15.後輩
少し短めです
ここで言うのもなんですが、あらすじちょっと加えました
通りすがりの人間が二度見するほど猛烈な勢いで屋敷へ辿り着いたユウヤ。
長い廊下を疾走し、部屋の前に到着。勢いそのままに戸を開け放つ。
中にいたのは少年一人だった。
上体を起こし、視線を虚ろに力無く首を傾けている。
大きな音を立てたにも関わらず、少年は微動だにしない。
ユウヤはゆっくりと少年に近づき、その傍に腰を落とす。
「お前……大丈夫なのか?」
「…………」
ユウヤの問いかけに対し、一切の反応がない。
意識があるのか疑わしく思えてくるその姿に、ユウヤは慎重に手を伸ばす。
肩を叩き、その身を軽く揺すると、ようやく動きを見せた。
がくりと頭を揺らした少年は、今まさにユウヤの存在を認識したかのように瞬きをして視線をよこす。
「……だれ?」
「ユウヤだ。お前の名前は?」
少し掠れた声に、舌足らずな発音。
恐らくユウヤと同年代であろう少年が使うものとしては、いささか幼いものだ。
特に取り乱す様子もなく、少年は静かに思考する。
「な、まえ……アイム」
「怪我をした時の状況はわかるか」
「ぼく、怪我してるの?」
「脇腹をざっくりな。もう治療は終わった」
アイムは目を見開き、驚きを表す。
服をたくし上げ、己の腹部に触れながら確認。
ぺたぺた、ぺたぺたと何度も確認。
「……まだか?」
肌の音が響くばかりの室内。
その間に胡座をかき、膝の上で頬杖をつくほどには余裕が生まれていた。
あまりに長く、空気に耐えかねたユウヤは口を開くと、ようやく顔を上げたアイムは眉を困らせ、肩を落とす。
「わからなかった」
肘が滑り落ち、不安定になったユウヤの体は傾ぐ。
死の淵を彷徨っていたにしては緩すぎるその様子に拍子抜けする思いだ。
「なんか、ふわふわした子だね」
突然、背後から響いた低音。
その正体はタクヤであり、なぜか一人で立っていた。
「お前しかいねぇのか?」
ユウヤの疑問に、タクヤは組んでいた腕の一方を解き、指を突きつける。
「君、一等賞」
何のことやら理解できず、ユウヤは困惑に眉を寄せた。
一等賞とは一位、もしくは一番。
ユウヤが一位、もしくは一番と指を差されている。
なるほど、ユウヤはここへ一番に辿り着いた訳だ。
「……悪かった」
ようやく状況を理解した。
一目散に飛び出した故に、後ろを気にかける余裕はなかったのだ。
知らぬ間に全員を置き去りにした結果の、一番乗り。
◆◇◆◇◆
数分の後、三人が到着する。うち二人は呼吸の乱れが激しい。
「げほ、は、速すぎるよ……」
「本当です……」
「あらら。大丈夫かい?」
タクヤは苦笑し、二人に水を差し出した。リズは気遣わしげに二人の背中をさする。
アイムはそれを不思議そうに眺めていた。
気を取り直し、話を再開させる。
「お前は倒れてたんだ。それも、道のど真ん中で。あんなところで何してたんだ?」
「……あんなところって、どこ?」
「どこって……ハモバダからユドミネに向かう道の途中だ」
「ハモバダ……?」
平坦な声音でありながら、後尾には疑問を乗せる質問返し。
幾度目かのその応酬に、どうしたものかと頭を悩ませる。
何を聞けば答えが得られるのか、見当もつかない。
その時、これまで沈黙を守り続けていたタクヤが動いた。
「……いや、おかしいな。ユウヤ、ちょっと交代」
ユウヤを押しのけ、アイムのそばに腰を下ろすタクヤ。
その行動に怯え、距離を取ろうとするアイムを、タクヤは一分の隙もない笑顔で引き止める。
「いくつか質問するから、答えてね。……名前はアイム。これは合ってる?」
アイムの首肯に話は進む。
「よし、じゃあ次の質問。ーーここの国の名前、言える?」
床を叩くことによって微かに伝わる振動。
タクヤが示したのはここ、リステリア王国だ。
ともすれば馬鹿にしていると取られても文句の言えないその言葉。
アイムは口に手を当て、黙り込む。
一向に口を開かず、伏せられた瞳。その理由を怒りと判断し、ユウヤはタクヤに詰め寄った。
「お前、こんな時に何ふざけてーー」
「わ、からない」
途端、静寂に包まれる。
アイムは俯いたまま、その体を小さく震わせていた。
答えられないことが信じられないと、己を疑うような息を漏らす。
一同は絶句するが、予想がついていたらしいタクヤだけは会話を続けた。
「何歳?」
「それも、わからない」
「どこから来たの?」
「わ、わから、ない」
頭を押さえ、苦しげに瞑目。
とうとう、アイムは何一つ答えることができなかった。
「ユウヤ。後輩できたかもよ」
タクヤは口元をひくりと震わせ、歪に笑みを形作る。
ふざけた口調にそぐわないその苦々しい表情。
冷や汗が背中を伝う感覚が、悪い予感を確かなものに近づける。
アイムは、恐らく。
「ーーこの子、記憶喪失だ」
その事実が音となり、長い長い静寂が部屋を満たす。




