27.カーテンコール
扉が、静かに開く。
「ようこそ。」
そこに立っていたのは、ジークフリートだった。
穏やかに微笑む。
「……え?」
オデットは目を見開く。
思考が追いつかない。
「どうして……。」
「さあ、こちらへ。」
そっと手を差し伸べる。
導かれるまま、一歩、屋敷の中へ足を踏み入れた。
──パンッ!
乾いた破裂音が響く。
色とりどりの紙吹雪が舞い上がる。
「お疲れさま!」
クラッカーを鳴らしていたのは、マイヤ、スヴェトラーナ、ウリヤーナだった。
「アンナ!」
「今日で卒業だね!」
その奥では、親方と女将が優しく笑っている。
「立派になったな。」
親方はいつもの短い言葉だけを贈った。
女将は目元を潤ませながら頷く。
「本当に、お疲れさま。」
オデットは呆然と立ち尽くす。
「え……?」
さらに奥から拍手が広がる。
店先でバレエを見守っていた街の人々。
揃ってないぞー!と笑いながら野次を飛ばしていた男まで、大きく手を叩いている。
「あの時は楽しかったぞ!」
笑顔が次々に重なっていく。
人垣の中から、妹が駆け寄る。
「お姉ちゃん!」
そのまま手を取る。
導かれた先には──
父。そして、母。
「……え?」
思わず涙があふれる。
しかし、不思議だった。
誰も驚いていない。
皆が笑顔で拍手している。
その隣には、靴職人のヌレエフも立っていた。
静かに拍手を送りながら、深く頷く。
その瞬間。
オデットはようやく気付く。
「……そうか。」
小さく笑う。
「これはドッキリじゃない。」
「カーテンコールなんだ。」
その言葉を合図にしたかのように、結婚披露宴で演奏していた楽団がフィナーレを奏で始める。
奥から人々が現れる。
シュヴァンの支配人、受付係、オディールを店へ誘ったスカウト、御者。
皆そろって深く一礼する。
続いてさらに人々が姿を現す。
養護施設の養母、子どもたち。
社交界を彩った貴族と豪商たち。
ロットバルト邸の執事、書記、使用人、護衛、取引先の外商。
オディールの母、歴代の養父たち。
ジークフリート商会の役員、外商責任者、外商たち、護衛、使用人。
ジークフリートの父親、女性書記。
オディール。
そして最後に。
黒い外套をまとったロットバルト。
彼はいつものように帽子へ手を添え、静かに一礼した。
悪役として。
その役目を最後まで演じ切った、一人の役者として。
会場いっぱいの拍手が鳴り響く。
ジークフリートはアンナの隣へ並ぶ。
二人は顔を見合わせ、微笑み合う。
そして。
全員が横一列に並び、手をつないだ。
一歩前へ。
深く一礼。
舞い散る紙吹雪。
万雷の拍手。
鳴り止まない歓声。
緞帳がゆっくりと降り始める。
最後に見えたのは、
満面の笑みを浮かべるアンナとジークフリート。
そして、その二人を囲む、大勢の仲間たちだった。
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