2-⑤
夜。
イグレシア王国から送られてきた書状を侍女から受け取り、内容に目を通して嘆息。
目の前にランプにそれを翳してすぐさま焼却処分した私は執務室の椅子から立ち上がった。
他国からの書状が自分の目の前で焼却処分が行われたことに目を白黒させる侍女に今日はもう休むよう伝えて私はトリシアの元へ急ぐ。
私とトリシアは婦々。
結婚式にも約束通り参列していただいたのにまだ諦めていないらしいあの方。
レオン・ハート・イグレシア様。イグレシア王国の第一王子。
未だに時々トリシアを口説く内容の書状が送られて来る。
私と上手くやっているか? 何かあればいつでも相談して欲しい。力になる。
私に飽きたら自分の嫁になりイグレシア王国に来ればいい。
飽きなくてもトリシアを正室、私を側室として迎える準備はいつでも出来ているぞ!
と要約すればそんな内容。
苛々する。トリシアは私の妻なのに絶対に誰にも渡したりしない。
「トリシア」
私達婦々の寝室。
扉を開けると驚いた顔でこちらを見ているトリシア。
どうやらトリシアも仕事を終えた後らしい。
私はトリシアに近づく。
「アルマ。そんな怖い顔をしてどうしたのかしら?」
「私、トリシアを誰にも渡さない」
愛する妻。
その腰に両手を回して抱き締める。
そうされてトリシアは私の首に両手を回して。
「どうしたの? 何かあった?」
「レオン殿下から手紙が来たのよ」
「まぁ。どういう内容だったのかしら?」
「...。トリシアと私のこと諦めてないって」
「まぁぁ、もしかしてアルマはそれで?」
「そうよ。私は嫉妬してる。ムカついてる」
「アルマ」
トリシアが私に身体を密着させる。
暫くそのまま抱き合い続ける私達。
.......................。
「アルマ、このまま貴女とずっと抱き合っていたいけど」
「ええ、お風呂が先よね」
名残惜しく離れ、私とトリシアは手を繋ぎながらお屋敷のお風呂へ。
脱衣場で服を脱ぎ、浴場に二人で足を踏み入れると目に映るトリシアの白い肌。
ふと自分がトリシアと同じ吸血姫であれば良かったのに。などと考える。
そうすればトリシアの美しい肌に牙を立てて血を吸い、媚薬のようなあの効果でトリシアを狂わせることが出来たのに。と。
「アルマ、あまり見られると恥ずかしいのだけど」
私に裸体を見られて恥じらうトリシアも可愛い。
それにしてもますます綺麗になったような気がする。
プロポーションも女性の中の女性という感じで見惚れずにはいられない。
その時、私は私の身体の変化に気が付く。
禁断症状が現れる前兆。
私はトリシアに七日に一度は血を吸って貰わないと恐ろしい症状が私を襲う。
トリシアもそれは同様で彼女も予兆に気付いたらしい。
瞳が深紅に染まる。
「ト、トリシア」
「何かしら? アルマ」
気付いてるくせにわざと素知らぬフリ。
悪戯な笑み。私に言わせたいらしい。
「血を吸って。お願い」
「いいわ」
すっかり形勢逆転したトリシアと私。
彼女の言葉で"ホッ"とする。
何せ仕事にかまけたことで期限を過ぎ、一度だけ経験したことのある禁断症状。
まず全身が熱くなって気怠くなり、次に激しい頭痛がやってくるといったある種風邪にも似たあの症状。
終いには立つことすらままならなくなったあの症状はもう二度と経験したくない。
ちなみにトリシアは激しい喉の渇きが来るらしい。
そのまま放っておくと干乾びてしまうのだとか。
魔族の血。というよりも血の契約はやはりそれなりの代償がつき纏うよう。
トリシアが私を壁際に追い詰めて後ろ向きで壁に手を突かされる。
自らは屈み、私のお尻をたっぷりと舐めてそこから血を吸い上げる。
「んっ...くっ...トリシア」
血を吸うのは何処からでもいいらしい。
だからってそんなところから。
いろんな意味で身体が火照る。
.......................。
「ご馳走様でした」
トリシアが血を吸い終わると同時に私は浴場の床に座り込む。
呼吸が荒くなり、力が入らず立つことが出来ない。
「アルマ」
「トリシア、立てない...」
「可愛いわ」
ここは浴場。私は必死に声を殺しながらトリシアに抱かれた。
◇
寝室に戻って来てからも私達は抱き合っていた。
ベットの上、羽毛布団の中でお互いに裸。
唇を奪い合い、幸せに満たされて私達はお互いの生命を感じあう。
「トリシア」
「何かしら? アルマ」
「ルーシア伯爵領のことなのだけど、どうしたい?」
その瞬間にトリシアから笑みが消える。
敢えて「どうしようか?」と聞かなかったのは今の私はもうどうとでもなる力があるから。
トリシアが望むなら教皇様とエステル様に頭を下げてルーシア伯爵領をラナ公爵領の一部にして貰うことが恐らく出来る。出来てしまう。
「.....気にはなるわ。生まれ育った土地だもの」
「ええ」
「でも同じくらいここも好きなの。それにアルマとも離れたくない」
「私もトリシアを行かせたくないわ。聞いたの私なのにごめんなさい」
「いいえ、本音が聞けて嬉しいわ。でも一度見に行ってみたいって思うの。いいかしら?」
「私も連れて行ってくれるなら」
「勿論だわ」
トリシアに戻る笑み。
私達は愛の営みを再開させる。
好きで好きでどうしようもない気持ち。
溺れたくて、溺れさせたくて私達は身体を絡め合う。
限界が訪れ睡眠を取り始めたのは丑三つ時が少々過ぎた頃だった。




