エピローグ
十二月三十日の夜八時、宗平と綾華は自然の中で夜空を眺めている。
「やっぱり宇宙ってきれいだね」綾華は目を輝かせている。
「そうだね。何度見ても宇宙はいいものだ。世界がいかに広いのか、そして自分がいかに小さいのかを思い出させてくれる」宗平はポケットに手を入れている。
「まるで人間は素粒子のようだね」綾華は宗平に目を向ける。
「確かに人間は宇宙よりも小さい。でも、素粒子のように不確かな存在でもない。僕らは確かにここに存在している。そして、その温もりを誰かと共有することもできる。宇宙と素粒子のあいだに存在しているようなものだ」宗平は綾華の目を見つめる。
「ありがとう。私はお父さんのおかげで自分の存在を肯定しようと思えるんだ」
「こちらこそありがとう。僕は綾華のおかげで人生をやり直すことができるんだ」
二人は茨城の自然公園で天体観測をしている。宗平はその近くの大学でまた働くようになっていた。ゼロからのスタートにはなるけれど、未来に思いを馳せると楽しみだった。いつしか人生に希望を抱けるようになっていた。
宗平の再就職に伴って二人は茨城に引っ越した。綾華は宗平との養子縁組を終えると、山本綾華として茨城に転校した。今のところ、いじめは起きていない。他者に心を開けるようになった綾華にはさっそくひとりの友達ができた。
これからどうなるのかは分からないと宗平は思う。このまま自分が元気に働けるのかは分からない。もしかしたらまた絶望と無感覚に苛まれるときがくるかもしれない。でも、自分には綾華という大切な娘がいる。彼女と一緒に人生の意味を見つけると決めたのだ。だからこそ人生を諦めないで頑張っていこうと思える。
いつまたつらい目に遭うのかは分からないと綾華は思う。自分の過去が露見して、また誹謗中傷や暴力を受けることもあるかもしれない。でも、自分はきっと大丈夫だと思う。お父さんの背中を見ていれば、どのように生きていけばいいのか分かるから。どんなに心が寒くなっても、またきっとお父さんが温めてくれると思えるから。
二人は静かに寄り添う。お互いの存在を感じる。これから二人は手を取り合って生きていく。いつか綾華に愛する人ができて、二人はまた離れてしまうかもしれない。それでも二人の絆はなくならない。お互いがいるからどこにでも行ける。二人はそう信じている。
二人は一緒に夜空を見上げる。そこには広大な宇宙が広がっている。
※参考文献
・チャールズ・H・ラングミューアー/ウォーリー・ブロッカー 著、宗林由樹 訳
「生命の惑星 ビッグバンから人類までの地球の進化 上・下」京都大学学術出版会
・中村真哉 編集「ニュートン別冊 新・ゼロからわかる宇宙論」ニュートンプレス
・野村泰紀 著「なぜ宇宙は存在するのか はじめての現代宇宙論」講談社
・ヴィクトール・E・フランクル 著、池田香代子 訳「夜と霧 新版」みすず書房
・田中正人 著、齋藤哲也 編集・監修「哲学用語図鑑」プレジデント社
・藤井旭 著「星座教室 夏の星座」誠文堂新光社
・藤井旭 著「星座教室 春の星座」誠文堂新光社
・村上春樹 著「海辺のカフカ 上・下」新潮社




