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09.神々の住まう場所

Side 龍哉


「神代龍哉さんですね?私は天界の案内を任されている、ガ=イードという者です。

…名前については納得しておりますので、そんな可哀相な者を見るような目をしないでください。」


「…よ、よろしく。」



転移先にいた男は、どうやらガイドさんだったらしい。

一見すると人間の様だが、彼の背後には白い羽らしきものが見える。…天使か?


「えー、まずはここの説明ですね。

もうご存知でしょうが、ここは天界と呼ばれる場所です。

神や天使、人間などが住んでおり、全ての人間は磨きあげられた魂を持つ者達です。」


「人間以外は違うのか?」


「ええ。そもそも人間以外の者達はここで生まれますので、魂がどうとかは関係がないのです。

次に居住区についてですが、種族別――人、神、天使など――に分けられたエリアがありまして、基本的にはそのエリア内に住んでいただきます。

今あちらに見えているのが、人の生活しているところです。

転移しますので、残りの説明はそちらでしましょうか。」


そう言って、私の肩に天使が触れた瞬間、私たちは先程まで遠くに見えていた街の中へと移動していた――




「おお!魔法使っちゃうなんて、さすがは天使だな!」


私の心は初めて生で見る魔法に、少し興奮してしまっているようだ。


「ええ、転移魔法が得意なので、案内役になったんですよ。

それで…まずは住む家を決めましょうか。

空いている好きな所でいいですよ、建ちますから。」


建つ…?

まさか……ま た 魔 法 か!


「えーと…それじゃ、地図みたいなのあるかい?」


一応何があるか把握してから建てたいしな。

そう言うと、イード氏は懐から地図を出してくれた。

……ふむ、街の出入り口付近は嫌だよな。

かと言って店が集中している中心街に近いのも煩そうだ。

中心と出入り口の間が妥当なとこか。妥当過ぎてつまんねえな。

んー…まぁいいや、飽きたら建て替えよっと。


「この辺でー。」


「分かりました、実際に行ってみましょう。」


俺が候補地を告げると、またもや転移でそこへ移動した。



……。



ローマを思わせる、石畳でできた広い道路。

家がズラリと並ぶような感じではなく、一軒一軒がいくらか離れている。

ひとつひとつの敷地が広そうだ。



「…ふむ、まぁいいんじゃないか?

普通なんて言葉からは程遠い私だが、たまにはこういう中間地点にいるのも悪くないだろう。」


「ではここ、と言うことで。」


そう言って、イード氏は懐に手を入れる。

家を建てるのだろう。

杖か?杖とか出すのか?

魔法と言ったら杖だもんな。

得意な転移魔法は杖なしでも余裕だが、建築系等には必要なんだろう。

さあ、見せてくれ!魔法の力を!


「………あ、もしもし?イードです。

ええ、新規の方の家を…はい、はい。

…K地区の24番地付近です。

はい、お待ちしております。それでは失礼します。」


「……。」


「業者の方ですが、15分後にきてくれるそうです。

大体の間取り等決めておきましょうか。」


「……。」


「あれ、どうしたんですか?

神代さーん?」


「……んで……なんでなんだッ…!」


業者だとっ!?魔法じゃないのかっ!

――私の心は絶望に打ちひしがれ、思わず失意体前屈をしてしまった。

地面を17回ほどノックしたところで、私はようやく我に返った。


「はァ…イード氏、だからあなたはイード氏なんだよ…。

まぁいいや…間取りだったな。

とりあえず地下室有りで。地下含めて四階建ての、各階二部屋ずつ二十畳くらいの広さで。

トイレも各階によろしく。もちろん風呂とは別ね。

一階の一部屋は和室でお願い。玄関は靴を脱ぐタイプで。

…と、こんなもんかな。あとは気になったらこっちで勝手に弄るからいいよ。」


「人の名前を悪口のように言わないでください…。

間取りの件、承知しました。

…っと、どうやら業者の方が来られたようですね。

今の内容を伝えてきます。」




………。




工事が終わるまでの間、俺はイード氏と暮らすことになった。

彼は天使だが、仕事柄人間のエリアにも家を持っていたらしい。


イード氏の家に居る間に分かったことは、やっぱ魔法SUGEEEE!!ということ。

…いやむしろ天界が凄かった。

まだ人間居住区から出たことはないが、ここにいる人間はみんな、魂が磨き上げられた人ばかり…つまり、その道の達人である(あった?)人がほとんどだった。

自分もこの中の一人だと思うと、感慨深いものがあるなぁ…。

そして魔法SUGEEEE!の理由だが、なんとここには“何でも出てくる魔法の箱”があるのだ!

……すみません、“なんでも”というのは言い過ぎました。

でもあまりに大それた物でなければ、欲しい物は割と手に入ります。

食糧然り、武具然り、本然り、機械然り。

最初に出したのが煙草だったのはご愛嬌ですよね…夢がなくたっていいじゃない!生きていた時に大好きだったんですっ!!

そして例えば食糧だが、材料の段階の物だけではなく、出来上がった物までも出せるようだった。

幸い私は料理ができたし、完成品を出して自分が怠け者になるのも嫌だったので、基本的には材料の方を出すようにした。

面倒くさがりだから、完成品出すこともそれなりにあるけどね…まぁやらないよりはマシってことで。

…いや、そもそも食べなくても生きていける体なんだけどね?味覚はあるんだし、やっぱり美味しいもの食べたいじゃん。




まぁそんなことより、これで色々な分野での修行ができるようになったことが嬉しかった。

いつの間にか、私は自分を鍛えることが楽しくなっていたようだ。

それに気づいた時の私の感動は、計り知れないものがあったよ。

それもそのはずだよね…生まれて死んで、ようやく初めて物事に熱中できたのだから。

いやあ、現世で願って止まなかったことができるなんて、死んでよかった!天界サイコー!



そしてそして、今日は我が家の完成日である。

どんな家になっているか楽しみだなぁ…。




………。




「…お?来た来た。

おーっす龍哉!久しぶりだな!」


イード氏と共に家のあるはずの場所へ向かうと、そこには阿坊達がいた。


「ちーす。年単位で会わない奴が、数か月で久しぶりか…?

まぁいいや、どうしたんだ、今日は。」


「龍哉殿の家ができると聞いて、お祝いに来たのでござるよ。」


イード氏はエンマと知り合いらしく、そちらでも挨拶を交わしている。


「そうか、ありがとうな。

で、肝心の家は……。」


そちらを見ると、豪邸とまでは言えないものの、それなりに大きい家があった。柵で囲まれている庭も広い。

気になるのは中だな。


「結構いい家っぽいな。中に入ってみようぜ。」


「俺の国の家を参考にしてるから、靴は脱げよな。」



……。



“広い”…中に入って初めに浮かんだ言葉は、ソレだった。

現世では一軒家だったが、場所は東京。住宅が密集しているわけである。

俺の家は一般家庭だ。八畳やら十二畳がせいぜいだった。

ここへ来てそう思うのも仕方ないだろう。

まだ家具やらが無いせいか、余計に広く感じた。


「内装の方は、ご自分の好きなようにしていただく…という形をとっております。

例の箱もありますので、どうぞお好きなように飾り付けて下さい。」


「なるほどな。業者の人に、『いい仕事だった』と伝えておいてくれ。」


そう言えば業者は人だったのだろうか。

だとしたら、彼もまた達人級なのだろうな…。


「よし、細かいのは後にして、とりあえず机やら椅子やらを出すとするかのう。」


「そうだな。そんで祝杯をあげよう。イード氏も一緒に飲もうぜ。」


「ありがとうございます。ご一緒させていただきます。」




そうして俺達は、家の完成を祝いつつ、翌日まで飲み明かした。





Side out







翌日 昼――



「準備はいいな…?始めっ!」



龍哉達は今、庭に出ている。

何をしているのかと言うと…。


「……Aufplatzen Flamme《爆炎》!」


神や天使の強さに興味があった龍哉が、イードに頼んで試合をして貰っているのだ。

そして現在、数十メートル先にいる彼の呪文と共に放たれた炎が、龍哉に向かって飛んできている。


(…あ、これ避けらんねェわ。)



炎が龍哉に触れた瞬間、凄まじい音と共に爆発した。

ちゃんと防音結界を張っているので、近所迷惑にはならない。


「…やりすぎましたかね。

死なない体なので、思い切りやってくれと言うことでしたが…。」


煙が晴れると、そこにいたのは無傷の龍哉だった。


「…相変わらず滅茶苦茶だな、アイツは。」


とは、阿坊の言。


「馬鹿な…。」


唖然たる面持ちのイード。


「やっぱ魔法カッコイイなぁ…。」


たった今自身に放たれたソレを思い返して、幸せそうな表情の龍哉。


「なぜ無傷なのですか…。

私も攻撃系はあまり得意ではないとは言え、普通のレベルまでは使えるのですよ?」


「あぁ、確かに威力はそれなりにあったよ。

俺の強さがそれ以上だっただけだな。

よかったな阿坊。地獄もまだまだ捨てたモンじゃねぇぞ。」


確かに、彼を鍛えた地獄という環境が、少なくともイードの魔法を上回ったことの証ではある。

しかし…


「そうは言うけどな…それは地獄が凄いだけであって、別に俺達が今のを防げるかと言ったら、そりゃ無理だから。」


そうなのだ。

成長限界のある阿坊らでは、元々の耐性で威力を緩和しようとも、決して無傷でいられるような威力ではなかった。


「うーん…鍛えすぎたか?攻撃通らないと無敵に近いな…闘いがつまらなくなったらどうしよう。

……とりあえず、イード氏倒して後で考えよう。」


「…させません!次は私の持つ最大呪文です。

Ein Kreuz…《栄光の十…》」


イードが再び詠唱を始めたその瞬間だった。


「んー、詠唱中無防備すぎじゃね?」


龍哉は、その脚力で以て一瞬でイードへと肉迫し、その膂力で以て彼を押さえつけた――




………。




結局、龍哉の出鱈目な強さを見せるだけに終わった試合も終わり、5人は再び家の中へと戻ってきている。


「ハァ……あの、あなた本当に人間ですか?」


「…どうやらそうらしいぞ。」


「イード殿、それについて考えるのはよした方がいいでござるよ。

少なくとも、某らはもう諦めているでござる。」


「それが賢明なようですね…。」


「事の経緯からすると、褒めてるのか貶してるのかよく分からん会話だな。

まぁそんなことより、俺は今困っているんだ。」


「お?龍哉が困ってるなんて珍しいな。

どうした?」


興味津々、とばかりに問いかける阿坊。


「いや、さっきの試合で思ったことなんだが、どうやら俺は耐久力的な意味で強くなりすぎてしまったらしい。

地獄で経験した火、氷、打撃、斬撃、以外の攻撃だとまだダメージを負うだろうが、俺の性格的にそれを克服するのも時間の問題だろう。

このままだと、その圧倒的な防御力に任せ、被弾なんて関係なくゴリ押しするスタイルになりかねん。

しかし、そんな美しくないやり方は避けたいんだ。

…どうしたもんかね?」


もちろん他の力もかなりの高さにいるが、硬さはそれらの更に一段上だ。

わざと鍛えないでおく…というのも変な話だし、彼の言う通り時が経つに連れて、徐々にダメージの通る攻撃が少なくなっていくだろう。

そして一つ言っておきたいのは、“そのスタイルが美しくない”と言うのは、龍哉の主観によるものなので、作者は如何なる抗議も受け付けないということだ。

美しきゴリ押しの会…なんてものがあったとしても、抗議は受け付けませんよ!

…彼の話で思うところがあったのか、イード氏が言葉を返した。


「あの…自分で防御力を調節できないのですか?

もちろん体そのものの硬さもありますが、ある程度“気”も使って防いでらっしゃるのに…。」


「……え?」


「?…どうしました?」


「あの、俺“気”なんて使えないはずなんだけど。使い方知らないし。

地獄で獄卒がそれっぽいの使ってるのを見て、羨ましがっていたくらいなんだから。

実際、彼らの技を盗もうとしてもできなかったぞ。」


「あぁ、なるほど…確かに使っていましたよ。

と言うより、改めて見てみると常に体の表面に張っていますね。

これも地獄と言う環境の所為なのでしょうか。

無意識で使っているようですし、獄卒流が使えなかったのは、本当に単純に使い方を知らなかったからですね。」


「な、なんだってー!!

自分でも知らないうちに使えてたのかよ!

クソックソッ!こんな…こんなことって……最高じゃないか!!」


衝撃の事実。

彼のテンションは最高潮のようである。


「うっせえよ龍哉。」


「うん、ごめん。煩かったね。

それでその…俺も自由に使えるようになるのか?」


「やはりあそこまで耐久力を高められるのですから、素質は十分あると思います。

誰かにちゃんと教われば、すぐにでも使えるようになるはずですよ。」


「そうか…よかった。

これで防御力の面も解決できそうだし、他にも色々パワーアップできそうだな。

教えてくれてありがとう、イード氏。」


「いえ、たまたま私が気を感知できる体質だっただけですよ。

誰か教わる当てはあるのですか?」


「ない…が、それでいい。

誰かに師事するなんて、俺の性に合わないからな。

適当に書物でも見ながら自己流でやっていくさ。

存在が分かった今なら、何とかできる気がするしな。」


現世で生まれてから今の今まで、誰かに教えを乞うということをしなかった龍哉。

それはある意味褒められたものではないかも知れないし、ある意味褒めるべきものかも知れないが、ともかく結局のところ、龍哉には“自分で何とかする”以外の選択肢はなかったのだ。

地獄でも獄卒達と闘っていたが、その際に(相手が勝手に言ったことは別として)自分から助言を貰ったこともなかった。

こうして誰にも師事することなくここまでやってこられたのは、偏に彼の真面目さによるひた向きな努力のお陰だろう。


「そうですか、分かりました。頑張ってくださいね。」


「あぁ、言われなくとも、だ。」






こんな感じで、彼の天界ライフは始まりましたとさ。

Aufplatzen Flamme《爆炎》――敵に触れた瞬間に爆発する炎の塊を撃ち出す。当然火属性。

Ein Kreuz des Ruhmes《栄光の十字架》――光る十字架を発射。光属性の中でも威力が高い方だが、対単体用。


――――――――――――――――――



ようやく折り返し地点です。

実は第一話投稿時点で、既に最終話まで書き終わっているんですよね。

二作目も10話までは書き上がっているので早く投稿したいのですが、ストックがないと不安で不安で不安で不安なんです。

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