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ロストハーツクロニクル  作者: すずめ
第2章 望まぬ再会
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幕間 会議

「お母さん!」


 勢いよく開け放たれた扉は大きな音を立てて壁に衝突。燭台に灯る炎が、風に吹かれて儚げに揺れる。

 息急き切って駆けつけて来たのがありありとわかるその様子を、男は静かに見つめていた。


「また急に呼び出したってことは、何かあったってことよね」


 女は自らの望む情報を得ることができない。逆に、眼前の光景に悪い予感を育てていった。


「アーデス、ザン……それに、緑まで空席じゃない」


「あの子は仕事だよ。ザンは……」


「ーーあいつは、来ねぇ」


 絶望に瞳を染める女へ、一人の無事を告げる男。

 男が本来埋まるべき席が空いていることに首を傾げていると、青の席から静かに報告があった。


「怪我でもしたのかな?」


「ううん、してないよ。むしろ……かなり元気みたい」


 男の問いかけには幼女が答える。怪訝そうな顔つきとなる男へ、青の男が回答。


「忙しいからこんなことに付き合ってられない、だそうだ」


 苦虫を噛み潰したような顔で渋々と口にした青の男。まさに苦渋の、といったところだろう。


「……ふうん、そう。それなら、後で話しておくよ」


「……お父さん。アーデスは、どこ?」


 意味ありげに目を細めた男へ、女は途切れ途切れに問いかけた。


「取り敢えず、座りなさい。話はそれからだ」


 こんな時に、と女が僅かな抵抗の兆しを見せたが、男はそれを許さない。有無を言わさぬその眼差しに、女は従わざるを得なかった。

 女が席に着いたところで、話はようやく進展を見せる。


「……今度は、アーデスが殺された」


「ああ、どうして……」


 女が考え得る中で最悪の予感が的中した。虹の死は家族の死を意味する。女は身を引き裂かれるような痛みに喘いだ。


「どうやら、シャーロットの時と同じ人間によって殺されたみたいなんだ」


 男の発言に、無言は共通、一人は鋭い目つきを伴って耳を傾ける。

 その行動を見て、男は一つ頷いてから話を続けた。


「アーデスからの最後の報告には、男二人と女二人。正確には青年と少年、少女と青年とほぼ同年代の女性。少年と女性は体術使いで、少女は魔術師。青年の正体は斡旋屋だって。そして、最後に二人だけ名前がわかった。ーーユウヤとタクヤだ」


「ユウヤとタクヤ……! その二人が、仇ってことでいいのね」


「そういうことになるね」


「そう、わかったわ」


 男は瞑目し、女の認識を肯定。


 次の瞬間、再び扉の開閉音。男が目を開けた時、既に女の姿は消えており、遠ざかる足音が聞こえるばかりだった。


「あれ、行っちゃった」


「親父、あまりセファナを煽らないでくれ。今のあいつは何をしでかすかわからねぇ」


 瞬きで驚きを示す男へ、青の男が苦言を呈す。


「ボクは真実を伝えただけだよ。それよりも、キミはどうするんだい?」


「俺も、そろそろ行くさ。一人でできることなんて限られてるだろうがな」


 男は軽く肩を竦めて答えとし、膝に座る幼女を抱え込んだ。それは恐らく、彼女の瞳から溢れるものを隠し、拭い去るため。


 青の男はそれを悲しげに見つめていた。母の嘆きは、彼の望むところではない。

 やがて立ち上がり、退出しようと扉に手をかける。しかし、それは男の言葉に阻まれた。


「キミは本当に不思議だよね。自分のカラーズを作らないなんて。……でもね」


 男は幼女を自分の席に座らせ、扉へと向かう。

 そして、ちょうど青の男の側面に立ち、耳元でこう囁いた。


「ーーボクが言っているのは、それだけじゃないよ」


 その言葉に肩を震わせた青の男だったが、気丈にも声にまで届かせることはなかった。


「……わかってる。それは俺がなんとかしてみせる。だから、親父もお袋も、手を出さないでくれ」


「うん、いいよ。可愛い息子の頼みだからね。……もう、あまり時間はないよ」


 男は唇を引き結んだ青の男を見て満足気に頷き、忠告を残してから元の場所へと戻っていく。

 男が背を向けた時には扉の音が響き、青の男も姿を消していた。


 ふ、と軽く息を吐いた男は、自分の席に座らせていた幼女を抱き上げる。


「どうして、こんなことになっちゃったのかな」


 涙声で呟いた幼女を、男は加減をしながら抱き寄せた。肩口が熱くなり、濡れていく。


「可哀想なアーデス。キミも、あの人たちと同じだ。あまりに大きすぎる力に呑まれてしまったんだね」


 幼女の頭を撫でながら、男は独りごつ。


「きっと仇は討つよ、シャーロット、アーデス」


 ようやく正体が見えてきた、家族の仇を討つと誓う。

 その言葉を最後に、二人は部屋に静寂を置いて去った。

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