水着①
水着に着替えた俺とゼフレンは、スプリング家の専用ビーチで女性陣を待っていた。
女性の着替えは男に比べて時間がかかるということらしい。
「……なんで俺がこんな恥ずかしい水着を……」
「あの場で性癖を暴露したグレインが悪い。とはいえ、似合っているよ?」
ゼフレンの励ましが、かえって悲しい。
俺が身に着けているのは、ブーメランパンツという名前の水着らしい。露出度が高く、随分と心許ない。
ちなみに、ゼフレンは膝丈までの水着だ。解せぬ……。
「お二人ともよく似合っておりますよ。やはりトウカ様の目に狂いは無かった……!」
「そういえばコレって新商品なんですよね」
ゼフレンの言葉にセバスさんが大きく頷く。
「今回みなさまにお召しいただくのは、いずれもスプリング商会で売り出そうとしている新商品でございます。今は古着や下着で海に入るのが習慣となっていますが、繊維が塩で傷んでしまうのと、人前で着用するには抵抗があるという問題がございます。トウカ様はそこに目を付け、人前で着るための水泳用着衣――水着を開発なされました。水着の一番の特徴は、王都周辺で採れた特殊な繊維を用いることで生地が塩のダメージを受けず、また濡れても身体が透けないことです。デザインも有名な画家に依頼して数パターン用意して――」
「セバス、グレインとゼフレンが困っていますよ」
サバスさんの熱弁を遮るようにして、トウカが俺たちの前に姿を現した。
もちろん彼女も水着姿で、「人前ではこれが初めてだから緊張しますね」と頬を染める。
トウカが身に着けているのは、下着型の黒い水着だ。
水着は上下が完全に分かれており、トウカの白いお腹が露出している。布面積は女性の下着と全く同じはずなのに、不思議といやらしさや下品さを感じない。
まるで絵画や彫刻のような、“完成された美”がそこにあった。
何気に、トウカのスタイルも良い。身長こそミレナたちより小さいが、脱げば意外と……おっと。
「素敵ですね。よく似合っていますよ」
「あ、ありがとうございます……」
一瞬頭に浮かんだ邪な感情を消し去るべく、水着姿のトウカを褒める。
すると、彼女は真っ赤になってしまった。人前で水着を着るのは初めてらしいので、仕方ないか。
「ちょっとグレイン、ミレナがいるのに他の女の子を口説いちゃダメでしょ?」
トウカの向こうからカティア様の鋭い声と5人分の砂を踏みしめる音が届く。
そちらに視線をやると、5人は水着が見えないよう、自身の身体を大きな布で隠していた。当然、顔は出しているので、ミレナの尖った口元と不機嫌そうな目元は隠れていない。あわわ。
「さて、次はわたくしの番ですね」
カティア様はそう言うと、自身の体を覆っていた布を勢い良く剥ぎ取り、放り投げる。
グラシアさんが慌てて回収に走っているが、そちらに目をやることはできなかった。
俺たちの視線は、カティア様の美しい身体に奪われてしまう。
彼女の色白な素肌を鮮やかに彩るのは、情熱的な深紅の水着。カティア様が着用しているのは、トウカと同じビキニタイプのデザイン。若干デザインの違いはあるが、胸元にリボンがついているのが大きな違いだろうか。
「ふふっ」
カティア様が小さく笑い、その場でクルリと一回転する。その瞬間、俺は自分の認識が間違っていたことを悟った。
――背中に結び目が無い!!
雷に撃たれたような衝撃が脳天を貫く。
それまでただのデザインだと思っていたカティア様の胸元のリボンが、とてもか細い命綱に見えてきた。何かの拍子にあれが解けてしまったらと思うと、違う意味でドキドキしてしまう。この動悸、まさか恋?
「ナルホド、これが吊り橋効果という奴デスネ!」
「……セイラ、そんな言葉どこで覚えたの?」
キラキラと目を輝かせるセイラを見てミレナが苦笑する。
……というか、まだ二人目なんですけど。このままでは俺の心臓が持たん。
「次はあたしの番だね!」
今度はリリアの番か。今のうちに心臓を休めておこう。
「ふふん。グレイン、あたしに惚れちゃダメだからね」
「寝言は寝てから言うんだな」
「へぇ……。その余裕、どこまで続くかな?」
リリアが纏っていた布を払う。
彼女の水着は前の二人とは趣向が違い、上下一体型の水着だ。
リボンもフリルも無く、至ってシンプルなデザイン。見た目の華やかさよりも機能性を重要視したかのようだ。
濃紺の生地がリリアの身体にピッタリと張り付き、彼女のボディラインをくっきりと浮かび上がらせていた。
だがしかし、何だろう、このトキメキは。
リリアの水着姿を見ていると、甘酸っぱい青春と謎の背徳感を覚えてしまう。
「この水着は、魔法学校などの生徒が水練に使用することを想定したデザインにしてもらいました。胸元にもう一枚布を付け、そこに名前を入れるオプションも考えています」
「……ひらがなですか?」
「は? “ひらがな”とは?」
あのゼフレンが、思わず意味不明な言葉を口走るほどのデザインだ。
肌の露出は一番控えめなのに、最も鼓動が高鳴るのはなぜだろうか。
「ウーン。青春が迸りマスネ!」
「だからどこでそんな言葉を覚えてきたの?」
ミレナ顔には疲労が浮かんでいた。




