Cランク昇格試験②
昼食と休憩を終え、行動を再開する。
進むにつれて道がなだらかになり、道幅が広がってきた。
また、休憩前は雲一つない快晴だったが、今は雲で太陽が完全に隠れてしまった。
「このあたりが奴の生息域だね。みんな、気を付けていこう」
「分かった!」
ゼフレンが注意を促し、リリアがモンスターを刺激しないように小声で、しかし元気に答えた。
周囲を警戒しながら歩き続けると、一層広い場所に出た。
――バサッ、バサッ
不意に大きな音が響きわたる。俺たちは慌てて周囲を確認する。
「みんな、上だよ!」
反射的に見上げると、資料に載っていた鳥型のモンスターが上空で旋回していた。
――グワァ、グワァ
モンスターもこちらに気付いているらしく、地鳴りのような鳴き声で威嚇してくる。
「みんな!」
ミレナが全員に身体強化魔法をかけてくれる。
モンスターがいつ来ても良いように、各々が迎撃の態勢を整えた。
上空からの攻撃と離脱を繰り返されると厄介だな。
「ミレナ、攻撃は届きそう?」
「さすがにあの高さは届かないと思う。せめて中級魔法なら……」
ミレナが悔しそうにモンスターを見上げる。
他の3人は遠距離攻撃の手段を持たないので、奴が動くまで待つしかない。
――グワァ!
しばらく睨みあっていると、モンスターが力強く一声鳴き、急降下を始める。
奴の狙いは――俺だ!
他の3人が狙われなかったことに安堵しつつ、モンスターの攻撃に備える。
直後、金属同士がぶつかったような音が鳴り、剣を持つ手に凄まじい衝撃を受けた。
咄嗟の判断で衝撃を受け流す。モンスターは俺のすぐ隣を通過し、再び上空へ戻っていく。
ミレナとゼフレンが攻撃を仕掛けたが、どちらも回避されてしまった。
「グレイン、大丈夫!?」
「大丈夫だ。今の攻撃は凄い破壊力だから、みんな気を付けて」
攻撃を受け流したのは正解だった。
もし、あの攻撃を受け止めていたら腕の骨がもたなかっただろう。
それからも防戦一方の時間が続いた。
モンスターの攻撃は一撃が非常に強力で、一つ間違えば死に直結する恐怖から精神力が削られていく。俺以外が狙われていないことと、手数が少ないことがせめてもの救いだ。
モンスターは攻撃を終えると上空に離脱してしまうので、こちらからの攻撃は全て回避されてしまっている。
これで『討伐は比較的容易』なのは嘘じゃないかと思うが、泣き言を言っても始まらない。
何か突破口を見つけるまでは俺が耐え続けるしかない。
「来たっ!」
またモンスターの攻撃が来る。やっぱり標的は俺だ。
先ほどまでと同じように、攻撃を受け流してやり過ごす。ミレナがモンスターに向けて魔法を放つが、回避された。
「ダメか。……ん? 日差しが出てきたのか」
それまで太陽を隠していた雲が流れ、日の光によって周囲が明るくなる。
――まずいことになった。
太陽とモンスターが重なれば最悪だ。目が眩んだ状態であの攻撃を防げるとは思えない。
「グレイン! 戻ってきた!」
「なに!?」
突然、モンスターが行動パターンを変える。
上空まで戻らないうちに再度こちらに攻撃を仕掛けてくる。やはり狙いは俺みたいだ。
今までと同様、剣で攻撃を受け流す。加速が不十分だったようで威力は控えめだ。
――グワァ! グワァ!
「うわっ!」
攻撃を終えたモンスターは飛び去らず、俺のすぐ上に留まり続ける。
今までと全く違う動きに面食らい、所々に攻撃を受けてしまう。
「グレイン! 離れて!」
飛んできたミレナの声に体が勝手に反応し、横に飛び退く。
直後、ミレナの攻撃がモンスターの頭部を直撃し、モンスターは真っすぐ地面に落下する。
「はああああ!」
そこにゼフレンが走り込み、鋭い攻撃を放つ。
その一撃を受けたモンスターは動かなくなった。
「はぁ……。やっと終わった」
モンスターに息がないことを確認して警戒を緩める。
「グレイン! 大丈夫?」
「大丈夫だよ」
リリアが心配そうに駆け寄ってくるので、拳を上げて答える。
「あちこちケガしてるね。治してあげる」
そう言うとリリアは俺の手を取り、回復魔法を使ってくれる。しばらくすると傷は完全に無くなった。
「ありがとう。さすがの腕前だね」
「どういたしまして。グレインも良い防御力だったね」
リリアが素直に褒めてくれるのは珍しいので、つい照れてしまう。俺はそれを誤魔化すために、モンスターのところに向かった。
「ゼフレン、ナイス攻撃でした。……全部解体する時間は無さそうですね?」
「できれば山を下りた場所で野営したいよね。討伐証明に必要な部位だけにしようか。僕がやっておくから、グレインは休んでて」
「えっ? 二人でやった方が早いですし、俺も――」
「そんなに多くないから大丈夫だよ」
ゼフレンがそう言ってくれるので、お言葉に甘えることにした。
モンスターから少し離れたところで休んでいると、リリアとミレナがやって来た。
「グレインに聞きたいんだけど、あの鳥の動きが急に変わったのって何でだと思う? 今のうちに考えておけば、また出会っても安心でしょ?」
「えっ?」
予想外の質問に考え込む。その間に、リリアとミレナはそれぞれの見解を話す。
「あたしは疲労が原因かなって思ったんだ。長時間、高度を上げ下げしてたからね」
「私はグレインに攻撃を防がれ続けたから、パターンを変えて揺さぶりをかけてきたのかなって」
二人の考えは一理あるが、何かが違うような気がする。アイツ『賢くない』らしいし。
俺はあの戦闘を思い出して気付く。
「そういえばパターンが変わる直前、晴れてきたよね。その時、あのモンスターが一瞬下を向いたんだよね。だから、急に日差しが出て眩しかった……とか?」
自分でも苦しいと思ったが、案の定二人の反応は芳しくない。冷静に考えると絶対違うよな。
解体を終えたゼフレンがこちらにやって来たので、同じ質問をしてみた。
彼は少し考えた後、何かに気付いたような表情になる。
「多分だけど、グレインの鎧が日差しを受けてキラキラと輝いていたから、それに反応したんじゃないかな」
他の3人の「ああー」という声が揃う。ゼフレンの推測が一番腑に落ちた。
「ということは、晴れてたらあんなに苦戦しなかったってこと?」
「……」
リリアの無邪気な質問に、誰も何も答えられなかった。




