4・青木 義正
黄博が亡くなってから三ヶ月が過ぎた。
季節は既に冬を迎えていた。
青木自身も身体がまともに動かなくなってきていた。
青木は考えた。
何が悪かったのか。
一人で考えていても答えは出てこないと感じた青木は、PCの前に座り、久しぶりに配信をすることにした。
SNSで一時間後、緊急配信と告知してからPCのセッティングを終わらせ、時間がくるのを待った。
青木は深呼吸するも咽せるばかりだった。
「時間か・・・」
画面には自分の姿が映し出され、コメント欄には半年前より少なくなったリスナーたちがいた。
@ひさしぶりじゃん
@他のメンバーは?
@ばか! 他のメンバー死んだらしいぞ
@まじで? なら今ヨッシー一人なのか?
@俺もニュース観てびっくりしたぞ
@ヨッシー! 詳細希望!
コメント欄には現状を知っている人と知らない人がいた。
「オカルトはんてぃんぐ OH!のヨッシーです。 みなさんお久しぶりです。 ゴホッ ゴホッ・・・」
@ヨッシー体調悪そうだな
@治るまで休んでりゃいいのに
「知っている人は知っていると思いますが、僕以外の人が全員亡くなりました・・・」
顔を伏せて淡々と語る青木。
コメントも静まり返っている。
「ヒッキーが亡くなる前に、お互いの近況を報告しあった事がありまして、その時も体調がよろしくなかったんです。 身体の方も動かすのが辛くて・・・」
思い出しながら拳を握りしめる青木。
「医者に行っても原因はわからず・・・」
一度呼吸を整えようと深呼吸するが、やはり咽せるだけであった。
「そこで皆さんに知恵を借りたいと思い、今日の配信を行いました」
@いつからなんだ?
@そうだな時期的に教えてくれ
@ネタか?
@顔色は・・・普通か?
「時期ですか・・・、確か異常を感じたのが五ヶ月前くらいだったかな、ちょうどケイが亡くなった頃かな。 それから三ヶ月後にヒッキーと話したときに二人とも似たような症状だった」
@・・・・・・
@なぁ・・・
@あぁ、あれじゃないか?
@俺もそんな気がする
@みんな心当たりあるのか?
@教えてくれ
「みんな心当たりあるのか? 頼む教えてくれ!」
@あれだよ、お前たち四人が入った洞窟
@あの動画からお前らおかしくなっていったじゃん
@お払い池
@何だよお前それ
@お祓いだろ?
「あんなのが原因なのか? 信じられないな」
@いやいや、お前オカルト扱ってんだからそんなこと言う?
@お祓い専門の寺教えるぞ
@柳寺、ここ良いらしいぞ
@ここみれ ttp//:oharaiyanagi.・・・・・・
俺は教えてくれたアドレスを踏んでみた。
その寺は主にお祓いと供養を主としたものであった。
昔、神社から分かれた所らしいと書かれていた。
「・・・今は藁にも縋る気持ちだから行ってみるか」
@おう、そうしろ
@行くときも配信よろ
@見たい見たい
@満場一致で決まりました
「そうだな、お前らにも世話になったし、やるよ配信」
@なら早速予約入れとけ
@決まったら報告よろ
「今入れるよ、ちょっと待ってて」
スマホから先ほどの寺の予約ページに飛ぶと、電話番号だけが記載されていた。
電話番号をタップすると、スマホから音声メッセージが流れてきた。
暫くすると電話が繋がり、男性が話しかけてきた。
俺はここをネットで教えてもらったこと、今までのこと、今の状態を細かく説明した。
『わかりました、次の日曜日の朝が空いていますが・・・』
「そこでお願いします」
俺はスマホの通話を切った。
「予約入れた。 次の日曜日の朝だ」
@入れたか。
@配信待ってるぜ
@治ると良いな
「みんな、ありがとう」
俺は配信を終了して、そのままベッドへ潜り込んだ。
*
予約を入れた日曜日。
青木はタクシーではなく、電車で移動していた。
何となく、何となく電車で移動してみたかっただけだと感じていた青木だった。
電車に揺られて車窓から外を眺めている。
家から電車で二時間の場所に、目的の寺がある。
それまでは車窓から流れる風景を楽しんでいる。
「こんなにゆっくりと電車に乗るの、久しぶりだな・・・」
自然と口にしていた言葉。
流れる風景は、都会の殺伐とした風景から切り替わり、建物が少なく、畑が多く見られるようになった。
青木は一人になって、仲間のことを思いだしていた。
紫田。
あいつのカメラワークは最高だったな。
編集もあいつに任せておけば問題なく視聴者に受け入れられていた。
赤城。
俺たちの中でダントツの人気を誇っていた稼ぎ頭。
私生活のことはよくわからなかったが、俺たちの中ではムードメーカーだったな。
黄博。
俺たちの中で唯一の彼女持ちだった奴だ。
俺も含めてあいつには嫉妬していたな。
あんなに可愛い彼女がいたんだからな。
・・・それもこれも、今では遠い過去の話だ。
紫田。
彼は何かしらの事件に巻き込まれて死んでしまった。
赤城。
彼もまた、街の裏路地で暴漢に襲われて首の骨を折られて死んだという。
黄博。
まさか彼女を襲って殺すなんて・・・。
未だに信じられない。
そんな黄博も原因不明の死を迎えたとか・・・。
青木は仲間の死を思い返していた。
「どうしてこうなっちまったんだ・・・」
青木の中には、悔しさと後悔の感情が入り乱れていた。
「俺たちが何をしたっていうんだ」
車内で自分の身体を抱きしめながら、呪詛のように繰り返しつぶやいていた。
列車は目的の駅に到着した。
青木は重い体を引きずるように改札を出て行った。
「なんにせよ、お祓いを済ませればこの苦しみから解放されるかもしれないんだ・・・」
青木はポケットからスマホを取り出し、三脚にもなるスマホホルダーにセットし、配信を開始した。
「おはようみんな、今日は約束通りに配信をしながらお寺に向かおうと思います」
@まってました!
@一時間前から待ってたぜ
@てか、お前そんな薄着で寒くないのか?
@うえ、マジかよ。 お前半袖じゃん
@しかも雪が降ってるし
そう、今の青木の格好は半袖だった。
別に寒さを感じていなかったというのが理由だった。
「なんだか全然寒くないんだよ」
@病気じゃね?
@早くお祓いにいけ
@道すがらの配信楽しませろ
「あぁ、今から移動します」
雪が激しく降り始める中、半袖の青木は傘も差さずに歩き出していく。
「すげー雪だな、前が見えなくなってきたぞ」
重い身体を引きずりながら、歩みを進めていく。
前が見えなくなる程の吹雪。
その中を半袖姿の青木が進んでいく。
@なぁ、ヨッシーの吐く息が全然白くないんだが・・・
@俺も気になっていた
@何か変か?
@お前本気で言ってるのか?
自撮りをしながら進んでいく。
辺りからは民家が減っていき、畑が白く染まっている風景へと変貌していく。
歩みを進めていくと、突然後ろから蹴られたように、地面へと転がっていく。
「なんだ? 今けっ飛ばされたような感じがしたんだが・・・」
@思い切り転んだみたいだな
@誰もいないぞ?
@雪で足下がよく見えていなかったんじゃね?
そんなはずはないと青木は思った。
痛みは無かったが、確かに蹴られた感じがした。
周りは吹雪いている。
しかし見えないわけではない。
そこに誰かいれば気がつくはずだ。
だが、転んだ状態で辺りを見回しても青木の他には誰もいなかった。
ホルダーに取り付けられたスマホを構えて立ち上がろうとしたとき、今度は腹から蹴り上げられた。
「ぐあっ!」
蹴り上げられた身体はアスファルトに積もった雪の上を転がっていった。
青木は腹を抑えながら叫んだ。
「誰かいるのか! 俺にこんな事をしてお前に何の得があるんだ!」
@ヨッシー、何叫んでるんだ?
@さっきから一人で地面に転げ回ってるように見えるんだが
@いや、よく見ろ。 ヨッシーは確かに何かの力で浮き上がったぞ!
@錯覚だろ?
@俺にも身体がくの字に曲がって浮き上がるように見えた・・・
コメントにもなにやら異常が確認されてきているようだった。
起きあがろうとした青木の足に何かが叩きつけられた。
ボキッ
バキッ
青木は焦り、這いつくばりながら身体を動かした。
その時異変に気がついた。
青木の足が・・・。
両足とも折られていたのだった。
「な・・・お、俺の足があああ!」
だが、不思議なことに痛みがない。
@うわ! 両足が変な方向に曲がってる!
@やばいやばいやばい
@痛くないのかよ・・・
@ヨッシー・・・やらせじゃないよな?
コメント欄も騒ぎ始めた。
青木はスマホホルダーを握りしめながら這いつくばってその場から逃げるように身体を動かしていく。
青木は振り返り、悲鳴を上げながら一刻も早くこの場から離れたかった。
だが、何かはそれを許そうとはしなかったようで、青木の下半身からきしむ音が聞こえてくる。
青木は悲鳴を上げるだけであった。
握りしめていたスマホホルダーが手からこぼれ落ちていった。
スマホは地面に落ちた衝撃で、三脚の足が開き、さも撮ってやると言わんばかりに青木の姿を捉えていた。
@やばい気持ちわるい・・・
@
@ヨッシーの身体が、逆に曲がっているぞ
@もう見てらんない
もはや視聴者たちも阿鼻叫喚だった。
ある者は画面を消そうと、ある者はPC自体をシャットアウトしようとしたが、なぜか画面が消えないのだった。
誰もコメントをしない画面には、青木の無惨にも叩きのめされる様子がまざまざと映し出されていた。
腰が変な方向に曲がった青木は顔を雪に埋める形となった。
しかし、それでも青木に対する仕打ちは止まらなかった。
雪の中から顔をだした青木が、次に受けたのが両腕だった。
ありえない方向へ曲がる腕。
白く綺麗だったアスファルトの雪は今、青木の口から飛び出したどす黒い血に染まっていた。
もはや力を失った青木はスマホを見つめるだけだった。
スマホを見つめる青木の口は「たすけて」と声にならない声を出しながら、空しく動いているだけだった。
そんな青木の首が見えない力に掴まれながら、道路に設置されているガードレールに運ばれるように移動していく。
そして、見えない力によって青木の首がガードレールに叩きつけられ、体から首が離れていくのだった。
首は地面に放り出されたが、その姿はスマホが逃さず収めていた。
先ほどまで動いていた青木の顔。
配信をしながら歩いていた青木の顔。
何かに襲われ、無惨な姿にされた青木の顔。
しかし、今映し出されているのはそのどれとも違った青木の顔であった。
それは変わり果て、青木とは思えない顔であった。
どこからともなくサイレンの音が聞こえる。
お寺の方からも数人の住職たちが駆けつけてくるようだった。
青木の周りには大きな足跡が数カ所見られただけで、どこから来たのか、それはどこへ消えたのか誰にもわからなかった。
後日、この事件は報道されたが、熊に襲われたと報道されただけであった。
しかし、ネットでは警察や報道関係者は嘘をついて、真実を闇に葬ったと激しく論争が起きていた。
*
洞窟の壁画には、首と胴体が離れた人物の絵が浮かび上がっていた。
それを見つめる鬼の顔は愉快に笑っているようだった・・・・・・。
数年後。
「われわれは不思議を解明するために色々な所を調査しまくる調査団!」
カメラの前で話を進めていく四人の男女が和気藹々と話を盛り上げていく。
「本日はここ、数年前にオカルトはんた~なる集団が入った事でとある界隈では有名な洞窟です!」
「わー!ぱちぱちぱち!」
「楽しそうね~」
進行している若者たちはコメントを無視しながら進めていく。
コメント欄には、
@馬鹿!やめろ!
@そこはたぶん冗談じゃすまされないぞ!
@引き返せ!今すぐ引き返せ!
誰もが中に入るなと、引き返せと言っている。
「やだなー、みんなも知っているだろ? ここは何十人という調査員に調べられたけど何もなかったって言われてたじゃん」
「そうそう、俺たちはただ中に入ってみるだけなんだ。 ただそれだけ」
「私、鬼に襲われたらどうしよ~」
「僕が襲っちゃうぞ~」
やだーと言いながら女は隣の男の頬にビンタした。
「みんなの忠告はしかと受け取った! 無事に戻ったらここでバーベキューだ!」
男女四人は洞窟の中へと消えていった。
鬼の洞 完
この作品のR18版をミッドナイトノベルズにて『鬼の洞』のタイトルで公開しています。
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