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2-③

「では戴冠式の日取りは繰り上げて」

「殿下、それとそこの女の爵位を取り上げてください。女性がこの場にいるなどというのはやはり」

「ふむ。考えてみよう」

「それにその女性の領地は私腹をたらふく肥やして丸々太っております。没収すれば国は潤いましょうぞ」

「おお、それは良いな」


 先程から本人を放置して好き勝手な戯言が第一王子と一部貴族の間で飛び交っている。

 いい加減に疲れた。

 この国はこうやって第一王子の玩具になっていくのだろう。

 国を見限って私は席を立ちあがる。


「むっ、まだ会議の途中ぞ」

「これ以上ここに残っていても私は私を貶める言葉しか聞けませんし、このような無意味な場。失礼させていただきます」

「貴様何を!!」

「なら私も失礼させていただこう」

「僭越ながら私も」

「ジーク侯爵、リリウス伯爵!! 貴公ら」


 後ろで何やら第一王子達が騒いでいるのが聴こえたけど私達は構わず出口の前へ。

 そこでそれまで黙っていた王妃様の声が響く。


「ふぅ。やはりロメオに国王の座は向いていないようですね」

「な、何を言うか。お母様」

「そうです。兄上が国王に向いていないなどと」


 王妃さまの糾弾に第一王子だけではなく第二王子までもが反論。

 私はそれを背で聴きつつ扉に手を掛ける。


「お待ちなさい。アルマ伯爵」


 その声で今一度会議の場に視線を向ける。


「王妃様。これ以上私がここにいると話が滞ってしまうように思います。私はこの場から消えたほうが国の為」

「貴女を傷つけたこと愚かな息子達に変わって謝罪します」


 王妃様が私に頭を下げられる。

 慌てて頭を上げていだたくように言うと微笑み。

 私達は白旗を上げ、もう一度席に着く。


「さてロメオ。このままわたくしがアルマ伯爵を止めなければどうなっていたと思うかしら?」

「彼女の爵位は返上。領土は国のものでしょう」

「はぁ...。ハンス、貴方はどう思いますか?」

「兄上と同じ意見です」

「揃いも揃っておバカな子達ね」

「「何を」」

「いいですか! あのまま行かせていればこのアリアノラ王国は没落していました」

「「何故です」」

「アルマ伯爵はこの国に属さなくても問題ないのですよ。仮にそれが不敬罪として王都からラナ伯爵領に兵士を送ってもわたくし達は敗北していたでしょう」

「何をバカな。お母様は気が触れましたか? たかが一領地に国が負けるなど」

「一領地であれば負けないでしょう。しかしリリウス伯爵領、ジーク侯爵領がこちらの敵となるばかりか他にも彼女達の側に着く領地は多いでしょう。それにグリモワ帝国も敵となります。勝ち目がありますか?」


 この方...。

 ううん、ちょっと情勢を見てれば分かることかな。

 それから目を背けてる人達には今の王妃様のお言葉は信じられないかもしれないけど。


「最早伯爵領というより公爵領でも足りないのですよ。アルマ伯爵のあの領地は」


 王妃様の苦笑い。

 唖然とする第一王子と第二王子。


「こちらから国に残ってくださいとお願いする立場にあるのです」

「そのようなこと」

「そうだ。それでは貴族に王族が負けるようなものではありませんか」

「まだ分からないのですか。貴方達は。味方に引き入れていたほうが他国の牽制になるのですよ」

「ならばせめて領地の力を削いでおくべきでは?」

「そのようなことをすればラナ伯爵領の民がこちらに暴動を起こすでしょう。そうなってしまっては先程わたくしが言った未来がこの国に待ち受けています」

「・・・・・」

「・・・・・」


 私にこの場全員の目が集まり、多少狼狽えてしまう。


「さて、このようなことも分からない愚かな子達にこの国の舵を任せるのは心配でなりません。そこで次期国王には別の者を立てます。入ってきなさい」

「はい」


 私達とは違う入り口。

 先程王族の方々がいらした専用の入り口から白のドレスに身を包んだ美しい女性。

 年の頃は私よりも恐らく下。私も含めて全員がその女性に注目する。


「初めまして。わたくしはエステル・ユナ・アリアノラ。この国の第一王女ですわ」


 気品溢れる優雅な動作で私達に礼。

 暫くして漸く私達はこの状況を飲み込む。


「第一...王女様?」


 私の驚愕と共に吐き出した小さな呟き。

 エステル王女様には聴こえていらしたらしい。

 私に陽のような温かな笑み。


「ええ」


 第一王女様はいらっしゃることは知っていた。

 この国の国民全員が知っていた。

 ただ王女様はお生まれになった時から病弱でその為一度も公務などにお姿をお見せになられたことはない。

 それ故私達は半ば王女様の存在は虚像のように思っていた。


「ふふ、まるで幽霊でも見たかのような瞳ですわね」

「申し訳ありません。あ! も、申し訳ありません」


「幽霊でも」で謝罪するということは認めたということ。

王女様を幽霊のように見ていたなど到底許されることではない。


 冷や汗が背中を伝う。

 トリシアの笑顔が心に浮かんでは消えていく。


「アルマ様」

「は、はい!!」

「わたくしがここにいられるのはアルマ様のおかげですわ」

「どういうことでしょうか?」


 エステル様が王妃様に微笑む。

 それを受けて王妃様が近くの騎士に指示。

 騎士はそれで何処かへと行き、間もなく戻って来る。


「お持ち致しました」

「ご苦労様」


 騎士から王妃様の手に渡される何か。

 王妃様はそれを開き、中に書かれた書かれた文字をお読みになる。


 それは亡き王様が書かれた遺言状だった。

 跡継ぎはエステル様にということと第一王子と第二王子を廃嫡するという内容の。

 そんなものがあるなら最初からお出しになればいいのに。

 私のそんな恨みがましい気持ちが王妃様にお伝わりになったのだろう。

 再度私に謝罪をされてから王妃様は二人の王子にそのお顔をお向けになる。


「貴女には辛い思いをさせてしまったわね。ごめんなさい。わたくしも子が可愛かった。試してみて大丈夫なようならこの遺言状は墓にまで持っていくつもりだったのだけど...」

「だから二人のお兄様には期待出来ないとあれ程言ったではありませんか。お母様」

「エステル...。ええ、そうね」


「お父上の遺言状だと...。そんなバカな」

「偽物だ。そんなもの!!!」

「そうよ。これは罠よ。ロメオ様こそ国王に相応しいのに」


 二人の王子と第一王子の奥方、並びに貴族達までみっともなく騒ぎ出す。

 遺言状がそこにある筈がないとか、実際にそこにある物をないと言っている者まで。

 どうしてそこにそれがある理由を考えないのだろうって思う。

 恐らく亡き王様は自分の生命が長くないことが分かっていたのだろう。

 そして悲しいことに第一王子以下貴族達が自分の生命を脅かしていることも。

 第二王子についてはその限りではなくて国王たる素質がないことを見抜いておられた。

 第二王子は第一王子の腰巾着のような方だから。

 そんな方でもこの国では男子優先。

 第一王子を廃したところで第二王子が王位に就くことになる。

 それでは何も変わらない。

 だから王様は二人の王子を廃嫡なさったのだ。


「余が。余こそがこの国の王に相応しい」

「私もそう思います。兄上こそがこの国の上に立つべきです」

「ロメオ様、ハンス様、わたくしもそう思います」

「「「そうだ!! ロメオ様こそが次期国王に相応しい」」」


「いい加減に煩いですわ」


 それは心底そこ冷えする声だった。

 魔王バエル様に勝るとも劣らないくらいの。

 騒がしかった場が一瞬で静まり返る。

 それを楽し気に見て微笑まれる先程の声の主・エステル様。

 王妃様までもそんな彼女に怯えていらっしゃる。


「そうそう。言い忘れましたけど、いろいろと調べはついてるんですの。例えばロメオ兄さまを誑かしたのはゴードン公爵であることとか、デニス侯爵は国で禁止している筈の人身売買に手を染めているようですね。後は.......」


 エステル様の口から次々と犯罪に手を染めた貴族達の名とその容疑が上がっていく。

 誰も反論しないどころか青ざめているところを見ると、どうも全て言い逃れ出来ない真実らしい。


「それからイザベラ伯爵は不正に領地を手にされたらしいですわね」

「そのようなことは!!」

「調べはついていると言いましたが?」


 エステル様の笑みにイザベラ様が無言となる。

 あんな、目が笑わっていないのに愛らしく恐ろしい笑みを向けられると、そうなってしまうのは当たり前だろう。

 最後にエステル様は騎士達に命じる。


「今わたくしが言った者達を全員連れて行きなさい。

「「「「「はっ!!」」」」」


 騎士達が動く。

 貴族達だけでなく王子達も連行しようとその手を掛ける。


「無礼な。余は」

「その方は最早王族ではない方。連れて行きなさい」

「はっ!!」


 彼らがどうなるかは分からない。

 恐らくよくて領地没収、悪くて毒杯だろうか。

 これでようやく長かった会議は幕を閉じた。


 解散が告げられた会議室。

 ぞくぞくと帰っていく皆の流れに私も乗ろうとするとエステル様よりお声が掛かった。


「アルマ様」

「はい」


 足を止めてエステル様のほうへ振り返る。


「先程の話ですが、わたくしが助かったのはラナ伯爵領のお医者様のおかげなのですわ。わたくしは小麦アレルギー? というものでそれさえ口にしなければ大丈夫なんだそうです。驚きましたわ。そのような病気があるんですわね」


 小麦アレルギー。

 なるほど。この時代だと主食はパン。

 絶対に口にするのだからアレルギーだって進行する。

 原因が分かって良かった。

 でもここには私がいるからなんとかなったけど、実際のそんな知識がなかった中世ではどれくらいの人々が亡くなっていたのだろう。

 考えると少し悲しくなる。


「ありがとうございました」


 エステル様が頭を下げられる。

 私は王妃様の時と同じように慌てて。


「そんな。お顔を上げてください。早期発見が出来て良かったです」

「そうですわね。ところで」

「...?」


 エステル様の柔らかな笑み。

 しかしそこには微妙な黒が隠れている。


「裏帳簿の件なのですが」

「!!!」

「ふふ、そのお顔を見るとやっているようですわね」

「あ、あの...私...は」


 一体どうやって調べて。

 適当な嘘を。ううん、きっとこの方には通じない。

 ならトリシアだけでも。実際あれは全部私の指示なのだから。


「全部私のせいです。トリシアは関係ありません。ですから!!」

「分かっていますわ。ですが領主はお二人。ですので連帯責任となりますわ」


 やはりダメか。

 目の前が暗くなる。

 方法はある。

 当初の予定通りにバエル様の下につけばいい。


「お二人の爵位は返上していただきます。その代わり先程空いた公爵の爵位を差し上げますわ。それから今回の件を見逃す代わりにこれからもアリアノラ王国に属してくださいな。勿論、それで領地に何かするつもりはありませんわ。特別自治区として自由にしていただいて結構ですわ」

「.......?」

「いかがかしら?」

「敵いませんね。畏まりました」

「ふふ。それではこれからもよろしくお願いしますわ」

「はい」


 それで私は帰宅の途に着く。

 凄く...疲れた。

 私は早くトリシアに会いたいとそう思った。

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