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勇者の帰還

 カ――ン、カ――ン。


 王宮の鐘が鳴り響いている。

 外から城へつづく道に多くの人が集まっている。

 群衆から少し離れた場所で、住民が窓から首を出して群衆に加わろうとしていた人間に話しかけた。


「どうしたんだ?」

「お前、知らないのか? 勇者様だよ」

「え?」

「勇者様の凱旋だ!!」


 勇者の帰還に人々は歓声を上げ、花びらを彼の周囲に降らせた。

 しかし、人々の中央にいる馬に乗った男は周囲の人間に目を向けず、ただ鋭い眼差しを城の方へ向けていた。




「勇者よ。再び会えて嬉しいぞ」


 王は玉座から両手を広げ、満面の笑みで喜びを表現した。

 王の周りには王国を動かしている権力者たちがいた。勇者は彼らより下座に立ち、彼らを見上げる位置にいた。


「十年前にここで勇者に魔王を討つ命をしたことが――」

「昔の話は今はいいです。土産話も後でいくらでもします。それよりもワタシの願いを聞いてください」


 王は一瞬だけ眉をひそめたが、すぐに笑みを作り直した。


「おお、そうだったな。勇者。約束どおり、お前の願いを叶えよう。あの魔王を討伐したのだ。遠慮なく申せ」


 勇者は片膝を床につき、王の目をはっきりと見つめ、口を開いた。


「仲間たちを生き返らせてくれ。これがオレの願いだ」


 ざわりと部屋中の空気が動いた。動揺のさざ波が起きる前に王が大きな声で勇者に言った。


「勇者よ。長旅で疲れているのだろう。ここで休め。そして、願いについてまた聞こう」

「王! その必要はありません。今すぐオレの願いをかなえてください」


 勇者は王の言葉にかぶせるように声を上げた。勇者の目は周りの動揺など見ておらず、ずっと王に向けられていた。王はその目に射抜かれ体が固まったが、すぐに気を取り直し、震える声を隠すように声を張り上げて言った。


「勇者と二人で話がしたい! 皆は退席せよ!」







 王座に王が座り、下座に勇者がいる。先ほどと同じ立ち位置だが、周りにいた家臣たちがいないため、部屋が広く感じる。


「王、オレの願いはただ一つ、仲間を生き返らせることだ!」


 王は勇者の気迫に目を泳がせながら、おずおずと口を開いた。


「…………勇者よ。勇者よ。その願いは叶えられない…………。」


「⁉ なぜ⁉ あんたはオレたちが旅に出る前になんでも叶えると言ったじゃないか⁉」


 勇者はさらに訴えかける。


「蘇生の魔法はかなり高難易度で秘匿されていると聞いたが、王宮の魔術師なら……! それに生き返らせたい者は魔王討伐で大きな貢献をしてくれたオレの仲間たちだ! どうか叶えてくれないだろうか?」


 勇者は両膝をつき、懇願するように王へ述べた。


 王は顔を青白くした。


「…………ち、違う。そうでは…………。」


 王がもごもごと口の中で言っているのを見かねたのか、唯一退席を命じられなかった者が王の隣から勇者に話しかけた。


「勇者殿。蘇生の魔法が存在しないのではない。…………できないのだ。」


 口を開いた若い男は、最高位の魔法使いの証である白いローブをまとい、静かに勇者を見据えた。


 勇者は言われたことが理解できないのか、呆然とした表情をした。


「で…………できない? できないと言ったか?」


「できない。そういう噂が広まっていることは知っているが、魔法にも限度がある」


「そんな…………」


 勇者は目を見開いて魔法使いをただ見つめた。部屋に重い静寂が訪れる。やがて、勇者がふと動いた。


 ボロボロの服を身にまとった勇者は、出口へふらふらと歩いて行った。


 王の制止や、魔法使いの戸惑ったような表情にも目もくれず。







「ここにいたのですね。勇者殿」


 白いローブを風にはためかせ、魔法使いが勇者に話しかけた。


 王宮の一角に、国全体を見渡せる古い塔があった。しかし、この古い建物は古臭いという理由で王宮内では毛嫌いされ、人が寄りつかない。静寂だけがあった。手入れされていない木々が生い茂り、勇者の姿を覆い隠していた。


 勇者はぼんやりと王都を見下ろしていた。魔法使いはちらりと勇者の顔を見てから、自らも都市の方へ目を向けながら言った。


「勇者殿。あなたのあの願いは叶えることができませんが、国王様はそれ以外ならばどんな願いでも叶えてくださるそうです」


 勇者は反応せず、動かない。


「…………国民からは魔王を討伐した偉業への報酬は与えないのかと王は責められているそうです。知っていましたか? 勇者殿は民から圧倒的な支持を得ているのですよ。…………王よりも」


 王宮の魔法使いは再び勇者へ目を向け、静かに語った。


「勇者殿。たしか、あなたはここを出発する前、願いは大金を得ることでしたね。今、王はその願いを叶えるでしょう」


「金があってなんになる」


 風に遮られそうなほど小さな声で、勇者が独り言のようにつぶやいた。


「…………それでは、あなた様の本当の願いは何ですか?」


「…………願い? オレの?」


 勇者はつぶやくと再び口を閉ざした。魔法使いは少し眉を下げ、勇者のもとを去っていった。







 オレの本当の願いはなんだ?


 やはり、金か? 雨風をしのげる場所も、腹いっぱいの飯も食える。


 でも…………それが欲しいのか?


 なんで、オレは生き残ってしまったんだ…………なんで? あいつらが生き残ったほうがよかった。人のことを思いやっていたり、尊敬されていたり、やりたいことがはっきりしていた。


 オレの本当の願いはなんだ? あいつらがいなくて、あいつらのいない世界でただ一人生き残ってしまって、オレは…………


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