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選別令嬢の試験――誠実な方ほど壊れていくようですわ  作者: くろのわーる


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第1話:選別の夜



 白い光。


 誰かが、笑っていた。


「――約束ですわ」


 小さな手の感触。


 声だけが、妙に鮮明で。


 それ以外は、どうしても思い出せない。


 壇上にある席で両親と座り、広間を見渡しているが心はどこかに置いてきてしまった。


 やがて、祝福の音楽が鳴り響き、広間いっぱいに満ちる。


 煌びやかなシャンデリアの下、着飾った貴族たちが笑みを浮かながら、壇上に目を向ける。


 今宵は――公爵令嬢である私の誕生日会。


 そして同時に。


 ――婚約者の発表が行われるはずの夜でもあった。


「まもなく、ご令嬢のご婚約について――」


 司会役の声が響いた、その時。


「お待ちくださいませ」


 静かに、しかしはっきりと、私はその言葉を遮った。


 視線が、一斉にこちらへ向けられるのを感じながら、私は扇子を閉じる。


「そのお話、少々お待ちいただけますかしら」


 前へと一歩、踏み出す。


 お父様も、お母様も、笑顔のままで何もおっしゃらない。


 ――ええ、わかっていらっしゃるのですね。


 ならば。


 私が壇上の中央に立つ。


 祝福の音はいつの間にか、止んでいた。


 誰もが注目する静寂の光。


 優雅なカーテシーに、広間からはため息がこぼれた。


 ゆっくりと、上から祝いに駆け付けてくれた貴族の子息令嬢を見やる。


「わたくしにふさわしい殿方は――わたくしが決めますわ」


 一瞬、会場の空気が止まった。


 そして、遅れてざわめきが爆発する。


「な、何を――」


「公爵家のご令嬢が……?」


 構わない。


 私は微笑んだまま、言葉を続ける。


「そのために、少しだけ“試させて”いただきます」


 再び視線をゆっくりと巡らせる。


 名だたる貴族の子息たち。


 そして――既に婚約者として名を挙げられていた彼にも。


「誠実な方でしたら、何も問題はございませんわ」


 ――逃げ道は、最初から用意してありますもの。


「ですから」


 一歩、踏み出す。


「証明してみせてくださいませ。あなたが――わたくしにふさわしいのかを」


 静寂の中。


 一人の青年が、ゆっくりと前に出た。


 自信に満ちた笑み。


 整った身なり。


 周りの令嬢達が、小さく息を呑む。


 ――非の打ちどころのない方、に見える。


「面白い。では、その試験とやら、受けさせていただこう」


 軽やかな声の中に、野心を感じた。


 けれど。


「ええ、もちろんですわ」


 私は小さく頷く。


「本日は、特別なことは何もいたしません」


 会場が、わずかにざわめいた。


「ただ――普段通りに、お過ごしくださいませ」


 そうすれば、必ず"崩れます"もの。


 私は扇子を開き、口元を隠す。


「それだけで、“すべて分かってしまいます”ので」


 誠実な方ほど、隠しきれなくなりますもの。


 人は、追い詰められるほど本性が出るものですから。


 逃げ場は、どこにもございませんわ。


 それだけ。


 それだけで、十分なのです。


 拍子抜けした表情を浮かべる出席者たち。


 壇上を降りると広間は戸惑いを帯びた熱気が蘇った。



 それからしばらくして、消え入りそうな悲鳴。


 皆の視線を一瞬だけ集めた。


 その先にいたのは、名乗りを上げた彼。


 私は彼の元へと歩み寄る。


 人垣が割れたことで彼は私に気付いたのか、振り返る。


 壇上から見た時と、変わらぬ笑み。


 だけど、笑顔がほんの一瞬遅れた。


 原因はその足元で、震えるメイドの姿。


 手が震え、呼吸が乱れてる。


 ドレスの裾を、強く握り締めている。


 ……なるほど。


「どうかされましたか」


 彼は余裕を崩さず、そう問いかけてくる。


「何か、問題でも?」


 彼の視線が一瞬だけメイドに落ちた。


 だけど、すぐに笑顔へ戻った。――戻ってしまった。


「足元は、よく見ていないと危ないですから」


 その言葉に私は微笑んだ。


 でも、目は笑わない。


「少し、見ておりましたの」


 彼の表情が、ほんの一瞬だけ固まる。


「貴方が彼女の足を引っ掛けるところを……」


 ――それで十分。


 もう、誤魔化せていませんもの。


 視線を、ゆっくりと外す。


 扇子を開き、口もとを隠して、呟く。


 もう、答えは出ていますから。


 残念ですわ。


 あなたは――

 最初から、選ばれる側ではございませんでしたの。



「ごきげんよう」



 たったひと言。



 私はスカートの裾を翻し、その場を後にする。



 ――さて。



 次は、どなたが“本性を見せてくださるのかしら”。




挿絵(By みてみん)




「……本当に誠実な方など、いらっしゃるのかしら」



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