05.不審
あまり面白くないです。
「ぎゃあああぁぁ!」
「も、もうやめ…うわああっ!!」
地獄には、今日も悲鳴が響く。
Side 阿坊
よう!
泣く子も黙る牛頭馬頭兄弟の兄、阿坊だ!
今は弟と一緒に、地獄の見回りをしている。
「いやーこの悲鳴を聞いていると、仕事してるって気になるよなぁ~。」
「そうでござるな、兄者。
しかし仕事に精を出すのもいいが、そのやる気を家事の方にも少しは回してくれると、ありがたいのだが。」
「ま、まぁ善処するよ…いつもありがとうな、吽坊。」
弟には俺のサポート役として、色々と助けてもらっている。
言ってなかったが、俺達にも家はあるんだぜ?
一応獄卒鬼の中ではトップにいるから、それなりにいい家に住んでいるつもりだ。
「うむ…。ところで兄者、昨日また極苦処の担当者が愚痴を言っていたぞ。」
「あぁ、あの…えっと…なんとかって奴か。」
あいつ、いつもうるせぇんだよなぁ。
「そうだ。内容は相変わらず、自分のところで罰を受けている罪人のことでござったよ。」
なんでも、そいつにとって極苦処程度は、罰になっていないだとかなんとかってことらしい。
だからと言って、こちらで勝手に場所を変えることなどはできないけどな。
生前犯した罪によって決まるものなんだから。
しかし…。
「うーん、いい加減見に行ってやるか。」
そう言って、俺達は極苦処へと歩を進めた
………。
極苦処へ着いた俺達が見たものは、亡者達が鉄の上で焼かれる姿や、穴の中へと投げ込まれる様子。
呻き声や叫び声がそこかしこから聞こえており、まさに『これぞ地獄!』と言ったところだ。
しかしその中に一箇所だけ、妙な空気の場所があった。
「そんじゃ、もう一本。」
「ぐぬぬ…いい加減こっちが疲れてきたわい。」
「だらしねぇえな、それでも鬼かよ。」
「「 ● ● ● 」」
俺達が見たのは、男が鬼と一対一で格闘している姿だった。
沈黙が続く中、静寂を破ったのは俺。
「…いや、なにあれ。」
こんな言葉しか出てこなかった自分が恨めしいっ!
「なるほど、あれでは確かに、愚痴りたくもなるでござるなぁ…。」
「ありえないでしょ、何なのあいつ。」
「あれは確か、80年程前に此処へ来た者でござるな。
地獄へ来たのに妙に落ち着いていたので、よく覚えておる。」
「…あー、鬼の俺達に向かって、『頑張って』とかぬかした野郎か。」
そういや居たなぁ、そんな変な奴が。
刑が始まれば、すぐに泣き喚くようになるだろうと思っていたが…。
「どうしてこうなった…。いや、ホントに…。」
奴は俺達鬼でさえ、多少の熱さを感じる鉄火の上で、涼しい顔をして立っている。
逆に相手の鬼の方は、戦った疲れもあってか、苦しそうだ。
思わず頭を抱えてしまう俺…。
「…ありゃあただの人間じゃねぇな。」
「某も同感でござる。一度閻魔大王のところへ赴くべきかと。」
「だな。そうと決まりゃあさっさと行くぞ。」
職員通用口からなら、一瞬で上まで行けるしな。
「承知。」
Side out
Side エンマ
「エンマさんこんちゃー。」
儂がいつものように仕事をしていると、牛頭馬頭兄弟が訪ねてきおった。
「………なるほどのう。あの坊主は確かに、他とは違う雰囲気じゃった。
冥界(エンマがいるところ)へ来てすぐに、体の方も適応してたしのう。」
定期連絡の日でもないのにこちらへ来るのは珍しいなと思い、どうしたのか尋ねると、返ってきたのはあの時の坊主に関することじゃった。
130年前に、体の馴染みが早い男がきたのを、憶えておる。
「あいつについて詳しいことを教えてくれ。1000年分もの罪を犯すような、悪人にも見えなかったしな。」
そういえばこやつ達は、基本的に簡易書類しか見ないんじゃったのう。
詳しいことか…あれ?儂もほとんど知らんのう…。
「期間についてはアレじゃ、元々はただの自殺で100年じゃったんじゃが、態度が気に食わなくて10倍にしたわ。」
「…おいいいい!またかよ!裁定を下す奴が、そうやって自分の感情に流されやがって!」
「閻魔大王のせいで、彼の面倒をあと920年も見なければならないのでござるか…。
その間ずっと、なんとかさんの愚痴を聞かなければならないと思うと、悲しくなってくるでござるなぁ…。」
「つーかあれがずっとあそこに居たら、極苦処の奴ら辞めちゃうよ!
人手不足なんだよ!どうしてくれんのよ!」
「落ち着けお前達。」
「あんたのせいだよ!」「あなたのせいです!」
「いや…うむ。とりあえず、実は儂もあの坊主のことはよく知らんから、水晶で過去を覗いてみよう。」
「完全に主観のみで刑期10倍にしたのかよ…。まぁいい、さっさと覗くぞ。」
「承知。」
一応儂の方が偉いんじゃけど、分かっとるんじゃろうか…。
儂が念じると、水晶にはあの坊主の過去が浮かび上がり、儂らがそれを覗きこむと、映像が頭に流れ込んできた――
………。
「生まれた時は普通の奴だな。家もまぁ…何の変哲もない普通の家族に見える。」
「弟が生まれた時あたりから、両親の仲が悪くなり、後に家庭内別居状態か。何一つしてくれない父親にも、身内で唯一優しく接しておるのう。」
「どの方面に対しても、潜在能力がかなり高いようでござるな。興味を惹かれるものがないようで、ほとんど活用できていませんが…。」
「友人だと思っていた者が、影では敵対者。さらに別の者によって、一方的に悪者にされる…。そういうことがあっても、彼自身は積極的に他人を助けているようじゃがな。」
「友人や家族にすら“都合のいい便利屋のような存在”として、いいように使われてきたようじゃな。能力の高さと、底抜けに優しい性格につけ込まれたんじゃのう。」
「その性格についても彼は理解していたようで、小さい頃から悩み続けていたようですな。なぜ自分を責めるのか…彼の所為ではないと言うのに…。」
「段々と感情も希薄になってしまったようじゃのう。本来は繊細で優しく、真面目な人間だったようじゃ。」
「プライドが高く、頭もいいため他人の意見を必要としない傾向にあり、全てを一人で背負い込んでしまう性格のようだが、この状況ではそれも仕方ないと言えるな。」
「環境や周りの人間のみならず、単純に諸々の運にも恵まれておりませんね。そういう状況が続いて、生きることに嫌気がさしてしまったのでござろうか。」
「笑顔も殆どなくなってしまった。他人と関わることを避けるようにもなってしまったのう。」
「愛情や友情と共に、ありえないと思いつつも、“非日常”にも憧れのようなものを抱いているな。」
「こやつの日常、こやつの目に映る世界は、理不尽と苦悩で溢れておる。ずっとそんな日常から解放されたいと願っていたようじゃのう。」
「そして欲しかった理解者は結局現れず、孤独を抱えたまま、限界が来て自害に至った、か…。」
………。
「「「………。」」」
これほどとは、のう。
「なんと悲しい子じゃ…うぅっ。」
「泣くなよ…。つかこんな奴がなんで地獄に居んの…。」
「それは、軽率な大王の所為でござるな。」
「ようやく不運な人生を終えたと思ったら、今度は地獄に1000年だもんな。幸薄すぎ。」
「だって、所謂“不幸な人間”のような感じじゃなかったんじゃもん。」
そういう者は、一目見れば分かる。
悪い意味で、オーラが違うからのう。
彼奴はむしろ、幸せそうじゃった…が、今になって考えてみると、死ねたことが嬉しかったんじゃろうのう…。
「『もん』じゃねぇよ。可愛くねえぞ。…まぁ確かに、そんな素振りは見せてなかったけどな…。」
「彼が今いるのは、徒に殺生を行った者が行く場所にござる。
しかし殺生どころか、むしろできるだけ虫や動物などの命を、助けようとしていたみたいでござるな。」
「しかもその匙加減が上手いんだよな。」
「まぁその時も、助けられない命を見ては、悲しんでいたようじゃがな…。」
「…なぁエンマさん、こいつ、何とかならんかねぇ。」
「…これでも儂は冥界の王じゃ、それなりの権限は持っとる。
人ひとりの裁定を“なかったこと”にするくらいは可能じゃわい。」
「マジか!?じゃあさっさとあいつんトコ行こうぜ!」
「そう急かすな、すぐ行くわ。」
「いや、アンタは一番急ぐべきだろ…。」
「その通りでござる。」
「……。」




