第五話 初めての魔法
「ただいま」
「あら、エスト、お帰り」
「お父さん、おかえりなさい」
ミシェルたちのいるバルバロン家を訪ね、借りた本を読んだ後眠りながら神様に魂の診察をしてもらった次の朝、予定通りに父さんが帰ってきた。
「依頼は無事達成だ」
「よかったわ。今回は少し長くなる依頼だったから心配したのよ?」
「はは、すまない。久々に歯ごたえのある魔獣と戦いたくなったんだ」
「しょうがないわね。無事帰ってきたから許してあげるわ」
帰ってくるなりイチャイチャし出す父さんと母さん。羨ましい限りだね、まったく。
しかし、今回の依頼が少し長かったのは本当なので、これくらいは大目に見よう。
父さんが帰ってきたから予定通り魔法を教えてもらえるだろうしね。
「ご飯は食べた?」
「いや、起きてすぐに私だけ飛んできたから、まだご飯は食べてないんだ」
「それじゃ、すぐ用意するから待ってて」
「ああ、久々のクラウの料理、楽しみにしているよ」
母さんの料理は確かに美味しい。父さんが急いで帰ってきたのも頷ける。
しかし飛んできたのか……。普段は出してないから俺は父さんが翼を具現化しているところを見たことがないんだけど、どんな感じなんだろう。
「ルシフェルもごめんね?しばらくは家でゆっくりするよ」
「やった。お父さん、魔法教えて?」
「え?魔法?ルシフェルは魔力感知できるようになったのかい?」
「違うけど、魔法使えるようになりたい。お父さんたちみたいに強くなりたい」
「ああ、そういうことか……」
ちょうどいいタイミングなので、父さんにも俺が魔法を習得したいという旨を伝えておく。母さんと同じ様な反応だったが、俺が強くなりたいと理由を言ったら一応納得したようだ。「お父さんたちみたいに」の部分が効いたのかもしれない。
「ルシフェルが魔法か。適性はあるだろうし、ルシフェルは賢いからな。うん、いいんじゃないかな。母さんにはもう言ったの?」
「うん、お母さんもいいって。お父さんもいいなら今日から教えてくれるって言ってたから、楽しみにしてるんだ」
魔法は魔力感知が自然とできるようになってから身につけるのが普通だって言うから反対されるかとも思ったが、父さんも意外とすんなり受け入れてくれた。
「ルシフェルは僕とクラウの適性を受け継いでいるから、今の時点での潜在能力はこの世界の最高峰と言っていいだろう。だけど、自分の生まれ持った才能に頼るばかりで努力を怠れば、努力した者には負ける。今から魔法を学ぼうとする姿勢はすごくいいけど、すぐに調子に乗ったらいけないよ?」
おお、含蓄のある言葉だ。しかし、魔法を覚える前からこんな注意をされるとは。
普通の人間族と妖精族のハーフから、自らの努力で最上位人間族と最上位妖精族として覚醒した父さんらしい言葉だと思う。
「うん!頑張る!」
「それじゃあ、まずは魔力感知の練習から始めるわよ」
「うん」
父さんが朝食をとった後、早速母さんに魔法を教えてもらうことになった。父さんも隣で見ている。
といってもまずは、魔法を発動させる為の原動力となる自身の魔力を感じ取るところから始める。
魔法に適性のある種族は、これが自然にできるようになったときから魔法を教わり始めるそうだが、自力で感じ取れるようになる為の訓練法もちゃんとあるらしい。
「それじゃあルシフェル、こっちに来なさい」
「はい」
その訓練法がどんなものかはわからないが、とりあえず母さんの言う通りに近づいてく。
母さんは俺が目の前まで来るといきなり抱きしめてきた。
「むぐぅ。ど、どうしたのお母さん?」
「今からルシフェルに私の魔力を流し込むわ。その感覚をつかんで、感じ取れるようになったら魔力感知は成功よ」
な、なるほど。自分の魔力を流し込む為に抱きついたのか。
俺の顔には母さんの柔らかい胸が押し付けられていて、非常に幸せな気持ちだ。
子供の体だし、授乳で慣れてはいるから興奮はしないけど、抱きしめられているぬくもりと母さんから感じる愛情はとても心地よい。
そんなことを思っていると、ゆっくりと体の中に何かが入り込んでくるような感覚が俺を襲った。叡智神やリンネさんから恩恵を貰ったときに感じたような、魂に力を流し込まれる感覚に近い。
少しむずがゆいが不快感は無く、母さんのぬくもりに体内まで満たされていくような気分になった。
「どう?私の魔力は感じ取れる?」
「うん。なんか体の中がぽかぽかする」
「自分の魔力は?体の外にある私の魔力や周りのマナは?」
「自分の?外の魔力?」
「そう。それが感じ取れないと魔力感知とは言えないわ」
今はなんとなく何かが入ってくるような感じがしているだけだ。
これでは駄目なのか。
「わからない」
「それじゃあ、そのまま魔力の感覚だけに集中していて。母さんの魔力がルシフェルの魔力と混ざり合っているのを意識するのよ」
「うん」
母さんに言われたように、自分の魔力をつかみ取れるように意識してみる。
魔力──体の中に巡るエネルギー。肉体とは異なり、質量を持たないエネルギー。
魂も物質としての質量を持たないエネルギーの塊だ。
この世界で読んだ何かの本では、魔力とは世界に満ちている目に見えないエネルギーであるマナを、体内、正確には魂に取り入れて自分で操れるようにしたもの、と説明されていた。
リンネさんの神域に招かれたときのような、魂だけになった状態を意識すればいいのだろうか。
確か魂は体の中心、心臓部にあると前世の霊感ある親族達が言っていた。
よし、集中。心臓の辺りに意識を向けてみる。
──────────ん?
心臓を意識してみると、母さんが俺の体内に送り込んでいるのと同じようなものを一瞬感じた。
この調子で続ければいいのだろうか、と思った次の瞬間。
「うわっ!」
突然目の前が眩しくなり、思わず目を瞑る。しかし、目を閉じてもその目映さは変わらない。
これは一体……。
「魔力を感じとれるようになったの?少ししたら慣れるから、そのまま待ちなさい」
母さんのアドバイス通り、とりあえず落ち着いて待つ。
しばらくそうしていると、だんだん周りの光に慣れて刺激が和らいでいく。
二、三分すると、光はそのまま感じるものの問題なく過ごせるくらいになった。
いきなり感じた光の正体は、母さんの言った通り魔力だったようだ。
母さんの体から俺の体内に魔力が流れ込んでいるのが視覚的に感じ取れる。
「これが魔力?光るもやもやが入ってきてる……」
母さんの体から俺の体に入ってくる魔力は紫に近い黒だ。その見た目は地球で一般的にイメージされているオーラとか気に近い。
水のように流動性を持っていて、膜のように体を覆っている。
それに触れている部分はぬるま湯に浸かっているような感じだ。
俺の魔力は若干薄めの灰色をしている。
その魔力が体の中を血液のように巡っていって、魂を中心に循環しているのがわかる。
母さんが体に送り込んでいる魔力は俺の魔力と混ざり合うように染み込んできて、一部黒に近い灰色になっているようだ。
視界には入り込んでいないが、父さんの魔力も何故か見える。
といっても、父さんの魔力はほとんど体から出ていない。ほんのわずかな量の魔力が湯気のように少しずつ体から漏れ出ているだけだ。
ただ、色は輝きのある白だとわかった。
目で見えてないのに色までわかるということは、魔力を目で感じ取っているのではなく、魂か何かで感じ取っている魔力を視覚化して認識しているということだろう。魂だけで肉体の無い神域でもリンネさんや叡智神を視覚的に捉えたり話したりできていたことからもそう推測できる。瞼を閉じても見えていたしね。
視界に入っていない範囲の魔力も視えているというのは不思議な感覚だ。
魔力が見えるようになるのと同時に、周りにあるマナも見えるようになった。
大気中にも大地にも、魔力のようなエネルギーが満ちているのがわかる。
赤、青、黄、緑、白と様々な色にチカチカと光ったマナが漂っている。
そのマナの一部が体に入り込んで自分の魔力となるのと同時に、自分の魔力も体から漏れ出すように大気中に流れてマナとなり、魔力とマナの間にも循環があることも感じ取れた。
ただ、俺の体から漏れ出ている魔力は明らかに父さんより多い上に、母さんのように体を覆うように留めておくこともできてない。
「それが魔力よ。きちんと感じ取れるようになったようね」
「う、うん!すごい!これが魔力なんだ!」
魔力が自分の体を巡っている感覚、そして大気に漂う幻想的なマナの様子。
一度これを認識すると、むしろどうして今まで気付かなかったのかという程はっきりと感じ取れる。
「魔力が見えるのよね?触った感覚はわかる?」
「うん」
「じゃあ魔力の匂いは感じる?」
「魔力の匂い?」
母さんに言われてみて、匂いにも意識してみる。
……母さんから女性のすごくいい匂いがするけど、これは最初からだからな……。
「わからない」
「そう、まだ成熟してないし、今のルシフェルにはこれで十分ね。大きくなったらそのうち女の子の魔力から美味しそうな匂いを感じ取れるようになるはずだから、匂いの感知は急がなくてもいいわよ。魔法にはあまり関係ないし」
女の子から美味しそうな匂いだって?
そういえば種族について書かれていた本で、夜王族は異性を誘惑し、性的に食べる過程で魔力を吸収するとあった。そのために美味しそうな匂いがわかるようになるのだろうか。
だとすると魔力を五感のうちの味覚でもわかるようになるのかもしれない。
やっぱり夢魔っぽいな、夜王族って。この体を選んだのは強さを重視しただけで、別にエロいことを考えてた訳じゃないんだけどな。
……いや、スイマセン、本当は少しは考えてました。
「そ、そうなんだー。でも、匂いがわからなくても魔法ができるならよかった」
「ええ、もし匂いが感じ取れるようになったら母さんが夜王族としての技術を手取り足取り教えてあげるから、そのときは母さんに言うのよ?」
「う、うん、わかったー」
手取り足取りって、一体ナニを教える気ですか……。
いや、一瞬変な妄想が浮かんだが、父さんのいる前で言っているわけだし、きっと比較的健全な内容なのだろう。何をどうやって教えるのかは疑問だが、多分大丈夫だと信じよう。
「ルシフェルは賢いだけじゃなくて才能もあるな。こんなすぐに魔力感知ができるようになるとは。人にもよるが、普通はもっと何日もかけたりするんだよ」
父さんも感心したように俺を褒めてくれた。
へぇ、俺は一回で普通に魔力の感覚をつかめたけど、普通はもっとかかるのか。
魂だけのときの感覚が役立ったのかな?
「夜王族は魔力を自然と感知できるようになるのは大体成熟してからで、異性の魔力の匂いを感じ取れるようになった後で味覚、視覚、ってなることが多いわね。ルシフェルみたいな順番は珍しいかも」
なるほど。俺は訓練で早く身につけたから順番が逆転しているのか。
「妖精族は生まれつき感じ取れるのもそこまで珍しくないが、個人差もあるからな。人間族は適性が低ければ気付かずに一生を終える人がほとんどだ。どちらも最上位としての力で受け継いでいるとはいえ、自力でこれだけ早く感知できるのはすごいぞ」
「そうなんだ。僕すごいんだ!」
少し大げさに言っているかもしれないが、母さんと父さんから褒められるのは悪い気はしない。
「ええ、ルシフェルはすごいわよ。ご褒美に、早速私たちの魔法を見せてあげるわ」
そう言って母さんは俺から体を離し、少し離れた所で俺に手のひらを向けた。
そして体を膜のように覆っていた魔力を体内に留めて漏れ出さないようにする。
今まで魔力を体に纏っていたのは、俺に魔力を感じてもらう為だけにやっていたことだったようだ。
しかし、魔法を見せるって……何をする気だろう?
「闇魔法に特化している夜王族にとって基礎となる魔法よ。よく見ていなさい」
「はい」
そう言って母さんは今度は手のひらだけにその紫黒の魔力を集め出した。
すると、魔力が少し集まったところで
「【闇煙】」
と唱えると同時に、手のひらから闇を噴射した。
「おおっ!」
煙のように手のひらから放たれたそれは、まさに闇としか表現できないようなものだった。
黒い煙ではない。一切の光を持たない闇。
黒く見えるというより、その空間が見えない、認識できないといった感覚。
ベタ塗りされた黒ではなく、ページに穴が開いている所を漫画のキャラ視点で見ているような気分だ。
そんな闇が俺の目の前までゆっくり漂ってきて……触れそうになる前に霧散する。
闇に覆われて認識できなかった空間は、闇が晴れた後も何事もなかったかのように存在している。
「すごい!これが魔法!?」
「ええ、闇属性の基礎魔法の一つ、【闇煙】よ」
原理がまったくわかんねぇ。一体どうなってんだ。
大抵の魔法は一見物理法則を無視しているように見える。
しかし、転生先を選ぶ際に叡智神に聞いたところによると、「魔法は物理法則を無視しているんじゃなくて、魔法則に従って発動しているんだよ」らしい。
エネルギーが薄くて、魔法のような能力を扱える者がほとんどいなかった地球では認識されていなかった未知の法則が、こちらの世界では当たり前のようにあるのだろう。
一見なんでもありの魔法にも、きちんとしたルールがあるはずだ。
「私がどうやって魔法を発動させたかわかった?」
「手に魔力集めてー、それを使って発動させてたー」
「そう、正解よ。魔法は魔力を操ってから使うの」
魔法の発動には魔力が必要。
そして魔力を事象に変換するのだが、より大きな事象を起こそうとするとより魔力を必要とする。ここに一つの魔法則が見える。
エネルギー保存の法則だ。物理法則と同じように、魔力のエネルギーを事象に変換するときも、そのエネルギーの総量はおそらく変わっていない。
これは一応、魔法が物理法則を無視していない根拠となる。
「あとはこれね、【水球】【点火】」
「すごい!水と火だ」
母さんは続けて、右手の指先に小さな水の球体を、左手の指先から少し浮いたところに小さな火を発現させた。
当然どちらも魔力を変換させて発動している。
この二つを科学的に説明するのは難しそうだ。
水の具現化は質量の無い単なるエネルギーが質量を持つ物質、原子に置き換わっていることになるし、火の具現化は燃えるもの無しに燃焼という現象だけが起こっているという点において不可解であるからだ。
しかし、原子の生成については単に質量の無い「無」からも質量のある「有」が生み出される、という概念が正しかったというだけだし、火についても、魔力を燃やしているとか熱を炎の形で具現化しているとか、いろいろ説明は考え付く。
一応叡智神の加護を受けている訳だし、安易に「魔法だから」で納得せずにその実態、そしてその原理を利用した新しい応用法などを考えたい。
「私が使えるのはこの三つの属性ね。火と水は中位程度の適性だけど、闇は種族の特性で最上位だから、ルシフェルにも受け継がれているわよ」
「闇属性……」
夜王族は個人の適性とは無関係に必ず闇属性に強い。だから魔法の適性が無いパターンは心配してなかったけど……母さんは三つも適性あったのか。流石は高位種族だな。
「今度は僕の魔法を見せよう。空属性と、ルシフェルにも受け継がれている光属性だ」
そう言って今度は父さんが手のひらを上に向けて手を出してきた。
父さんが魔力を手のひらに込めると、そこからギュルギュルと音をたてて小さな竜巻が発生する。
「おおー」
さらに、竜巻の中心に光の球が現れたかと思うと、ゆっくりと竜巻に合わせて回転し始めた。
母さんと同じような同時発動だし、声に出して魔法名も言ってない。詠唱破棄とかあるのだろうか。
「これが【竜巻】と【灯光】だ。小さく作ったけど、全力でやったらもっと大きくもできるよ」
「父さんもすごい!」
「はは、ルシフェルも頑張ればきっとできるよ」
魔法は今までもちらっと見たことはあったけど、こうして目の前で実際に見るとすごいな。
なんかますますやる気出てきたかも。
「どうやって魔法使うの?」
「まずは私たちの真似をして魔力を手に集めてみて」
「わかったー」
母さんと父さんがやっていたように手のひらに魔力を集めてみる。
ぐぬぬぬ……この時点で結構むずいぞ。
母さんたちのように一瞬で流れるように、とはいかない。
体内の魔力がカタツムリのようにのろのろと手のひらに集まってくるが、集まったそばから俺の制御下を離れてマナになりそうになるし、体の外に出した魔力を留めておくのも難しいみたいだ。
しばらく悪戦苦闘してなんとか魔力を手のひらに集めたが、それまでに同じくらいの魔力を無駄にマナにして散らしてしまった。これ要訓練だな……。
さて、こうして集めた魔力を魔法に変換……あれ?こっからどうやって魔法を発動させるんだ?
「魔力は大体集まったわね」
「うん、この後はどうするの?」
「さっき僕たちがやったような魔法になるよう、頭の中でイメージするのさ。ルシフェルの適性のうち闇と光はわかっているんだから、どちらかを想像してみたらいいよ」
「想像するだけ?」
「……正確には魔力を魔法に変える、って強く思うのよ。だから集めた魔力が闇や光になるところを想像するの」
……それだけなんだ。強く思う、ねぇ。
とりあえず母さんと父さんの言う通りに、頭の中で思い描いてみよう。
順番通りに闇からいくか。
言われてないけど一応掛け声も。
「【闇煙】」
すると、俺の手のひらに飴玉くらいの小さな闇が出てきたかと思ったら、ふわふわと三秒くらい浮き上がってすぐに消えた。
えぇ。
先程母さんがやったように手のひらから闇が噴出するのを想像してみたが、結果は非常にしょぼいものだった。
残念すぎる……。
しかし、母さんたちにとってはそうではなかったようで
「一回でできたの!?すごいじゃない!」
「小さいがちゃんと魔法になっているな。初めてにしては上出来だよ!」
と、結構褒めてくれた。
「母さんみたいにできなかったよ?」
「それは当たり前よ。私は十年以上かけて訓練したんだから。最初から魔力を動かせたのも結構凄かったけど、魔法まで発動できたのはもっとすごいわ」
「普通は手のひらに魔力を集めるのも何日か練習して、魔法を発動させるのにはさらにその倍くらいかけるんだぞ。ルシフェルみたいにすぐできる子がいないわけじゃないけど、とっても珍しいんだ」
俺が母さんの魔法と比べて落ち込んでいると、母さんも父さんも俺が滅多にないくらいくらい魔法の習得が早いことを力説してくれた。
この二人の言っていることが本当なら、確かに俺は結構優秀だということになる。
最初からこれだけできれば十分なんだ。
魔法に込めた魔力は母さんと同じくらいだったと思う。
だとすればこの差は、魔力の変換効率かイメージ力の差なのだろう。
魔法に変換する際にかなりの魔力が逃げていくような感覚があったし、少なくとも効率は母さんの魔法と比べてかなり悪かったと思う。
「今度は僕がやったように光魔法もやってごらん。闇魔法ができたならこっちもできておかしくない」
「わかった。やってみる」
もう一度苦労しながら魔力を手のひらに集める。今度はさっきより若干早めにできたような気がする。
そして、集めた魔力に先程見た光になるよう強く念じてみる。
「【灯光】」
光も弱く、大きさもやはり飴玉サイズだが、今回も魔法は発動した。
目の前に光球が浮いている。
「おお、やっぱり光魔法も使えたか」
「すごいわよ、ルシフェル」
「やった」
せっかくなので、作った光球を父さんがやっていたように動かしてみるが、俺から離れるほど制御が難しくなり、戻って来させることができなくなった次の瞬間には消えた。
これは制御可能な範囲を離れたから消えたのか、それとも時間切れで消えたのか。
母さんが割と長い距離まで闇を飛ばしていたから、魔法は離れても込めた魔力が尽きない限り存在し続けると思うのだが、練度による制御可能範囲の差の可能性もある。
「消えるのはなんで?」
「それは魔力が足りなくなったからだよ。水や土は魔法で作ってもそこに残るけど、光を出し続けるのにはずっと魔力を使う必要があるんだ。闇も同じだよ」
光みたいな魔法は一度生成して終わりの物質とは違うのか。
一応理論は納得できる。
ということは、光魔法や闇魔法を持続するにはあらかじめ多く魔力を込めておくか、魔力の制御可能範囲内に留めて絶えず魔力を込め続ける必要があるというわけか。
「闇とか光を出すのと、飛ばしたり動かしたりするのは別の魔法?」
「いや、飛ばしたり動かしたりするのは理属性魔法、あるいは無属性魔法と呼ばれる魔法の一種だよ。これは誰でも使えるから魔法じゃなくて技術──魔技と呼ぶ人もいるね」
へぇ。
こうして魔法に推進力を与えたりするのも魔法みたいなものなのか。
この理属性魔法はどんな魔法にも必要になるから、実は一番重要かもしれない。
闇と光を生成するだけじゃなく、魔法を操作するこの技術もしっかり練習しないとな。
「しかし……ルシフェルはすごいな。適性があったとはいえ闇魔法も光魔法も一発で使えるようになるとは。しかも魔法に関する考察も結構鋭いね。他の闇属性魔法や光属性魔法もすぐにできるようになって、もっとレベルの高い魔法も習得できそうだ。クラウに似て天才肌だね」
「エストみたいに努力家なところもあるから、きっと優秀な魔法使いになれるわ」
「ルシフェルが優秀なのはクラウのおかげだよ」
「エストの存在が大きいのよ」
うちの両親が俺を褒めるように見せかけて互いにイチャイチャし出したぞ。
この二人、いつもこんな感じなんだよなぁ。
「他の魔法もやってみていい?」
「いいけど……今のルシフェルにとってはかなりの量の魔力を使ったと思うけど、体調とかは何ともないの?」
俺が質問をしたらちゃんと答えてくれたが……体調を心配するって、魔力と体調に何か関係があるのだろうか。
今は特に不調とかは無いんだが……。
「魔法使ったら、気分悪くなるの?」
「ええ、私たちは誰でも、適性とかに関係なく普段から無意識に体調を崩さないように体の管理に魔力を使っているの。無意識だし効果も少しだから魔法とは呼べないレベルだけど、魔力消費したりしてそれができなくなったら結構だるく感じたり、本当に魔力を使い果たしたときなんかはかなりつらく感じるの。ルシフェルはまだ魔力量を増やす訓練はしてないからそろそろだるく感じていると思うんだけど……」
「なんともないよ?」
母さんは少し心配そうな顔をしたが、俺はなんともない。
まだいけそうな感じがする。
「大丈夫だから、もうちょっとやっていい?」
「ええ、大丈夫ならいいけど……気分が悪くなったらすぐに言うのよ?」
「はーい」
とりあえず気分が悪くなるまでは他の魔法にも挑戦してみよう。
そう思って、俺の種族によらない個人としての適性も確かめながら他の魔法も試していく。
結果わかったことがいくつかある。
まず俺には火属性の適性も割とあって、海属性(水の魔法とか)と空属性(風の魔法とか)も少しだけ適性があった。
地属性と命属性がまだわからないが、ひょっとしたら全属性が使えるかもしれないと母さんが言ってた。
さらに、俺の保有魔力量も普通ではないらしい。
五つの属性の魔法を一度ずつ発動させただけでなく、その後も何度か魔法の練習し、失敗で魔力を無駄に消費したりもしたが、それを何回も繰り返してやっと気分が悪くなったの俺の保有魔力量は二歳児としては多すぎるらしい。
母さんが魔力を流し込んでくれたおかげじゃないかとも思ったが、母さんはゆっくり少しずつ俺の体内に送ったため、魔力量はそこまで変わってなかったはずだと言う。
心当たりがあるとすれば、リンネさんの特大級の祝福の効果かな。
魂とマナや魔力は関係しているから、魂の神であるリンネさんの祝福が魔力に影響していてもおかしくはないと思う。叡智神も魂の容量が増えたとか言ってたし。
すぐに強くなれるようなものじゃないし、努力しなければ意味がない恩恵だけど、これって結局女神様からちょっとしたチート貰ったようなもんだよな……。
まあいずれにせよ、適性のある属性が多いのも魔力が多いのも悪いことじゃないし、得したと思っておけばいいのかな?
潜在能力が高くても努力しなければ負けるって父さんも言ってたし、今日から魔法の訓練頑張ろ。
せめて目の前にいる人ぐらいは助けられるように、ね。




