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天国と地獄と一人の男(仮)  作者: 末広 ガリ
地獄編~償~
6/20

05.不審

あまり面白くないです。

「ぎゃあああぁぁ!」


「も、もうやめ…うわああっ!!」



地獄には、今日も悲鳴が響く。






Side 阿坊


よう!

泣く子も黙る牛頭馬頭兄弟の兄、阿坊だ!

今は弟と一緒に、地獄の見回りをしている。



「いやーこの悲鳴を聞いていると、仕事してるって気になるよなぁ~。」


「そうでござるな、兄者。

しかし仕事に精を出すのもいいが、そのやる気を家事の方にも少しは回してくれると、ありがたいのだが。」


「ま、まぁ善処するよ…いつもありがとうな、吽坊。」


弟には俺のサポート役として、色々と助けてもらっている。

言ってなかったが、俺達にも家はあるんだぜ?

一応獄卒鬼の中ではトップにいるから、それなりにいい家に住んでいるつもりだ。


「うむ…。ところで兄者、昨日また極苦処の担当者が愚痴を言っていたぞ。」


「あぁ、あの…えっと…なんとかって奴か。」


あいつ、いつもうるせぇんだよなぁ。


「そうだ。内容は相変わらず、自分のところで罰を受けている罪人のことでござったよ。」


なんでも、そいつにとって極苦処程度は、罰になっていないだとかなんとかってことらしい。

だからと言って、こちらで勝手に場所を変えることなどはできないけどな。

生前犯した罪によって決まるものなんだから。

しかし…。


「うーん、いい加減見に行ってやるか。」



そう言って、俺達は極苦処へと歩を進めた





………。





極苦処へ着いた俺達が見たものは、亡者達が鉄の上で焼かれる姿や、穴の中へと投げ込まれる様子。

呻き声や叫び声がそこかしこから聞こえており、まさに『これぞ地獄!』と言ったところだ。

しかしその中に一箇所だけ、妙な空気の場所があった。





「そんじゃ、もう一本。」


「ぐぬぬ…いい加減こっちが疲れてきたわい。」


「だらしねぇえな、それでも鬼かよ。」







「「 ●  ●  ● 」」





俺達が見たのは、男が鬼と一対一で格闘している姿だった。



沈黙が続く中、静寂を破ったのは俺。


「…いや、なにあれ。」


こんな言葉しか出てこなかった自分が恨めしいっ!


「なるほど、あれでは確かに、愚痴りたくもなるでござるなぁ…。」


「ありえないでしょ、何なのあいつ。」


「あれは確か、80年程前に此処へ来た者でござるな。

地獄へ来たのに妙に落ち着いていたので、よく覚えておる。」


「…あー、鬼の俺達に向かって、『頑張って』とかぬかした野郎か。」


そういや居たなぁ、そんな変な奴が。

刑が始まれば、すぐに泣き喚くようになるだろうと思っていたが…。


「どうしてこうなった…。いや、ホントに…。」


奴は俺達鬼でさえ、多少の熱さを感じる鉄火の上で、涼しい顔をして立っている。

逆に相手の鬼の方は、戦った疲れもあってか、苦しそうだ。

思わず頭を抱えてしまう俺…。


「…ありゃあただの人間じゃねぇな。」


「某も同感でござる。一度閻魔大王のところへ赴くべきかと。」


「だな。そうと決まりゃあさっさと行くぞ。」


職員通用口からなら、一瞬で上まで行けるしな。


「承知。」




Side out











Side エンマ



「エンマさんこんちゃー。」



儂がいつものように仕事をしていると、牛頭馬頭兄弟が訪ねてきおった。



「………なるほどのう。あの坊主は確かに、他とは違う雰囲気じゃった。

冥界(エンマがいるところ)へ来てすぐに、体の方も適応してたしのう。」


定期連絡の日でもないのにこちらへ来るのは珍しいなと思い、どうしたのか尋ねると、返ってきたのはあの時の坊主に関することじゃった。

130年前に、体の馴染みが早い男がきたのを、憶えておる。


「あいつについて詳しいことを教えてくれ。1000年分もの罪を犯すような、悪人にも見えなかったしな。」


そういえばこやつ達は、基本的に簡易書類しか見ないんじゃったのう。

詳しいことか…あれ?儂もほとんど知らんのう…。


「期間についてはアレじゃ、元々はただの自殺で100年じゃったんじゃが、態度が気に食わなくて10倍にしたわ。」


「…おいいいい!またかよ!裁定を下す奴が、そうやって自分の感情に流されやがって!」


「閻魔大王のせいで、彼の面倒をあと920年も見なければならないのでござるか…。

その間ずっと、なんとかさんの愚痴を聞かなければならないと思うと、悲しくなってくるでござるなぁ…。」


「つーかあれがずっとあそこに居たら、極苦処の奴ら辞めちゃうよ!

人手不足なんだよ!どうしてくれんのよ!」


「落ち着けお前達。」


「あんたのせいだよ!」「あなたのせいです!」


「いや…うむ。とりあえず、実は儂もあの坊主のことはよく知らんから、水晶で過去を覗いてみよう。」


「完全に主観のみで刑期10倍にしたのかよ…。まぁいい、さっさと覗くぞ。」


「承知。」


一応儂の方が偉いんじゃけど、分かっとるんじゃろうか…。





儂が念じると、水晶にはあの坊主の過去が浮かび上がり、儂らがそれを覗きこむと、映像が頭に流れ込んできた――




………。




「生まれた時は普通の奴だな。家もまぁ…何の変哲もない普通の家族に見える。」


「弟が生まれた時あたりから、両親の仲が悪くなり、後に家庭内別居状態か。何一つしてくれない父親にも、身内で唯一優しく接しておるのう。」


「どの方面に対しても、潜在能力がかなり高いようでござるな。興味を惹かれるものがないようで、ほとんど活用できていませんが…。」


「友人だと思っていた者が、影では敵対者。さらに別の者によって、一方的に悪者にされる…。そういうことがあっても、彼自身は積極的に他人を助けているようじゃがな。」


「友人や家族にすら“都合のいい便利屋のような存在”として、いいように使われてきたようじゃな。能力の高さと、底抜けに優しい性格につけ込まれたんじゃのう。」


「その性格についても彼は理解していたようで、小さい頃から悩み続けていたようですな。なぜ自分を責めるのか…彼の所為ではないと言うのに…。」


「段々と感情も希薄になってしまったようじゃのう。本来は繊細で優しく、真面目な人間だったようじゃ。」


「プライドが高く、頭もいいため他人の意見を必要としない傾向にあり、全てを一人で背負い込んでしまう性格のようだが、この状況ではそれも仕方ないと言えるな。」


「環境や周りの人間のみならず、単純に諸々の運にも恵まれておりませんね。そういう状況が続いて、生きることに嫌気がさしてしまったのでござろうか。」


「笑顔も殆どなくなってしまった。他人と関わることを避けるようにもなってしまったのう。」


「愛情や友情と共に、ありえないと思いつつも、“非日常”にも憧れのようなものを抱いているな。」


「こやつの日常、こやつの目に映る世界は、理不尽と苦悩で溢れておる。ずっとそんな日常から解放されたいと願っていたようじゃのう。」


「そして欲しかった理解者は結局現れず、孤独を抱えたまま、限界が来て自害に至った、か…。」






………。





「「「………。」」」



これほどとは、のう。



「なんと悲しい子じゃ…うぅっ。」


「泣くなよ…。つかこんな奴がなんで地獄に居んの…。」


「それは、軽率な大王の所為でござるな。」


「ようやく不運な人生を終えたと思ったら、今度は地獄に1000年だもんな。幸薄すぎ。」


「だって、所謂“不幸な人間”のような感じじゃなかったんじゃもん。」


そういう者は、一目見れば分かる。

悪い意味で、オーラが違うからのう。

彼奴はむしろ、幸せそうじゃった…が、今になって考えてみると、死ねたことが嬉しかったんじゃろうのう…。


「『もん』じゃねぇよ。可愛くねえぞ。…まぁ確かに、そんな素振りは見せてなかったけどな…。」


「彼が今いるのは、徒に殺生を行った者が行く場所にござる。

しかし殺生どころか、むしろできるだけ虫や動物などの命を、助けようとしていたみたいでござるな。」


「しかもその匙加減が上手いんだよな。」


「まぁその時も、助けられない命を見ては、悲しんでいたようじゃがな…。」


「…なぁエンマさん、こいつ、何とかならんかねぇ。」


「…これでも儂は冥界の王じゃ、それなりの権限は持っとる。

人ひとりの裁定を“なかったこと”にするくらいは可能じゃわい。」


「マジか!?じゃあさっさとあいつんトコ行こうぜ!」


「そう急かすな、すぐ行くわ。」









「いや、アンタは一番急ぐべきだろ…。」


「その通りでござる。」


「……。」


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