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ロストハーツクロニクル  作者: すずめ
第2章 望まぬ再会
22/85

8.似ている男

今週は立て込んでいるので、更新できるか難しいところです。次話は6割ほど完成しているのでなるべく早くできるように頑張ります。

ツイッターでは投稿報告します。

「私にも、体術を教えて欲しいの」


 この町を訪れて四日目。ユアがタクヤへ唐突に指南を求めた日だ。


「あんた、ユアに何吹き込んだの」


「誤解だよ。俺だって今初めて聞いたんだ」


 詰め寄るリズに慌てて否定するタクヤ。しかし、ユアもリズを否定した。


「私も役に立てるようになりたい。せめて足を引っ張らないために、自分の身を守れるようになりたいの」


「それでも、体術は……」


 ユウヤは別に良いと思うのだが、リズは渋い表情を見せている。

 ふむ、と考えたタクヤは頷いた。


「とりあえず、力試ししようか。今の実力を確かめておかないとね。さあ、ユア。この中から選ぶと良いよ。誰を実験台にする?」


 タクヤが二人を手で示す中、ユアはさほど悩まずにある一人を指差した。


「え、俺……?」


 困惑するタクヤの横でリズが吹き出し、そのまま俯いて震えている。ユウヤはそのまま大声で笑ってやった。


「俺に恨みあったりする?」


「…………」


「これはあるわね」


 タクヤの日頃の行いを振り返ってみる。……なるほど、確かに。


「ええ、嘘だよ。嘘だよね?」


 ユアの顔を覗き込んだタクヤだが、ふい、と目を逸らされる。


「……ないと言ったら、嘘になる」


「本気じゃん」


 正直なユアの一言に、タクヤはそれを事実と知った。


「っ、良かったわね。ふふっ、こんな、ふっ、可愛い子に、選ばれて」


 リズの堪え切れなかった笑いが所々に漏れている。それを見たタクヤはリズにじとっとした目を向けていた。いつもと立場が逆転している。


「笑うなよ。……これは予想してなかったな。俺は選択肢になかったんだけど?」


「え、でも二人にそんなことできないし……」


「俺、消去法で選ばれたの?」


 タクヤは口を開けて驚きを隠せない様子だ。

 とうとうリズが引きつった声を上げてしゃがみ込んだ。ユウヤは口を腕で覆い隠す。


「いや、良いけどね別に。二人に任せるより俺が適任だよね」


 自分に言い聞かせるようにぶつぶつ呟くタクヤだが、悪いのは完全に自分だろう。この機会に自分を見直せばいい。


 ふてくされたタクヤは両手を広げた。


「じゃあ、ユア。おいでー」


 構えも適当に相手を呼ぶという全くやる気のない行動に出たタクヤ。明らかに拗ねているタクヤの元へ、ユアは素直に向かって行った。

 二人は顔を上げ、笑いが抑えられないままその行く末を見届けようとする。


 ユアはタクヤの目の前で立ち止まり、顔を上げた。

 にっこり微笑むユアに取り敢えず微笑み返すタクヤ。


「おりゃ」


「うわっ!」


 タクヤは思ったより鋭い左ストレートに姿勢を低くした。二人は驚きの声を上げるが、それでは終わらなかった。ユアは地面に手をついたタクヤの横腹に向かって、勢いをつけた蹴りをお見舞いする。

 今度は右腕を上げ、防御に成功。ユアはすぐに足を下ろしてタクヤを見下ろした。その視線を受け、冷や汗をかきながら地面に腰を下ろしたタクヤに再び笑みを浮かべるユア。


「リズの真似」


 綺麗に保たれた笑みだが、タクヤの顔は強張っている。


「ご、ごめんね……? ちゃんとやるから……」


 あの態度に素直に従ったユアを不思議に思っていたが、やはり多少苛ついていたらしい。


「すごいわね。私の真似、なんて」


 えへへ、と嬉しそうに駆け寄ってきたユアをリズが抱きとめる。

 感心するユウヤだったが、リズは違うようだった。

 その複雑な表情が、密着しているユアに映ることはなかった。


「リズの方がすごいよ。ちょっとだけだったのにすごく疲れちゃった」


 屈託のない笑顔を見せるユア、そして何も言わずに微笑むリズ。

 何か、ずれている気がする。


「こ、怖かった……」


 微笑ましい光景の違和感を探ろうとしたユウヤの元へ、タクヤがふらつきながらやって来た。


「どう考えてもお前が悪いだろ」


「いや、そうだけどさ。甘く見てたな、あの子の学習能力」


 ちょっとまずいな、と口の動きだけで呟いたタクヤはリズを呼び寄せた。


「何よ。負け犬」


「いや、負けてないし。本気でやったら俺勝つし」


「何張り合ってるのよ。それで負けてたらあんた今頃死んでるでしょう。というか、ユアにそんなことしたら許さないわよ」


「はいはい。……悪かったよ、ユア。ちゃんと教えるからこっちに来て」


 両手を挙げて降参を認めたタクヤと、今度こそユアの特訓が始まった。



◆◇◆◇◆



「ユアには護身術を教えるね」


「護身術?」


 当然、耳馴染みのないユアは首を傾げる。


「護身術は受け身の体術。こっちを甘く見て襲って来た敵を一手で制圧するものなんだ」


「皆と同じ体術はやらないの?」


 ユアの言う通り、ユウヤもリズも、恐らくタクヤもそんな名前の体術を扱ってはいない。


「ユアには魔術があるでしょ? 体術で対抗するより、得意な分野の弱点を補う方が良いからね」


「魔術の、弱点?」


「そう。確かに魔術は万能だ。だけど一つ、決定的な弱点がある」


 指を一本立て、説明を続ける。


「魔術師は当然魔術を使うことに特化してるわけだけど。だからこそ、体を鍛えることがほとんどない」


 ないよね、と確認を取るタクヤにユアは頷く。


「当然、魔術師同士で戦う時にはお互いが魔術を使うことが前提。でも魔術と体術の場合、体術側は接近しなければならない。それは難しいことではあるけど、接近さえしてしまえば魔術は使いづらくなるよね?」


「たしかに、そうだね」


 タクヤが手振りでその様子を表す。想像が追いついたユアは肯定した。


「護身術を覚えれば、戦い方の幅も広がる。いい考えでしょ?」


「……うん。じゃあよろしくね」


 ユアの言葉を受け、タクヤの指導が始まる。


 案外、まともに教えるようだ。先程のあれがよほど効いたのだろうか。


「ユウヤ」


 休憩がてら二人を眺めていたユウヤの隣にリズが立った。


「何だ?」


「あの子に体術を教えてって言われても、教えないようにしてね」


「……どうして?」


 思いもよらない頼みごとに目を丸くするユウヤ。リズは真剣な眼差しだ。


「あなたの体術は完全にこっち側。護身術だって怪しいところなのに、私やあなたと同じような技術を持ってしまったら。それは裏の人間と同じになってしまう。……それだけは、絶対に駄目」


 その目から本気でユアの身を案じていることが伝わる。妹のようだと言ったそうだが、確かにそれに近い感情を持っていることが伺える。


「オレも、裏の人間ではないんだけどな」


 一応断りを入れたユウヤに、リズは頷いて続けた。


「でも、その技術を持っているなら同じことよ。ユウヤ、あなたも気をつけて。あまり人目につくところで戦っては駄目よ。あなたは、普通に生きていくことができるんだから」


 ーーリズが人を殺しているようには見えない。言葉の端々に滲み出る優しさが、ユウヤに疑問を抱かせていた。


「リズは、どうして……」


 尻すぼみになるユウヤの質問を察したのか、リズは前を向いたまま薄く笑う。

 それは暗く静かな絶望、諦め、そして僅かな羨望を含んでいるように見えた。


「リズ?」


 リズの様子に言い知れぬ不安を覚えたユウヤは手を伸ばす。


「……どうかした?」


 ユウヤは手を止めた。これ以上伸ばすことが躊躇われたのだ。


「リズの戦い方って綺麗だよな。ずっと見ていたいくらいだ」


「…………」


「え?」


 話題を変えたユウヤに呆然と、ほぼ無意識のように何かを言ったようだが、聞き取ることができなかった。

 もう一度、という意味を込めて聞き返すと、どこか影のある淡い微笑みを見せた。


「……私ね、貴族だったの。今よりも魔術が普及していなかった頃、演舞としての体術が残っていた頃の話よ。小さい頃から父にガルナ流体術……ガルナ家に伝わる体術を叩き込まれてきたの」


 ユウヤは驚いたが、すぐに納得した。リズの言葉遣いや所作からは、確かに品の良さが感じられていたからだ。


「私が十二歳の時。リードの名前が広まって、新しい魔術がたくさん開発されたあたりから廃れ始めた。当然よね。体術なんて時代遅れだもの。私の家の体術は実戦で使えるような型が多かったから、それが危険視された。そしてじわじわと圧迫されて、仕事も減っていって、家がなくなったの」


 ユウヤは目を見開く。家が、なくなった?


「突然だった。家に知らない男が押し入って来て、父と母は私と弟を逃がすために残った」


 ユウヤは絶句する。リズは、そこまで壮絶な過去の持ち主なのか。


「私と弟は必死に逃げたわ。でも、私はいつの間にか弟の姿を見失った。今では一家全員ばらばらになって、消息すらわからない」


 でも、とリズは続けた。


「運が良いことに、私は(かしら)に声をかけられて組織に入った。この世界で初めて頼れる人ができて、そこからずっと一緒に仕事をしていた男がいたの。ユウヤと同じこと言ったのよ。私の体術は綺麗だ、見ていて飽きないって。変わってるわね、二人とも」


 懐かしむように目を細め、ユウヤと同じ話をしたという男の話をする。

 ただ、その声音はあまりにも悲しく、切ない


「ごめんなさい。こんな話、聞きたくなかったでしょう。……どうして、話したのかしらね」


 リズは一歩前に進み出ながら空を仰いだ。爽やかな風がリズの若菜色の髪をさらう。それはどこか儚く、消えてしまいそうな物悲しさをはらんでいた。


「私たちもあっちに行きましょう。あんなの一人じゃどうなるか」


 次に口を開いたリズに、憂いの色は見られない。

 ほっとしたが、拭い去れない何かは残ったままだ。しかしリズは二人の方へ向かってしまったので、後を追いかける。


「あれ、どうかした?」


「あんた一人じゃ不安だから来てあげたのよ」


「心配ないよ。わかってるくせに」


 和やかな雰囲気に包まれたこの空間。その居心地の良さにユウヤは下手に勘ぐることをやめた。

 この空気を勘違いで壊してしまうのは気が引ける。

 思い過ごしだと言い聞かせ、ユウヤも話の中に入っていった。


 その後は、癪なことに教え方がうまいタクヤによってある程度体の使い方が安定してきたユアに技をかけられたり、それを見て笑ったタクヤが技をかけられたり。


 翌日、ユアが筋肉痛に苦しんだのは言うまでもない。

実は元貴族のリズです。

リズは一体、何と言ったのでしょうね。

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