苦境
簡単に鍵を奪われた領主が、ボスに向かって頭を下げる。
「ボス、申し訳ございません……」
「使えない男だ。……まあ良い。敵はたった6人だ。囲んで押し潰せ」
ボスの命令を受けたザント団員たちが俺たちを包囲する。
包囲網は幾重にもなっていて、突破するのは困難だ。
俺、ゼフレン、カティア様が前衛となり、魔法使いの3人を後ろに守りながら戦う。
可能な限り前衛3人が同時に戦わずに済むように立ち回り、誰か一人が体力を回復できるようにする。
カティア様には一番安全なところに居てもらいたいが、そんな余裕は無かった。
「良い? 味方の救援が来るまで生き延びるわよ」
カティア様が俺たちを鼓舞する。
作戦も何もあったもんじゃないが、それしか道はない。
だが、全方向を敵に囲まれている状況はさすがにつらい。
俺たちのすぐ後ろには檻付きの馬車があるが、それだけでは不十分だ。
ひとまず馬車を盾にして背後からの攻撃を防ぎつつ、俺は向かってくる敵を倒しながら打開策を考えた。
「はあっ、はあっ。くっ、敵が多い」
「交代するわ。リリア、ゼフレンの体力回復は任せたわよ」
「分かった!」
それまで休息していたカティア様が疲労の溜まったゼフレンと交代し、俺の隣に並ぶ。
「グレインはずいぶん元気ね。最初からずっと戦い続けてるじゃない」
「体力には自信がありますから。それに、いつもより鎧が軽くて動きやすいので。……それより、気付きましたか?」
「ええ。敵の強さにムラがあるわね」
正門の方向とボスの周辺の敵はつわもの揃いだが、それ以外は比較的弱い。
つまり東と西の敵は練度が低いので、どちらかに集中攻撃を加えて包囲を突破したい。
それから狭い道など1対1の状況を作れる場所に移動すれば、長時間粘れそうだ。
「カティア様、西門側の包囲を突破しませんか? ここより消耗を抑えられる場所を探しましょう」
「……そうね。リリアたちも疲労が溜まってくるから、その前に突破しましょう」
前衛はもちろん、魔法使いの3人も魔法を使い続けることで疲労が溜まると、いずれ魔法を使えなくなってしまう。
今はリリアが疲労を回復してくれるおかげで戦い続けられているが、彼女が魔法を使えなくなったら俺たちは終わりだ。
しばらくの間、包囲突破のための準備が続いた。
グラシアさんがそれとなく西側の兵士たちを攻撃して数を減らし、前衛はボス周辺の敵を倒してそちらに注意を引き付ける。
俺はボスを討ち取っての一発逆転を狙っているかのように装うべく、何度もボスに向かって突撃した。
やがて、好機はやってきた。
「今だ!」
ゼフレンが西側に向かって駆け出していく。そのまま行く手を阻む敵兵を斬り倒し、包囲の突破を目指す。
「そっちに行ったぞ! 包囲を崩されるな!」
敵が西を固めようとする動きを妨害すべく、俺はボス周辺の敵兵を倒す。
背後から俺を攻撃しようとした敵が、飛んできた水球を受けて倒れた。
「あぶなかった……ミレナに感謝だな」
そう呟きながらも更に敵のボスを狙う構えを見せる。
少しでも突破の手助けになれば良いが……。
囲まれないように気を付けながらそのまま戦っていると、ミレナに名前を呼ばれる。
振り向くと、ゼフレンたちが包囲を抜けたところだった。
俺はすぐに反転すると、包囲の外に出るべく全力で走る。
「グレイン! 早く!」
先に包囲網を抜けたミレナが再び俺を呼ぶ。だが、目の前に二人の敵兵が立ちはだかった。
俺は足を止めることなく右側の敵に斬撃を放つ。それと同時に左側の男が小さなうめき声をあげて倒れ伏した。
彼の頭が濡れているので、ミレナが援護してくれたのだろう。
また助けられてしまったな。
俺たち6人は敵の包囲を突破し、西門を目指して走る。
門から外に出て冒険者隊と合流できれば体勢を立て直せるはずだ。そう思っていたのだが――
「やっぱり門までの道は固められているわね」
「あそこを抜けるのは無理そうですね」
目の前では100人近い敵が西門の前に陣取っている。
背後からも追手が迫っているので、西門を突破するのは不可能だろう。
こうなると、味方の援軍を待つしかない。
「見て! あそこに洞窟への扉がある!」
リリアが指さした方向を見ると、確かに洞窟があった。
この拠点も山を利用して作られているので、もともとこの地にあった洞窟を有効活用しているようだ。
洞窟は木の扉で封鎖されているが守備兵はいない。
「考えている時間はなさそうね。あの扉を壊して洞窟に立て籠もるわよ」
カティア様がそう言うと、彼女の隣に居たグラシアさんが氷魔法で扉を破壊する。
中を見ると通路はそれほど広くないが、一人が武器を振るスペースならある。
これなら1対1の状況を作り出せそうだ。
ここに入ってからどのくらい時間がたっただろうか。
洞窟は奥へと続いていたが、明かりを持たない上に構造を知らない俺たちは入り口付近にとどまることを選択した。
前衛の3人でローテーションして手前と奥の両側を守る。奥から敵が現れる可能性があるので、そちらも気を抜けない。
ミレナとグラシアさんが交代で俺たちのサポートに回る。リリアは誰かが負傷したら回復を担当してくれた。
横幅がそれほど広くないため、やはり敵は一人ずつしか攻めてこない。
洞窟からは西門と外壁が見えるが、そこにいる兵士たちも誤射を恐れて遠距離攻撃を仕掛けてこなかった。
「はあっ!」
俺が入り口を守りながら敵と戦い、後ろでグラシアさんが魔法を放つ。
彼女が放った氷柱は俺たちの上を抜け、遥か遠くへと飛んで行ってしまった。
「ははっ! どこを狙ってんだ!」
目の前の敵があざ笑っていたが、すぐに俺の斬撃によって沈黙した。
「助かります。今日のグレインはいつもより攻撃力が増していますね」
「自分でも気付かないうちに攻撃力が成長していたみたいです。いつもの鎧のおかげで筋肉が付いたんですかね?」
あるいは火事場の馬鹿力か。
「グレイン、今のうちに交代しよう」
「分かった」
敵が切れた隙に、俺はゼフレンと交代して休息を取ることにした。
「――っ!」
体を休めていると、突然、洞窟の奥から無数の殺気を感じた。慌てて奥を守るカティア様と入れ替わる。
他の5人も殺気に気付いたようで、ミレナが俺のサポートに来てくれた。
やがて、奥からゆらゆらと松明の光が近付いてきた。
「ハハハ、ついに追い詰めたぞ」
どうやら、ザント団のボスが自ら手勢を率いて回り込んできたらしい。
「フフフ、無駄な抵抗をしおって。だが、こうなっては袋のネズミだ」
入り口のすぐ外からは領主の声が聞こえてくる。そちらは領主が指揮を執っているようだ。
「……そうね。どうやらここで終わりのようね」
背後でカティア様が笑う。
そのとき、外で轟音が響き渡った。




