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閑話の閑話その2

 終わらない仕事。

 私は死にかけていた。

 ブロッサム商会の仕事に加えて領主の仕事、月によっては社交会に出席しなくてはならなくなったのだから堪らない。

 これでも商会の仕事は過去は私がやっていたことを細分化してモーリス様やその他の人々に割り振ったし、領主の仕事はトリシアが私よりも頑張ってくれている。

 なのに書類は何故か溜まる一方。


 おかしい...。

 私の書類整理能力が落ちた?

 まさかそんな、そんな筈は。


 だとしたらまずい。

 とここまで考えてあることに思いつく。

 ラナの街の右隣がリリウス伯爵領、左隣がパース侯爵領だったけど、この侯爵が不正を働いていることが国に発覚して爵位返上となったことを良いことに私はその土地を買収した。

 私の爵位的な身分だけでは無理だったけど、アガレス公爵とジーク伯爵の名前をちらつかせて。

 なので数ヶ月前からここは「街」ではなく「領」ラナ伯爵領。

 新しい土地を手に入れた私は調子に乗って領地を整備すると共にまた新しい事業に乗り出した。


 だってかつてのパース侯爵領領地、運河に隣接していて前から欲しくて欲しくて堪らなかった。

 船の製造、漁、ついでに医療ギルドと漁業ギルドの新設。

 全部私のせい。自業自得。私が仕事を増やした。


「アルマ、ちょっといいかしら?」

「アルマ様、報告よろしいですかな?」

「アルマ様、相談があるのですが」


 私が考え事をしているうちに入室してきたトリシア一同全員目の下に隈がある。

 よろよろした動き。私の妻達は平均睡眠時間どれくらいなんだろう。


「アルマ、貴女少しは寝てるの?」

「そっくりそのまま言葉返すわ。トリシア」

「「「ふふふふ、あははははははっ」」」


 乾いた笑いが執務室に響く。

 この後一斉に私達はため息をつき、ふらふらしながら仕事の相談をした。


 尚、余談だけどトリシア達との打ち合わせ後、ブロッサム商会の財務部やラナ伯爵領官僚達がどうなっているか見に行った。

 彼・彼女達は私達以上に壊れていて変な笑いや呟きを口にしながら仕事をしていた。

 怖かった。泣きそうになってしまうくらいに怖かった。

 私のせいだけど私はこの光景を見なかったことにした。


 それから数日後。

 私は幾人か護衛と商人達を引きつれてアガレス公爵領に訪れていた。

 ブロッサム商会のあらゆる商品やラナ伯爵領の技術者達を幾人か派遣している為にラナ伯爵領と似たような風景。

 この世界、人間よりも魔族のほうが新しいもの好きで適応力、順応力が高い。


 ちなみにアリアノラ王国の王様は現状維持派。

 それも別に悪いこととは思わないけど、せめて災害対策くらいは取り入れて欲しい。

 災害が起きたら仕方ないっていう考え方。

 つい最近起こった台風災害も対策してたら被害は格段に減ったのに。

 災害の怖さは、それで前世死んでしまった私はよく知っている。だから余計にそう思う。


「よく来てくれたな、アルマ」

「お久しぶりでございます。アガレス公爵」

「うむ。暫く見ぬうちに貴族としての箔が付いて来たのではないか?」

「妻トリシアにはまだまだと言われます」

「そうか。奥方は厳しいな」


 アガレス様はそう言って笑う。

 なんだろう、この方。最初から思ってたけど、公爵様なのに角がなくてとても接しやすい。


「して今日はどのようなものを持ってきてくれたのだ?」


 楽しみで仕方ない。

 それがありありとアガレス様のお顔に現れている。子供のような純粋な方。

 私はそんなアガレス様に微笑んで商人達に命じ、商品を持ってこさせて彼の前に出す。


「玩具なんですけど」


 将棋にリバーシ、双六、絵本に漫画、着せ替え人形。

 アガレス様向けではないのが心苦しいと思っていたら彼は目を輝かせてそれらを見る。

 アガレス様、貴族様向けではないと思っていたけど、気に入っていただけたみたい?


「先程玩具と申したな。これらはどうやって遊ぶのだ?」

「あ、それはですね」


 とりあえず将棋の駒の動かし方を説明。

 それから一局実際に差してみる。

 当然ながら私の勝ち。

 悔しがるアガレス様。


「ア、アルマよ。もう一戦」

「はい、いいですよ」


 私はそれから何十局と差さされた。

 この後、私が領地に戻って数ヶ月後すっかり将棋が気に入ったアガレス様が将棋大会を催されることになる。


 そんなこんなで領地に戻ってきた私はここにもそれらの玩具を広めた。

 孤児院には無償で提供して学園にも破格の値段で提供した。

 そのおかげというわけではないけど、今やラナ伯爵領の住民達は貴族・平民問わず識字率ほぼ百パーセント。

 知力も他の領地と比べると格段に高い。

 私が撒いた種は確実に芽吹いている。

 私はお屋敷のバルコニーで風を浴びながら笑みを浮かべた。


「次世代の領民の誕生が楽しみだわ」

村だろうと、街だろうと、領主がいる限り「領地」ではあるのですが、ここでは敢えて広くなっていったのだということを現わすために街から → 領へと言わせてもらっています。

混乱された方がいましたら申し訳ありません。

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