15.絶対に揃わないバレヱ
仕立て屋チャイコフスキーの前には、朝から大勢の人だかりができていた。
「今日は四人で踊るらしいぞ。」
「この前の白鳥、綺麗だったよな。」
「今日は何をやるんだ?」
開店の鐘が鳴る。
店の扉が開き、四人の女性が姿を現した。
白を基調とした衣装。
それぞれ羽根飾りの意匠は同じ。
だが、性格を映すように、細かな着こなしだけが少しずつ違う。
音楽が流れ始めた。
四人は優雅に腕を広げる。
最初は美しく揃っていた。
ところが──。
三人は右へ。
ウリヤーナだけ左へ。
慌てて戻る。
今度は腕を上げる。
三人はゆっくり。
ウリヤーナだけ勢いよく跳ね上げる。
三人が一回転した頃には、ウリヤーナはまだ半回転。
人だかりの中から笑い声が起こった。
「揃ってないぞー!」
見物人の一人が茶化すように声を上げる。
ウリヤーナは大げさに首をかしげる。
さらに笑いが広がった。
「頑張れ!」
「あと少し!」
街角は、劇場とは違う笑顔で包まれていく。
店の奥にまで響く笑い声を聞いて、店主は作業の手を止めずに小さく笑う。
「悪くねぇ。」
女将も微笑む。
「楽しそうね。」
「客が笑って帰るなら、それも商売だ。」
店先では、次々と注文書が積み重なっていった。
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その人混みの後方に、一台の馬車が止まる。
ジークフリートとオディールだった。
「これが噂の……。」
ジークフリートは思わず笑う。
「ずいぶん賑やかだ。」
オディールも口元へ手を添える。
「皆さん、とても楽しそう。」
四人は踊り続ける。
アンナは笑顔を絶やさず踊っていた。
その視線が、一瞬だけ観客の方を向く。
そして止まった。
(……ジークフリート様。)
隣には、チャコールグレーのカジュアルドレスをまとった美しい女性。
胸が少しだけ痛む。
けれど踊りは止めない。
笑顔も崩さない。
アンナは静かに視線を戻した。
一方のジークフリートも、不思議な感覚に戸惑っていた。
四人の踊りを見ているはずなのに。
気づけば、一人だけを目で追っている。
白鳥の羽のように軽やかに舞う女性。
(……なぜだろう。)
目が離せない。
自分でも理由が分からなかった。
「ジークフリート様?」
オディールが首を傾げる。
「ああ、ごめん。」
ジークフリートは我に返り、小さく笑った。
「つい見入ってしまった。」
「私もです。」
オディールは微笑みながら答えた。
「とても素敵でした。」
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劇場からの帰り道。
馬車は夕暮れの街をゆっくり進んでいく。
今朝の仕立て屋の前を通りかかった時、オディールがふと声を上げた。
「あっ。」
「どうした?」
「見てください。」
軒先に、一着の純白の花嫁衣装が飾られていた。
幾重にも重なる柔らかな布。
胸元から裾へ流れる繊細な刺繍。
夕陽を受けたその姿は、燃えるように静かに輝いている。
「綺麗……。」
オディールは小さく呟いた。
「こんな素敵な花嫁衣装を着られる花嫁は、幸せなのでしょうね。」
ジークフリートも窓の外へ目を向ける。
「そうだね。」
短く答えながらも、その胸には先ほど見た踊り子の姿が残っていた。
白い衣装。柔らかな笑顔。
そして、どこか懐かしい眼差し。
馬車は静かに夕闇の中へ走り去る。
二人は同じ景色を見つめながら、それぞれ違う人のことを思っていた。
絶対に揃わないバレヱとは、わざと揃わないように作られたコメディバレヱ作品です。




