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祝福をこの手に  作者: 憂鬱なメランコリア
第一章 終わりの事件と始まりの事件
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第六話 事件の予兆

 

 

 魔法の練習を始めてから、父さんと母さんに魔法について詳しく教えてもらった。

 

 まず、この世界にはマナというエネルギーがあふれている。

 自然現象はこのマナの性質の偏りによって起こされるとされており、それに干渉できる存在が神だ。

 例えば嵐はマナが風、雨といった空属性の性質に偏るせいで起こると考えられ、それを抑えるには空の神や風の神といった嵐に関わりのある神に祈ってなんとかしてもらう、というのが当たり前になっている。


 地球の科学の観点からは納得できないだろうが、実際に神が現れて嵐や津波を鎮めた話もあるそうなので、この世界ではそういうこともあり得るのだろうと俺は受け入れている。

 実際に神に会ったからというのもあるけど、マナという地球ではなかった(一応あったけど大して影響を与えられなかった)ものがこちらの世界にあるのだから、地球とは条件が違うここでは自然現象に見られる法則が違っても何もおかしくないからだ。

 このように、マナはその性質を変えて様々な現象を起こす原動力となるエネルギーだ。

 

 生き物の魂にはそのマナを集める力があり、魂の力によって人の体内に取り入れられたマナを魔力と呼ぶ。

 魂に影響されたマナ、つまり魔力は、その魂によって指向性を与えられることで現象として現れる。これが魔法だ。

 マナを自分の魔力とし、指向性を与えるのが魂、つまり精神であるため、魔力の操作や魔法の発動にはイメージすることが必要になるのだ。

 イメージさえできればそれ実現するように魔力が変換されて現象として起こる……のだが、魂ごとに自身に留めておける魔力の量も違うし、そのうちから一度に扱える魔力の量も違う。

 さらに、最初から完璧に魔力をコントロールするのはほぼ不可能なので、ちゃんとした形の魔法を使おうと思えば感覚をつかむことや慣れも必要となる。


 そのため、魔法が使える人自体は珍しくないが、大抵は便利技術という程度のものであり、戦闘に使えるレベルの現象を起こせるちゃんとした魔法使いは決して多くない。

 また、魂自体の性質も様々であり、その魂にとって相性のいい属性、すなわち適性によっても魔法として実現できることとできないことがある。

 

 この世界の魔法の属性というものは、大まかに分けて七種類ある。

 空属性、地属性、海属性、火属性、光属性、闇属性、命属性の七つだ。

 正式には理属性(あるいは無属性)を魔法の一つの属性とするそうだが、これは誰でも使える魔法であるため、基本的に属性と言ったらこの七つを指しているそうだ。


 これらの属性にはそれぞれ対応する神がおり、その七柱(あるいは八柱)は属性神と呼ばれている。これは以前もいった通りだ。

 その性質の違いや珍しさに分けて分類する場合、三大属性(三大魔法)と言えば空、地、海属性を、四大属性(四大魔法)、あるいは元素魔法と言えば三大属性に火属性を加えた四つを、六大属性(六大魔法)と言えばさらに光と闇属性を加えた六つを指し、単に属性と言う場合が七つ全てを指す。

 三大魔法は気体、固体、液体をそれぞれ生成するという点において共通しており、四大魔法は適性を持つ人の数が大体同じくらい、そして最も希少である命属性を除いたのが六大属性である。

 ちなみに、珍しさで言うと命属性が最も希少で、次に闇、そして光、残りの四つが同じくらいといった頻度で見られる。

 

 母さんの見せた【点火】(イグナイト)みたいな火魔法は当然火属性なのだが、【水球】(ウォーターボール)のような水魔法は海属性になる。

 火属性の火魔法はあるのに海属性の海魔法がないのが非常にややこしい。


 また、海属性には他にも氷魔法といった魔法も存在する。

 俺としてはそれ、状態は違えども両方とも水を出しているのだし、同じ魔法じゃないかと思ったりもしたのだが、まあ俺が言いたかったのは属性はただの魔法のくくりであって、イコール魔法ではないということだ。

 空属性にも風魔法、雪魔法、雷魔法等々、様々な魔法が存在するし、どの属性にも何個か種類の違う魔法があるそうだ。

 

 ここで重要なのは、魔法の適性というものは基本的に属性によって示されるのであって、個別の魔法それぞれに応じた適性があるわけではないということだ。

 例えば、海属性に適性がある人は水魔法も氷魔法も覚えることが可能だ。

 もちろん、イメージのしやすさや好みなどもあるので同じ属性でも得手不得手はあるのが普通だそうだが、種族固有の魔法や特殊な方に分類されるような魔法でもない限りは同じ属性の魔法なら適性は同程度らしい。

 

 母さんは種族としての適性として闇属性、個人の適性として海属性と火属性があるそうだ。

 父さんは種族の適性として光属性、個人の適性として空属性だ。

 俺は今わかっている範囲では種族の適性として光と闇、個人の適性として火と海と空の属性を持っている。


 遺伝するのは種族による適性だけなので、俺に五属性とも適性があるのはただの偶然だそうだ。

 俺の適性にも強弱はあるが、現時点でわかっている五属性だけでもかなりの破格といえるだろう。

 

 だが、適性が多くてもそれを全て十分に使いこなせないようでは意味がない。

 五属性を極めるならば単純に、一属性の人の五倍は頑張らないといけないことになる。

 二歳児から始めても時間が足りないんじゃないかな。

 父さんの言う通り、物凄く努力しないといけないな。

 

 

 

 

 

「うーん、難しい」

 

 手のひらに浮かべた小さな暗雲のような闇を見ながら、俺はそう呟いた。

 

 今日は魔法の訓練を始めて四日目。

 ミシェルに会いに行く日だ。

 

 ミシェルに完成度の高い魔法を見せてやろうと思って今日まで気合いを入れて魔法の練習をしていたが、今俺の目の前に浮いている闇は最初に発動させたときと大差ない大きさだ。

 全然上達してない気がする……。

 

 魔力を集めるのは少し早くなった。だが意識を少し逸らすとすぐに制御できなくなって消えてしまうのは変わっていない。

 魔法の持続時間も少し延びた。だが一度に生成できる大きさはほとんど変わっていない。

 一応成果もあるけれど、俺的には上手くなった気はしない。

 たった四日だとこんなものかな、とは思うが、あまり上達した感じがしないのは若干寂しい。

 

「難しいって言うけど、ちゃんと上手くなっているわよ」

「そうかなぁ」

 

 俺の呟きを聞いていた母さんは褒めて励ましてくれるけど、こういう反復練習をするのはなかなか変化が感じ取れなくてつらい。

 一流になるにはかなりの根気強さがいるだろう。

 

「魔法はただ繰り返すんじゃなくて、細かいところまできちんと意識するのが上達のコツよ。一度上手くできた感覚を覚えたら、次からもそれができるようになるわ」

 

 母さんの言う通り、確かにそんな感覚はある。

 魔法の反復練習は、筋トレのように何度も繰り返すことで筋肉をつけるような目的、魔力量を伸ばす為にやっているのではないらしい。

 正しいフォームを体に覚えさせるための反復だ。


 何度も魔法を繰り返すことによって、最も効率よく魔力を変換する感覚やスムーズに魔力を移動させる感覚を体で(いや魂で、か)覚えていくのが目的だそうだ。

 つまり、何も考えずに繰り返すだけでなく、一回一回きちんと意識してやるのが重要だ。

 

 もちろん、強力な魔法を使うには魔力量も重要である。が、重い物を持ち上げるのには筋肉さえあればいいが、魔法は魔力さえあれば発動できるわけではない。

 実際、俺は母さんが手本として見せた魔法に使われていたのと同じくらいの魔力を手のひらに集めることは出来ているのに、その後の変換でかなりの魔力を無駄にしてしまい、結果何段階も劣った魔法になってしまっている。

 だから、魔法を上達させたければ何度も繰り返して少しずつ効率を上げていく必要があるのだ。

 

 そのような魔力を扱う感覚は、自転車に乗ることに例えることができるだろう。

 最初はどうすればいいかわからないが、何度も失敗しながらたまにうまくいった感覚を覚えて少しずつできるようになっていく。

 そして、一度覚えた感覚はその後も決して忘れない。

 だから、魔法はコツさえつかめばいきなり上手くなる場合もあるらしい。

 マッチくらいの火しか出せなかった魔法使いが、ある日突然やり方に気付き、キャンプファイヤーくらいの火を出せるようになった例もあるそうだ。

 

 要は慣れと気付き。

 イメージを現象にする、と言ってもただ単に想像力を働かせるだけでは意味がない。

 俺も繰り返し練習しているうちに、母さんの言うその言葉の意味がわかってきた。

 

 単に魔力量だけで言えば、理論上は今の俺にも母さんがやったような簡単な魔法は使える可能性はある。

 初めてで自転車を乗りこなすくらいセンスがある人もいるわけだし、難易度の差はあれど魔法でも同じような人はいるだろう。

 しかし、一応俺もセンスはある方みたいだが、まだまだ全然母さんたちのようにはいかない。

 だから母さんが言うように、コツをつかむように意識して反復するしかないのだ。

 

「うん、頑張る」

「ふふふ、頑張るのもいいけど、今日はご飯を食べた後にミシェルちゃんの所に行くから、魔法の練習はその辺にしておいたら?」

「わかった」

 

 まだまだ魔力には余裕はあると思うけど、母さんの言う通り練習はここまでにしとくか。

 向こうでもミシェルに見せたいしね。

 

「フローラは午後からって言ってたけど、少し早めにご飯を食べて先に行く?フローラの仕事が終わってなかったら待てばいいだけだし」

「うん。そうしたい!」

 

 母さんの提案に賛成する。

 フローラさんの仕事が早めに終わっていたらミシェルにもすぐ会える可能性もあるし、早めに行くという提案には何の異存もない。

 

「それじゃあ、もうご飯作るわね。エストもそれでいいわよね?」

「ああ、構わないよ」

 

 父さんも食事の時間が少し早くなるが、構わないと言ってくれたので早速母さんは料理にとりかかり始めた。

 

 ちなみにだが、こちらでは一日二食の家が多い。

 うちなんかまさにその典型で、午前(昼前後)に一回、夜に一回食事をとる。

 朝ご飯と昼ご飯が一緒になっているような感じだから、一食目が早い家では朝からヘビーな食事になるらしい。

 うちは一食目の時間は午後の予定に合わせて調節するが、何もなければ大体正午前くらいになる。今日は早めに家を出たいという俺に合わせて、時間を早めてくれたというわけだ。

 夜は太陽が沈んでからだな。季節にもよるけど。

 

 

 

 


「いってきまーす」

「ああ、いってらっしゃい」

 

 昼ご飯を食べてすぐに母さんと家を出る。

 父さんはバルバロン家の屋敷には行かないので留守番だ。

 留守番って言っても、うちのすぐ隣にある何もない広場で身の丈程の長剣を振り回して鍛錬しているんだけどね。

 

 父さんはかなり強いらしいけど、その剣術がどうなっているのか俺にはわからない。

 すげー速いから、俺には何がどうなっているか説明できそうにないのだ。凄いとしか言えない。

 ただ、流れるような美しい動きから、それが洗練されたものであることはわかる。

 

 かっこいいなぁ。

 魔法だけじゃなく、あの剣術も俺に教えて欲しいな。

 まあそれは俺がもう少し大きくなってからだけどさ。

 

 そうして鍛錬をしている父さんに見送られながら、ミシェルのいる屋敷に向かう。

 

 母さんの手には布にくるまれている本がある。俺が借りている、神について書かれた本だ。

 今回は四日という短い間隔で再び向こうを訪れることになるため、魔法を練習する傍らで本の内容も急いで全部読んだ。


 今回はもう少し借りますと言っても別によかったのだが、叡智神の加護のおまけ機能を使えば本の内容は全部記録しておけるため、わざわざ全部を覚える必要はなく、一度最初から最後まで読みきるだけでよかったので、そこまで難しいことではなかった。

 可能ならまた別の本も借りたいな。

 そんなことを考えながら屋敷までの道を歩く。

 

 バルバロン家の屋敷は俺たちのいる街の中心にある。

 俺の家は比較的中心に近い場所にあるため、それ程離れていない。

 俺の歩く速度でもそれほどかからないうちにたどり着ける距離だ。

 

 その屋敷までの道のりを歩いている途中、遠くから大きな音が突然聞こえてきたような気がした。

 ちょうど街の中心辺り、バルバロン家の屋敷のある方向だ。

 ドーンという、爆発みたいな音のようだった。

 

「今、何か音が……」

「ええ……そうね」

 

 俺と同じような音を聞いたようだが、母さんも困惑している。

 この辺はまだ店も多いが、周りにいる大半の人は音に気付いた様子はない。

 耳がよさそうな獣人が何人か首をかしげている程度だ。

 大したことではないかもしれないが、屋敷の方から聞こえてきたというのが気になる。

 

「……少し急いで行くわよ」

「うん」

 

 母さんが俺と本を一緒に抱えて走り出した。

 少々雑な運び方だが、俺もなんだか嫌な予感がするので急ぐことに文句はない。

 

 母さんが少し走っていると、屋敷が見えてきた。

 街の中心ではあるが、遠目には周りに人はいないように見える。

 防犯の観点からなのか、バルバロン家の屋敷は建物群とは少し離れた所で一軒だけ建っている。

 だから基本的に一般市民はここに来ることすらないので、周りに人がいないのはそこまで不自然じゃない。

 俺たちのように音に気付いて来た人はいないようだ。

 しかし、その光景を見て何故か嫌な予感がした。

 

 前世でも何度かこんな感覚になることはあった。

 それは大抵身に危険が迫っているときや知っている誰かが死ぬときで、人柱の苗字を持つ霊感のある親族も似たような感覚になったり霊を見たりしていたらしい。

 これはただのなんとなくの感覚であって、俺自身は何か霊的なものを見たとかそういうわけではないのでそこまで信じてはいなかったが、それでも俺は普段はこの感覚に従って行動していた。

 前世で死んだときには何も感じなかったのであまりあてにならない感覚ではあるが、それでも今回はかなりはっきりと嫌な感じがしている。

 似ているのだ、俺が前世で死んだあのデパートの、死が充満していたあの雰囲気に。

 

 母さんがだんだん近づいて行くうちに、屋敷の様子がはっきりと見えるようになってきた。

 はたしてそこには、俺の予感を肯定させるかのような光景があった。

 

 そこには、通りすがっただけと思われる数名の人と屋敷の門番二人──狼獣人と鳥獣人の門番が血を流して横たわっていた。

 

 そこには、門番たちの、死体が、あった。






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