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ロストハーツクロニクル  作者: すずめ
第3章 失われた魔法
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24.何でもないを装って

「だ、大丈夫だよ。ね、知らなかっただけだったんだよね?」


 ユウヤの落ち込む様を見かねたユアと子ども達によって慰めの言葉がかけられる。

 まともに慰めているのはユアのみで、残りは便乗でもみくちゃにしているだけのようだ。前後左右を挟まれ、苦しくなって立ち上がるが、周囲を囲まれ身動きが取れない。

 この状況を打破するため、ユウヤのふくらはぎにしがみついていた一人持ち上げて移動させた。

 ユウヤにしてみれば苦肉の策だったが、なぜかそれがお気に召したらしく、今度は強請られる始末だ。

 子どもの相手などしたことがないため、どのように対応すれば正解なのかがわからない。


 途方に暮れかけ、腕をもっていかれながら空を仰ぐと、想像以上に赤い光が目を焼かんばかりに輝いていた。そこでようやくかなりの時間を遊びに費やしていたことに気がつく。


「ユウヤさん、そろそろ……あらあら、楽しそうね」


 ハナコは慌てて振り返るユウヤとその両腕にぶら下がる子どもを見て笑う。

 背後からかけられたその声に、ユウヤは己のなすべきことを思い出した。


「悪い、今行く! あー……下ろすぞ」


 戸惑いつつ確認を取り、渋々頷く子どもを慎重に下ろす。優しげな視線を送っていたハナコは柔らかな声音を子ども達へと向けた。


「ほら、みんなも。もうお家に帰る時間よ」


「ええー」

「まだ早いよー」


「駄目よ。今の季節は明るいけど、もう遅い時間。お母さんに叱られちゃうわよー」


 上がった不満の声をぴしゃりと打ち消し、続く言葉で誘導。慌てて駆ける子ども達を見送り、促されたユウヤはハナコの歩みに従った。



 台所に入ってすぐ、ずらりと並べられた食材が目に入る。


「頼まれた材料はここにあるわ。遠慮なく使っちゃってちょうだい」


 先程両者間において繰り広げられた支払いなどの細かな攻防を制したハナコは、素直に頷くユウヤを見て満足気に笑う。


「美味しいご飯、作ってね?」



◆◇◆◇◆



 二人とも慣れているだけあり、調理は順調に進められた。


 各々調理を続け、時々味見にとハナコから差し出される箸を口に含む。

 決してこちらに箸をよこさず口に放り込もうとするハナコに戸惑いを持ちつつも、一度受け入れてしまえば与えられる料理が美味しいために抵抗する気は失せた。

 そして次の味見は艶のある芋だ。味が染み込み、ほくほくとした柔らかい食感は噛み締めるたびに旨味を増していく。


「ん、うまい」


「うふふ、よかった」


 感想を言う度に嬉しそうに笑うハナコに、何だかむず痒いものを覚える。


「オレのも食うか?」


「ええ、ぜひ」


 お返しの提案はあっさり受け入れられ、ハナコは口を開いた。

 自分で食べるだろうと箸を渡しかけていたユウヤは今度こそ狼狽を隠せなかったが、ハナコはその姿勢を崩しそうにないと判断し、彼女のやり方に倣う。ハナコは無事に口へ到達した料理を咀嚼し、笑顔で何度も頷いた。


 嬉しくはあったが、慣れないことをしたものだと思う。

 広角が緩く上がったのを自覚したが、それは少し苦いものとなっていたかもしれない。



「ーーふふ」


「何だ?」


 しばしの間、二人が集中していたことで静かな空間に響いた笑い声。その意図を問う。


「いいえ、大したことじゃないのよ」


 そう言って笑みを強めたハナコは手を止めることなく続けた。


「三人とも娘だから新鮮で。あなたみたいな息子がいたら、きっと楽しいわ」


 何と答えたものかと唐突に現れた単語に思考するユウヤ。返事がないことを訝しんだハナコがこちらへ顔を向けた。


「あ、あら、そうよね。嫌に決まってるわよね、こんなおばさんが母親だなんて。綺麗な顔をしているんだもの、お母さんは美人さんに決まってるわよね」


 沈黙を非難と見たか、ハナコは早口で自身の言葉を否定する。


「いや、そういう訳じゃーー」


「はい、これ食べて」


 一拍置いて否定に入ろうとするユウヤだったが、突如口に突っ込まれた何かに妨げられた。


 ーー油断していたところ、高温の物体が口内に侵入するというまさかの事態。せめて口から飛び出さないよう、空いていた手で蓋をする。


「さっきのだとちょっと物足りなくて、砂糖を足したの。どうかしら」


 ハナコはこちらの様子に気づかず意見を求めた。ごくり、と音を立てて無理やり飲み込み、どうにか返事をする。


「……あつかった」


 ひりひりと痛む舌を慎重に動かすと、それは予想を超えて舌足らずに響いた。


「あ、あら、ごめんなさい! これ、お水飲んで」


 望んだ回答を得られなかったハナコだったが、どうやらユウヤの状態を察したらしい。大急ぎで汲まれた水は音を立てて跳ね、飛沫を散らす。それはコップを掴んだユウヤの手に飛びそれなりに被害を出していたが、全てを無視して飲み干していった。

 差し出された手に空になったコップを渡し、調子を戻すために軽く咳をする。


「本当にごめんなさいね。大丈夫?」


「何とか」


 ほう、とハナコは目に見えて安堵する。

 突然のことに驚きはしたが、対処は的確だった。ハナコに調理を促し、沈みかけた空気を払う。




 それ以降、息子云々という話は影も形も姿を見せず、匂わせることもないまま料理は完成に近づいていく。


 気を使われている、とユウヤは勘づいていた。


 矢継ぎ早に繰り出される明るい話題は、どれも中途半端な盛り上がりで終結してしまう。ハナコの気遣いのおかげで流してしまうことはできるのだが、ユウヤの胸中にはどうにも気持ち悪さが残っていた。


 それに、こちらも彼女の感じたものに答えを出したかった。


「……オレも楽しいと思うぞ」


 主語を持たず、意味不明と取られても仕方のない言葉。


 ハナコは動きを止めたが、ユウヤは手を休めない。彼女の視線を感じながら、盛り付けに取り掛かった。

 その視線はしばらく向けられていたが、ふと和らぐ。


「あらあら、お世辞でも嬉しいわ。ーーさ、完成。そっちはどう?」


「ああ、あと少し時間くれ」


 話に決着がつき、何でもない風を装っていた空気は軽くなった。

 お世辞ではないと言う機会は逃してしまったようだが、ハナコの笑みが深まったのでよしとする。

実はハナコはユウヤに割と大きなダメージを与えた数少ない人物。これにはユウヤもびっくり

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