盗賊被害の調査②
その後、俺たちは被害を受けた村に向かって出発した。
今回は徒歩での移動で、護衛隊が俺たちの周囲を固める。彼らはカティア様の素を知らないため、カティア様は伯爵令嬢の仮面を被っている。
仮面をつけている彼女はどこか息苦しそうだ。
それを外せる時が、彼女にとってかけがえのない時間なのだろう。
仮面の下の素顔を見せてくれたからこそ、何があっても彼女の味方でありたいと思った。
「フェルドリッジ伯爵領にも被害が出ているのですか?」
カティア様の息継ぎになればと話題を振ってみる。
「いいえ。幸い、当家の領内では被害の報告はありません」
口調こそ改まっているが、彼女の目に輝きが戻った。
その後、6人で事務的な会話をしながら目的地に向かった。それでもカティア様は終始楽しそうにしていた。
数時間後、レイヴェルク近郊の村に到着する。
人口100人ほどの小さな村だ。盗賊が出た影響もあるのか、昼間にもかかわらず村人の姿はほとんどない。
「ここがこの付近で最初に襲われた村です」
護衛隊長の男性が、資料を片手に説明してくれる。
話を聞きながら周囲を軽く見回すと、村の防柵の一部が破壊されていて、いくつか焼け焦げた家も確認できた。
「被害状況は?」
「はい。死者は5人、怪我人は20人以上。それから約10人が行方不明とのことです」
「行方不明というのはまさか?」
「ええ。大半が若い女性ですので、奴らに連れ去られたのかと」
「なんてこと」
この場にいる全員が怒りを示す。特にカティア様は拳をワナワナと震わせている。
彼女は「ふうぅ」と震える息を何度か吐いて気持ちを落ち着かせると、隊長に説明の続きを促す。
「他にも、金品や食料などを奪われる被害が多く発生したようです。抵抗した場合はあのように……」
そこまで言うと、隊長は渋面で焼け落ちた家を見る。
本当にひどい話だ。
「それで、復興や生活の支援は行き届いていますか?」
「当家の領地ではないので詳細は不明ですが、領主が金品を支給しようとしたところ、領民が『この金品を狙ってザント団が再び襲ってくる可能性がある』と言って受け取りを拒否したそうです」
「――っ! そう……ですか」
一瞬、カティア様が驚いた表情を見せた。彼女も金品を受け取ってもらえないというのは想像外だったようだ。
「一日でも早く、ここの人たちが安心して過ごせるように、我々も頑張らないといけませんね」
ゼフレンが決意を込めた目でそう言うと、全員が力強く頷いた。
一通り報告を聞いた後、村の中を見て回ったが、手がかりは得られなかった。
村人にも聞き込みをしたが、報告書に書かれていた情報以外の話は出てこない。
「そろそろ次の村に向かいましょうか」
カティア様のその一言で、一行は次の目的地に向かうこととなった。
「ここが次に襲撃された村です」
「先ほどの村の近くですね?」
リリアが尋ねたとおり、歩いて30分ほどで次の村に到着した。
「はい。それぞれの村で得た情報をまとめると、ザント団は先の村を襲った後、そのままこの村を襲撃したようです」
「そんな……」
周囲に重苦しい空気が満ちる。それでも、カティア様の目には強い光が宿っていた。
「それで、この村の被害は?」
その問いに隊長が答える。
先ほどの村と同様に、多くの死者、負傷者、そして行方不明者が出ていた。
しばらく隊長からの説明を受けた後、手掛かりを求めて村の中を見て回る。
「あれ? この村は防柵が壊れていませんね?」
先ほどの村ではザント団に破壊されていたはずだ。
気になったので、隊長に尋ねてみる。
「はい。どうやらザント団と通じている村人が居たらしく、その者が門を開けて彼らを手引きしたそうです。ザント団は音もなく村に侵入してきたとの証言がありました」
「何ということを……」
カティア様が唇をかむ。
どんなに立派な城門や城壁があっても、内通者が門を開けてしまえば意味をなさないということか。
村の中を一通り巡ったところで、カティア様と隊長が話し始める。
「そろそろ移動しましょうか」
「はい。これ以上遅くなると日没までにたどり着けなくなってしまいます」
カティア様は、隊長といくつか言葉を交わした後、俺たちの方に向き直る。
「今日はこの近くの都市に泊まります」
宿があるということは、街道沿いの都市だろうか。街道から離れた都市は規模が小さく、伯爵令嬢に見合う宿が無い場合が多い。
「ん? 誰かに見られている気がする」
俺はきょろきょろと辺りを見回す。仲間や護衛隊の人たちも視線に気付いたらしく、この場の空気が一気に張り詰める。
護衛隊は隊長の指揮の下、あっという間にカティア様を囲むように隊列を整えた。
「そこか!」
護衛隊の一人がこちらを見ていた人物を発見して走り出す。遅れて二人の隊員が彼に付いて行った。
「俺たちはカティア様をお護りいたします」
カティア様の周囲を手薄にするわけにはいかないので、俺たちはこの場に残ることを選択した。
「助かります! 彼らも深追いはしないでしょう」
そのままカティア様の周囲で警戒に当たっていると、3人の護衛たちが戻ってきた。
「申し訳ございません。見失いました」
「どうかお気になさらず。みなさんが無事で何よりでございました」
「お心遣い、痛み入ります」
カティア様の言葉に、彼らは深々と頭を下げた。
その後、一行は街道沿いの都市に移動し、宿で一夜を明かした。
道中に不審な人物の影はなかったが、昼間の視線がしこりとして心に残った。




