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女神(アイドル)たち舞い歌いて、邪を祓う  作者: 暇崎ルア
第3章 踏み鳴らす足、地を清め

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39/50

静と楓花 スタジオにて

第3章、4話。

「ばんかみ」メンバーある日の午後の話。

 ——フルワイヤレスのイヤホン、買って良かったな。

 都内のスタジオの狭い楽屋。ブルートゥースで携帯と接続したイヤホンを耳にはめた静はそんなことを考えながら、一人で踊っていた。

 フルワイヤレスならば、真剣に踊っているときも絡んでくるコードに集中を削がれることがなくなるからだ。

 高額紙幣が数枚軽く飛んでいったが、後悔はしていない。


 大丈夫。君の足元はそう簡単には崩れない……


 気がつけば、耳元に流れてくる「ばんかみ」の新曲の歌詞を口ずさんでいた。静のソロパートがある「Standing Alone」だ。「人は皆、孤独に戦い続けている」という想いが込められたメッセージソングだ。プロデューサーの高天原から送られてきたデモテープの状態ではあるが、しっとりとしたバラードになっている。

 ——ここ、ちょっとなんか違うかも。

 画面を操作し、自分のソロパートをリピート再生しながら鏡の前で考える。鏡には、肘を曲げながら思案している自身の顔が映っていた。

 二枚目のアルバム発表ライブに向け、自身のソロパートの振り付けを考えなくてはならないのだ。

 曲調の特質的に、激しいダンスにする必要はないと思っている。その分、一つ一つの振りつけが印象に残るようなわかりやすい動きにしたいのだが、これがなかなか難しい。シンプルが一番難しい、ということだろう。


「頑張ってるね」


 鏡の前で思案していると、後ろから明るい声が響いた。


「……楓花」


 一度大きく跳ねてからばくばく鳴り続ける心臓を抑え、振り返る。

 宮園楓花が開きかけたドアを片手で抑えながら立っていた。ボーイッシュなハンサムショートの髪型に加え、170センチを超える長身の彼女は、そうやって立っているとハンサムな俳優がポーズを決めているようにも見える。


「邪魔しちゃってごめんね。一応、ノックはしたんだけどさ」

「大丈夫。こっちこそごめん、めっちゃ集中してた……」


 ドアが開く音や気配すら気づけなかった。


「お疲れ様。CMの収録が終わったばかりなのに張り切るね」

「関係ないよ。空いてる時間があれば、練習したいし」

「本当に努力家だなあ。私も見習わないと」

「楓花だって頑張ってるでしょ——努力っていうか、私はただ踊るのが好きなだけだから」


 褒められることではないと思っている。

 五人組女性アイドルグループ「万物の歌神」こと「ばんかみ」のメンバーとしてアイドルになったのも、ダンスが好きだったからだ。


「そうは言うけど、コンスタントに努力できる人なんてなかなかいないよ。私なんかすぐ、サボタージュしたくなるからね」

「……その感じだと、これからどこかに行きたいのね」

「正解。スタジオの周辺のお散歩、ついでにおやつとか食べない? 今日はもう何もないしさ」


 ハンサムな笑顔を見せた楓花が、ウインクした。

 現在、午後3時。静も楓花も仕出しの弁当はきっちりと完食したが、夕食までに軽く何か食べてもいい時間かもしれない。


「——わかった、行くよ」

「やった、ありがとう」

「因幡さんに挨拶してから、行こうか」


 因幡さんとは、静たち「ばんかみ」のマネージャーのことである。記憶通りであれば、今日は2階の部屋にいた覚えがある。


「今から行ってみようか——あれ」


 静の携帯が低いバイブ音と共に震えた。画面には着信のポップアップが出ている。

 ——誰だろう。

 表示されているのは知らない番号だった。


「ごめん、ちょっと待って——はい、もしもし」

『……もしもし、静』


 何も言うことができず、静の喉はひゅっと息を呑んだ。


「——どうしたの、急に」

『久しぶりだね。元気にしてた?』


 見知らぬ番号からかけてきたのは母——土御門正美だった。道理で静の知らない番号であったはずだ。母の携帯番号は登録していない。


「まあ、一応。何とかやってるけど」

『それなら良かった——私も父さんもね、テレビとかITubeで活躍見てるよ。この間7チャンネルでやってた心霊特番も』

「……そう。用件はそれだけ?」

『ああ、ごめん。違うのよ。今日電話したのは、どうしても伝えたいことがあって』

「例えば?」

『お父さんがね、昨日の夜、あんたが黒いものを飲み込む夢を見たんだって』


 後ろめたいことを喋っているかのように、母の声が少しだけ小さくなる。


「——そうなんだ」


 静の口からは、乾いた声しか出てこなかった。正直に言ってしまえば、早く電話を切りたかった。


『その声、信じてないでしょ? だけどあんたもお父さんがそういう体質なの、知ってるでしょ? 虫の知らせとか、予知夢を見がちなの』

「知ってるよ、もちろん」


 静の父は昔から霊感というものが強かった。


『だからお父さんもわたしもすごく心配になったのよ。これはあんたの身に不幸が降りかかる前触れなんじゃないかってさ』

「わかった、心配してくれてありがとう。もし何かあったら、身を守れるように準備しておくね」

『ねえ、静。私たちは本気で心配してるのよ——そりゃ昔は色々あったけど、あんたは私たちの娘なんだから』

「わかってるよ。とにかく私は大丈夫、あなたたちの娘だからね。悪いけど忙しいからもう切るね」


 半ば無理やり終わらせるようにして、静は「通話終了」ボタンを押した。


「大丈夫?」


 通話の険悪なムードを聞いていたのか、楓花が怪訝な表情で静の顔を覗き込む。


「全然大丈夫——早く行こう」

「う、うん」


 誘ってきた楓花を静が引っ張っていく形で、廊下へと出る。

 真っすぐ続く2階の廊下を渡っていった先に、因幡の部屋はあった。


「失礼します、『万物の歌神』の土御門静です。因幡さんはいらっしゃいますか?」


 そう言おうと、ドアをノックしたときだった。


『……はあ、今日の夕方からですか』


 金属製のドアの向こうから、因幡の声が聞こえてきた。

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