出来事を振り返っていると、突然モブ獄卒が話しかけてきました。


「何ですか?」


「あの三人が、さっきから君の事呼んでるよ。」


えっ…あれ俺のこと呼んでたの?

でもまぁ…無視しようかなぁ…面倒だし。


「おい!聞こえてんだろ!そこの!無視すんなコラ!」


「兄者、落ち着いて…。大王も、無視されたからって落ち込まないで下さい。正直気持ち悪いでござる。」


うわぁ…うわぁ……。

4m超えのおっさんがいじけてるのって、なんかこう…目にクるな…。


「畜生、ムカツクZEEEEE!!!」

「…!兄者!?」


なんかきた。

こいつは確か阿坊だな…メンドくせぇ。

とりあえず殴っとくか。


「返事しろって、言ってんdぷげらッッ!」


フハハハハハ!

この私の前では、獄卒長も形無しだな!

こうなると、苦労した甲斐があったってもんだ。


「あれ、俺の事呼んでたの?」


「「「「「 (ええェ~ッ!?)」」」」」


「いや…お前、気づいてただろ…。」


「もちろん。で、用件は?」


「あぁー…まぁとりあえず別の場所で話そう。」


「おっけー。」


さて、何の話なのかね…。




Side out








Side 吽坊


無事(?)件の男と合流できた某らは、兄者と某の住んでいる家で、彼に事の詳細を説明しているでござる。




「(魔法の言葉、かくかくしかじか)で、(まるまるうしうし)なわけじゃ。」


本当に便利な言葉でござるな!


「…なるほどね。それで、どうするつもりなの?」


「儂の権限で、坊主を地獄から出してやろうかと思っている。こんなことで、坊主への贖罪になるとも思えんが…。」


そうだ。彼には本当に済まないことをしてしまった。(主に閻魔が)

今まで気付けなかった某らも、少なからず罪に加担していたようなものでござる!(閻魔は“ようなもの”ではないけど)


「んー…やだ。」


…!?


「何っ!?何故じゃ!?」


地獄に残りたい理由などあるのでござろうか。

某達が見てきたのは、やめてくれと懇願する者や、狂ってしまい人語を話せなくなったような者ばかり。

彼のような者は初めてだ。


「いやァ、まだ一箇所しか行ってないからね。

まだまだ使える“アトラクション”ありそうだし、ここで鍛えて色々身に着けたいんだよ。」


なるほど、それであのような――なんとかさんが愚痴りたくなるような――状況になって居たのでござるか。

それにしても、地獄を遊技施設扱いとは…。


「そうか…しかしこのままでは儂の気持ちが収まらん。何かできることはないかのう…?」


「つーか、地獄に落とされたことは、気にしてないよ。

自殺の時点で覚悟してたし、期間のことだって別にどうでも。怒るとかそういうの、よく分からないから。

まぁそれでも何かしたいって言うなら、どこでも自由に出入りできる、「フリーパス」みたいなのが欲しいな。色々回りたいし。」


…この者の感情には、まだ現世での影響が残っているみたいでござるな。

この子をこんな風にした奴らを呪い殺してやりたいのう。

そんなことをしても、彼は喜ばんだろうが。

それよりも、多少歪みつつも、優しい人間のままでいられたこの者の芯の強さを、某も見習わなくては。


「相分かった。各階層間を一瞬で移動できる、職員通用口も使えるようにしておこう。」


「俺達の家も使っていいぜ。拠点みたいなのがないと不便だろ。」


「ありがとさん。合鍵頂戴ね。」


…彼女かっ!


「では儂は一旦パスを作りに戻る。出来上がったらこの家に届けさせよう。」


「じゃあ俺は、地獄のマップでも作るか。」


「兄者が進んで頭脳派らしきことをするとは…。」


この者の力になってやりたくなったのかのう。

まぁ某も同じようなものでござるが。

惹きつけられるような、不思議な魅力を持っているように感じる。


「うるせえよ。お前も手伝え。」


「承知。」


「あぁそうじゃ、パスに名前書くから、坊主の名前を教えてくれい。」


「んー…神代(かみしろ) (たつ)()だ。」


「神代…龍哉じゃな…。

よし、了解じゃ。他にも何か困ったことがあったら、遠慮なく言ってくれ。

儂は大抵冥界にいるからのう。坊主と最初に会った場所じゃ。

…それでは、また、の。」


「あぁ、またな。」「じゃあなー。」「また。」



さて、某らも取り掛かるとするでござるか。


振り仮名がないと読めないようなのは嫌なので、厨二臭がしつつも現実的な名前にしておきました。

設定上の理由というのもあり、一応龍哉くんもそれは承知してくれています。

名乗る時に若干の間があったのは、自分でも厨二っぽいと思っているからです。

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