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好きな人がパーティを追放された  作者: myano


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潜入

 夕方になり、今日の戦闘が終わった。

 俺たちは正規兵の前衛に紛れ込んで一日を乗り切り、彼らの陣地に戻っているところだ。

 これは4人で話し合って決めたことだが、潜入中は互いに会話をしないことにしている。こうすることで、誰かの正体がバレても他の3人が疑われずに済むからだ。


 陣地に戻る途中、並んで歩く青年に話しかけられる。

 彼はたまたま俺の隣を守っていて、任務中に話すうちに仲良くなった。名前は……数日の付き合いだと思って忘れてしまった。

「……グレインって戦闘の経験があるのか?」

「半年ぐらい前から領主様に仕えているからね。何度か経験してるよ」

「へぇ……。剣も一本は支給されたものと違うよな。普段は二刀流なのか?」

「剣は自前のものと支給されたものを両方持ち歩いてる。こうすれば片方が折れても安心だろ?」

「そういうことか! 良いアイディアだな!」

 青年は無邪気に笑う。彼はザント団の本拠地攻略のために集められた新兵で、訓練すらまともに受けていないそうだ。

 正規兵部隊には彼のような新兵がたくさんいて、正直不安になる。

 ザント団の本拠地を3方向から力攻めするとなったとき、彼らは戦力になるのだろうか。



 2日後の朝、陣地では妙な噂が流れていた。一つは『西の冒険者隊と東の魔法部隊が夜襲を受けて大損害を(こうむ)った』という内容で、もう一つは『領主がザント団と内通している』という噂だ。

 周囲を見ると、特に新兵たちは浮き足立っていて、彼らの会話からも領主への不信感が伝わってくる。

「フィルザードが言っていた、事態が動くというのはこの事か?」

 そろそろ、何かが起こるかもしれない。気を引き締めておこう。



 食事を終えて戦闘の準備をしていたところ、正規兵全員に招集がかかった。

 先ほど、本営の方から領主のものと思われる怒鳴り声が聞こえてきたのと何か関係があるのだろうか。

 時間的に各部隊の指揮官を集めての軍議が行われていたはずだが……。


 集合場所には多くの正規兵たちが整列していた。

 ミレナたちの姿も確認できたが、特に声をかけない。

 領主たちはまだ来ていないようで、一部の新兵たちが小声で会話していた。

 その話に耳を澄ませてみると――

「領主様の噂って本当なんだろうか……? それに味方が壊滅したって……」

「色々と情報が錯綜(さくそう)してるよな。オレたちを集めて噂の真偽を説明するんじゃないか?」

「あーあ。すぐに攻略して村に戻れると思ってたのに……。早く帰りたいよ……」

 新兵たちは、話に聞いていた以上に脆弱だ。もう長くは持たないかもしれないな。

 そんなことを考えていると、領主がやってきた。



 領主は整列した正規兵たちを見回すと、落ち着いた様子で話し始めた。

「諸君、お集まりいただき感謝する。さて、まずは最近流れている噂についてだが、全て事実無根である。味方の被害は軽微であるし、ワシがザント団に通じているというのも偽の情報だ。おおかた、敵が我々の戦意を削ぐために仕掛けたのだろう。諸君においては、これらの偽情報に踊らされることのないように!」

 領主はそこで一息つく。

 周囲をチラリと見ると、正規兵たちは半信半疑といったところだ。


 領主は俺たちの反応をうかがっていたが、芳しくないと感じたのか「ふぅ」と嘆息した。

「やれやれ……。ザント団にはワシの名を貶めた事を後悔させねばならんな」

 この男は何を言っているんだ。急に小物感が出てきたぞ。

「これより、他の方面の味方と連携して3方向から奇襲を仕掛ける!」

 領主がそう宣言すると、周囲がざわめき始めた。

 チラリと領主の参謀たちを見ると、笑みを浮かべる者、頭を抱える者と様々だ。

 おそらく軍議で反対派を押し切ったのだろう。


 領主が奇襲作戦を説明していく。

 領主自らが偽って降伏し、ザント団の本拠地に入る。このとき、敵に降伏を信じ込ませるために『手土産』を持っていくそうだ。

 そして、隙を見て内側から門を開く。あとは混乱に乗じて3方向からザント団の本拠地になだれ込み、殲滅(せんめつ)するという作戦のようだ。

 突っ込みどころの多い作戦だが、戦に詳しくない新兵たちの中には成功すると信じている者もいる。

 作戦に疑問を持っている兵士もいるが、ここで反対しても領主が作戦を中止することは無いことを理解しているようで、何も言わない。


 それより、領主の言う『手土産』というのが――

「カティア様とグラシアさん……か」

 俺は広場の片隅に置かれた、白い布が掛けられた2台の馬車を見る。

 布が掛かっているせいで中を見ることはできないが、そこに二人がいるのは間違いないだろう。二人はどんな気持ちで領主の言葉を聞いていたのだろうか。

 今すぐにでも領主から鍵を奪って二人を解放したい気分になるが、グッと我慢する。

 カティア様のことだから、もっと効果的な作戦を考えているはずだ。


「さて、諸君。ワシとともに敵の本拠地に乗り込もうという勇気のある者はおるか!」

 ――これだ!

 俺は迷うことなく手を挙げる。周りを見ると、ミレナたちも静かに立候補していた。

「ふむ、15人ほどか。まあ良いだろう」

 結局、挙手した兵士たちと領主の作戦に賛同していた参謀たちが加わり、本拠地に乗り込む部隊が編成された。

 その中に新兵はおらず、俺たち以外は領主に近い人間だけで固められていた。

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