聖女、女神になる その1
「お〜わぁったぁ〜!」
目の下に大きな隈を作り、眠そうな表情で私は叫んだ。
「流石に約二億五千万の数は死ぬ」
人口全員分に加え、予備でその2倍を作ったのだ。
それをほぼ休み無しで。
眠りについてもいいよね?
作るために使用する魔力はまだあるけれど、体力、精神力はどうにもならない。
まぁ、これでも前に比べたら楽な方である。
聖女時代の昔なんて、一月ぶっ通しで流行り病を片っ端から治す、なんてやってたからね?しかも人間人口の約六割。薬も作れないからと私が馬車で周り続けたのだ。
睡眠は移動時間。
隈や、肌の色はお化粧で隠したりしてね。
終わったときの達成感凄かったなぁ。
あっ、人間の人口は数字上は五億となっているが、スラム街などの人たちは入っていないし、正確に言うならだいたい十億超えといったところだ。しかも数字は数十年前のものでそれよりも更に増えてる。
その六割だ。しんどかった。
魔力もすっからかんになりかけて最後の場所終わったときぶっ倒れそうになったのも良い思い出だ。
「おぉ、終わったのか?」
おっと、回想中止と。
「うん、終わったよ、魔王」
労りの言葉をかけにきたのは当然魔王。
少し、いやかなり心配そうに私を見つめる。
「そ、そんなに見られると照れちゃうよ?」
冗談ばかしに言ってみた。
「すまぬ」
思ってた反応と違って、ちょっと調子崩れるなぁ。
何を気にしているのだね?
聞きたいが、それは本人から話してもらうほうが良いだろう。
私が問いただして解決するとは限らないし。
というわけで私は一言疲れたから寝るとだけ言って前に泊まっていた部屋に向かった。
・
我は、リーリアの友だ。
リーリアは我に多くのものをくれた。
もともと敵だった相手とここまで親しく、友になれたのだ。
不思議な話だ。
だが、我は今ハッキリとわかった。
我は魔王失格と呼ばれるほど無力なのだと。
力では確かに魔族の中では一番かもしれない。
だが、リーリアは我の力など到底及ばぬ力を持ち、更には人を、救う力も持ち合わせている。そして何よりも見返りを全く求めず、誰よりも相手のことを考えて動けている。
リーリアのほうがよっぽど王らしい。
だが、王は我だ。
だから、我は王として、我自身としてリーリアに何を返せるだろうか。
もらってばかりで、本来なら争うはずだった人が魔族全員を救おうとしてくれる。いや、すでに村の一つを救い、食糧難を解決してくれているから、すでに事後か。
そんな莫大な恩をどう返せば良いのだろうか………。
リーリアの寝顔を遠目で見ながらそんなことを考え続けていた。
・
「んん〜。あぁー、よく寝た」
どれくらい寝てたかはわからないけど、体力は全回復。
精神は穏やかだし、落ち着いてる。
私、完全復活!
……いや、やられてはなかったけどね?
「さて、薬制作は済んでる。あとは、報告を待ってから配布、その後しばらく観察して、大丈夫そうならそれで終わり、仮に何もなくても今回の薬は今後別の病にも当てられる」
あぁ、頭がよく回る。
疲れが取れたのもあるけど、ここが落ち着くってのもあるかも。
今度から考え事するときはここにこよう。うん、そうしよう。
迷惑かな、とは一瞬たりとも考えなかった。
「さて、魔王かメリアさんのどっちか見つけて今の状況教えてもらわないと」
寝てた分働かないと。
私は二人を探しに起き上がり部屋を出た。
そういえば、魔王に謝るの忘れてたわ。親しき仲にも礼儀ありだったね。言えるときに言わないと。
魔王はすぐに見つかった。
書類作業していた。
「む?リーリア、起きたのか」
私に話しかけるその声はいつもよりも少し暗かった。
悩みでもあるのかな?
聞いてあげたいところだけれど先にやることやってからだね。
「さっき起きたばっかりでさ、今どんな状況?」
「あぁ、確かに丸一日寝てたんだな」
丸一日!?そんなに寝てたのですか、私。
最近、前まで平気でしてたことができなくなってきてる。
技術とかじゃなくて生活面での方。
聖女止めたからかな。精神的に楽になったからそういうのができなくなった、あるいはしなくてもいいと感じてるのかな。
いや、今はそれはいいか。
続きを聞かないと。
「あのあと、メリアが戻ってきて、確認した。人間の国よりの村のいくつかで同じ症状を確認したそうだ」
……うちの種族が申し訳ありません。
静かに頭を下げた。
「あ、言っておくがまだ人間の国のものだとは決まったわけじゃないからな!?」
気遣って、私に必死に関係ないと伝える魔王。
優しいですね。
まぁ、私の気持ちの問題だ。
もしも、あの病が人間の国から流れたものなら、それは私の責任でもある。たとえハッキリせずとも謝らないといけない、そんな気持ちになるのだ。
「あっ、リーリア、決して私の責任とか考えるな!」
えっ?
思わず顔を上げて少し呆けた顔になる。
「これが仮に人間の国から流れたものだとしても、リーリアは全く関係はない。もしも、私が聖女にいたならばなど、以ての外だからな!」
……ホントに魔王様には隠し事もできませんよ。
「もしもなど存在しないのだぞ?今の貴女はただの我が友なのだからな?」
…泣きそう。
いや、心の中ではすでに泣いてます。
こんなに私に優しくしてくれる人はいつぶりだろう。
いつも私は優しくする側でされる側じゃなかった。
師匠などの優しくしてくれた人もいたが、もうとっくの昔のことだ。
「ありがと、魔王」
いつもの少しふざけた雰囲気はなく、心からの声と言葉で伝えた。
長くなるので分けた。
もう少しで一区切りになる、と思う。




