プロローグ
人生に絶望していた男はその少女を目にして世界が揺らぐような衝撃を受けた。
男は目を疑った。自分が見ているものを受け入れるのに苦労した。
そこに最愛の娘が立っているかのような眩しい光を見たのだ。
それは曇天のような日常に突如として差し込んだ太陽のようだった。
少女は儚げな笑顔で言った。「ねえ、一緒に宇宙を見に行こうよ」
男は気がつくと静かにうなずいていた。
それまで無感情の中で生きてきた。
心はあの日にすべて置いてきたはずだった。
それなのに魂が揺さぶられるような胸の高まりを感じていた。
それは男の中に目眩のような不安定さを呼び起こした。
自分の心の鎧が崩れていくことを恐れた。
気持ちを鎮めるように目を閉じて深呼吸をした。
そして以前はやめていたはずの煙草を口にくわえた。
自分の中に冷静さがよみがえるのを感じた。
自分はこうでなくてはならない。
この残酷な世界を生きていくためには心を閉ざしていなくてはならない。
自らの命を断つための勇気はない。
ならば死んだようにただ毎日を消費して生きていくだけだ。
しかし少女は男の心を開こうとする。「ねえ、私たちってたぶん似ているね」
そう言って一輪の花のような眩しい笑顔を見せた。
男は思わず目を背けた。この少女は私の心を容赦なく乱す。
それでもこの場から立ち去ることができない。
再び少女に目を向ける。そこには変わらず太陽のような眩しい光がある。
男は目を細める。自分の心の鎧を灼熱の光から守るのに精一杯だった。
少女は自らの名前を口にする。男はもはや何も考えられなくなった。
気がつくとその思考は自らの過去へと飛んでいた。
何も思い出したくなかった。それでも思い出さない訳にはいかなかった。
脳裏にはかつての妻と娘の明るい笑顔が浮かんでいた。




