6.最悪の作戦
「ユウヤ、お腹空かない?」
「いや、空いてない」
「そ、そうだよね。食べたばっかりだったよね。あ、それとねーー」
途切れることなく話題を提供するユア。完全に気を使わせてしまっている。ユウヤに考える暇を与えないようにだろう。その考えに気づいてしまえば、もう思考は止められない。
「怖くねぇのか」
「ユウヤ……?」
「人を殺すことを躊躇わないオレが、怖くねぇのか」
聞かずにはいられなかった。
先程のユアの視線。ユウヤはその視線が怖かった。自分を信頼してくれたユアを裏切ったのではないか、そう思ったからだ。
ユアは悩み、ゆっくりと話した。
「……ユウヤは、私を助けてくれた。ご飯も作ってくれたし、泊まらせてもくれた。髪飾りも、似合うって言ってくれた。さっきの話が怖くなかったって言うのは嘘になるけど、それでもユウヤが優しい人なのは変わらない。そんなユウヤを怖いとは思わないよ。だって、私のこと殺さないでしょ?」
「…………」
冗談のようにそう締めくくったユアへ言葉を返すことができない。その様子を見たユアは悲しさを含めて口を開いた。
「……ごめんね。私、酷いこと言ったよね。アレンさんは、ユウヤの大好きな人なのに」
「それが普通なんだろ。多分」
間違っていたのはユウヤの感覚だ。ユアは何も悪くない。
いつの間にかずれてしまった価値観は、そうそう直せるものでもない。
明らかになっていなかっただけで、いつかは向き合わなければならなかったのだ。
それが今だったというだけの話だ。
「お待たせー」
しんみりとした雰囲気の中、それを破ったのは気の抜けるような声だった。
「ようやく来たな。言い出したのはお前だろ」
「ごめんごめん。つい会話が弾んじゃって」
振り返って文句を言うユウヤに、タクヤは特に悪びれもなくそう言ってのけた。
「弾んでない。誰があんたなんかと」
タクヤの少し後ろを歩いていたリズがあからさまに顔を顰めた。
「名前で呼んでって言ってるのに。お兄さん悲しいな。……背中で隠せてるつもりでしょ。それ、やめてね」
タクヤは後ろを振り向かないまま、リズに注意する。
何の話だと眉をひそめると、リズは悔しそうな顔をして後ろに置いていた手を腿に移動させた。
ーーユウヤは見た。その手には尖った指輪が連なったような何かが嵌っていたのを。
一瞬で取ったために気がつかなかったユアは不思議そうな顔をしている。
「ほんとむかつく。……二人は大丈夫? こいつ、大嘘吐きよ。何か酷い目にあったりしてない?」
「俺をなんだと思っているんだい、リズさんよ」
リズの背後に微妙な顔をするタクヤが見える。
「大丈夫だぞ。……今のところは」
「うん、大丈夫。……取り敢えずは」
「おっと君ら、お兄さんだって傷つくんだぞ。年長者は敬えよ」
まだその設定は生きているのか、という思いと共に昨夜の出来事を思い出し、息が漏れた。ユアも同じく。
「年長者だって言うなら敬えるような行動を見せてほしいわ」
この中で恐らく二番目に年上のリズが苦言を呈した。昨夜起こったことを知らないリズは、タクヤの発言を戯言として受け取ったようだ。
「じゃあ俺が率先して話をしよう。年上だから。話すのは今後のことについてだ」
やたらと年上を強調するタクヤ。何のつもりかはわからないが、真面目に話すようなので耳を傾ける。
「この件について、他の人の力……具体的には国家権力ね。一切頼れません」
最も頼りになるであろう力が使えないとはっきり断言するタクヤに、ある一言を思い出した。
「それはお前が前に言ってたことと関係するのか? 虹の被害はこっちに出てるとか何とか」
「お、よく覚えてたね。薄々思ってたんだけどユウヤって世間知らずなだけで頭は悪くないよね」
一言余計だが、世間知らずは確かだ。いちいち口を出していては話が進まないので睨むだけに留めた。
「国は対応できないってやつでしょ? 関係大有りだよ。早い話、国が介入しちゃうと俺らの存在を公的に認めることになるからね。裏の人間が被害者の場合、手が出せないんだ。それを知ってるのか、執拗に俺たちを狙うんだよね。ほんと、たちが悪いよ」
迷惑そうな表情で頬杖をつくタクヤ。ここまで明確に言葉と表情が噛み合うタクヤは見たことがない。本当に手を焼いていることがわかる。
「それでユウヤ。俺と別行動する気はないんだよね」
その最終確認に強く頷いたユウヤを見たタクヤは肘をつき、空いた方の手でテーブルの中心をとんとんと叩く。
「なら、全員で動いた方がいいな。こっちから襲撃するっていう手もあるけど、情報がほとんどない。敵の顔を知らなければ、アジトも知らない。だから、今はこの選択肢は取らない」
「今は?」
裏を返せば、後からなら取るということだ。なら、今は。
その言葉に反応したユウヤを、タクヤは嬉しそうに見ていた。
「このままいつ来るかも、何回来るかもわからない襲撃に怯えるなんてごめんだね。幸い敵も俺らを探してるみたいだし、利用するにはもってこいだ」
タクヤはいつも通り、にやりと笑ってユウヤに答える。
「ただ、やるなら早いうち。ユウヤの顔が割れていない、相手がこっちの人数が増えたことを知らないという前提が重要だから。時間が経てば経つほど、その点において有利ではなくなる。だから打ち合わせとか味方の戦力確認とか、ほとんどできない状態になるんだけど。ユウヤ、どうする?」
「賛成。旅ができなくなるのは嫌だ」
まだ何も見ていない、何も得ていないのだ。
「そうか。……そしてユア、今から酷いこと言うよ。君はここに残っていてほしい」
え、と固まったユア。ユウヤにとっても驚きの発言だったが、話は続く。
「君は俺たちと違って戦闘経験が全くない。それにかなり凄惨な現場を見ることになる。尾行がついていないことは確認したから、ここは安全だ。君はーー」
「わ、私は」
沈黙を守っていたユアがタクヤを遮った。驚くタクヤを横目で見たユアはぽつりと話し始めた。
「……私、は。ーー怖い。死ぬのは嫌。でも私だけ安全な場所にいて、もしみんなが帰ってこなかったら、私だけ残ってしまったら。それが、一番嫌」
その悲しげな声音に、ユウヤは胸が締めつけられるような感覚を覚える。
「お願い。足手まといかもしれない。でも、置いて行かないで。頑張るから。魔術、使うから。お荷物にはならないように頑張るから」
「オレが守る」
「え?」
タクヤはユウヤも同じ考えだと思っていたのか、この一言に大層驚いていた。
ユアはユウヤに久しぶりの温もり、安らぎを与えてくれた大切な人だ。
ユウヤの思考、怖かっただろうに、優しさは変わらないと言ってくれた。異質な価値観を持つユウヤを、受け入れようとしてくれた。
ユウヤは救われた。絶望の淵に立たされたユウヤをほんの少し、半歩くらいかもしれないが、こちらに引っ張ってくれたユアに。
「オレがユアを守る。それなら大丈夫だろ?」
そんな人を失わせはしない。
ーー決して、二度と。
「ちょ、ユウヤ。でも……」
「……ユアの気持ちは分かるんだ。知らないうちにずっと一緒にいた奴が死んだら、一人になったら嫌だよな」
ユウヤと同じ思いをして欲しくない。痛いほど身に染みたこの思いだけは。
「ユウヤ……」
「私も守るわ。もともとそのつもりで呼ばれたみたいだし、それなら良いでしょう?」
リズの援護が入り、さすがのタクヤも一考せざるを得ない。
「いや、う……ん……それは、そうなんだけど……」
「タクヤ、お願い」
歯切れが悪いタクヤに数の有利を持ったユアがもう一度交渉する。
その言葉はタクヤの表情を一変させた。
「……ユア。君のその言葉、どういう意味か分かってる?」
「…………」
突然、鋭い眼差しを向けられ怯んだユアだが、真っ向から見つめ返す。
「……絶対に無理はしないで。限界だと思ったら全力で逃げて。いいね?」
「うん、ありがとう」
頑なだったタクヤから見事に勝ち取ったユアは安堵で肩を落とした。
「じゃあ、全員参加ね。それなら……」
手招きをされた三人は顔を近づける。
「それ、大丈夫なの?」
気遣っているのか、はたまた成功を疑っているのか。そんな口振りで尋ねるリズに、タクヤは何だか聞いたことのあるような言葉を返す。
「これが成功するかは君たちにかかってる。頼んだよ」
その作戦の内容は、実にタクヤらしいものだった。
◆◇◆◇◆
「じゃあ、二時間後にまたここで」
「うん、後でね」
青年は三人と別れ、一人で歩き出した。
人通りのない道をずんずん進んで行く。比例して暗さを増すその道に、光る眼が複数。
一人が手をかざす。照準は、青年の足元に。
一向に気づく様子を見せない青年に成功を確信。口を歪め、発動する寸前。影がくるりと振り返り、体をこちらに向けた。
驚く男の瞳に映るのは、口元が三日月に釣り上がった標的の姿。
目を見開いた男は突然背後から頭を掴まれ、壁に叩きつけられる。ぱらぱらと崩れ落ちる欠片が、その威力を物語っていた。
男から手を離したその暴力は、強い瞳で残りの敵を視認。
仲間が倒れ、焦った男が闇雲に魔術を発動させる。発動した本人は咄嗟のことに制御が甘くなったらしく、味方もろとも立つことさえままならない。
ただ、三人を除いては。
「一人は残しておいてねー。アジトの場所聞くからー」
この状況には似合わないのんびりとした声が響いた。その声の主は遠ざかって行く。
「めんどくさいわね……ふっ!」
口ではそう言いながらも、リズの動きは凄まじかった。
魔術を発動する男の首へ一撃。倒れたことを確認し、背後を振り返ることなく回し蹴り。突然の攻撃にふっとんだ男はさらに背後の味方に激突、散々人を巻き込んで伸びている。
しかし、まだ終わらない。
男も女も容赦なしだ。撫でる手が、踏み込んだ足が、風のように舞いながら全てを蹴散らす。
「すごいな……」
ユウヤは片手で壁の欠けた部分に手をかけ、片手でユアを支えながらリズの無双っぷりを眺めていた。
魔術発動の兆候は事前に聞いていたため、その直前にユアを抱えて上に飛んでいた。おかげで特等席でその強さを目にすることができる。
本来の作戦はリズの撃ち漏らしをユアが魔術で落とす、というものだったが、その必要はなさそうだ。
「こ、怖い……足がつかない……」
「ちゃんと掴まってろよ。落ちたら怪我するぞ。怖いなら下は見ない方がいい」
ユアの出番はなさそうだ。安全を取ったほうが良いだろうと提案する。
「怪我どころじゃなくない……?」
ユアの腰に回す手の力を強める。それに応じて首に回される手もきつくなる。
温かい、なんてこの場にふさわしくないようなことを考える余裕まで持たせたリズの独壇場、それにとうとう幕が下りた。
最後の一人の背中を強襲し、倒れたところで腕を捻り上げる。
「闇討ち返し成功だね」
一人効果範囲から抜け出していたタクヤが、戻ってきた。ユウヤに合図を送る。
ユウヤはなるべく衝撃を抑えて着地し、ゆっくりとユアを下ろした。
「ユア、怪我してねぇか?」
「う、うん。怖かったけど大丈夫」
ユアは少し青ざめていたが、しっかりと立っている。
無理を言ったという自覚からか、きちんと自分でできることは自分でやろうとしているようだ。
「ユウヤ、飛びすぎ。あそこまでやらなくてもいいのに」
苦笑いするタクヤはユアに同情の目を向ける。確かにやりすぎたとは思っている。
「さて、始めようか」
タクヤはリズに拘束され、地面に伏している男の前にしゃがみ込んだ。
薄暗い路地ではタクヤの顔がはっきりとは見えない。しかし、あまり良くない雰囲気を纏っている。
「ユウヤ。今からコイツに質問するから、ユアの耳塞いであっち向いてて」
有無を言わせないその口調、タクヤの発する空気にこれから起こることを何となく感じ取ったユウヤは従う。
「ユア、ちょっと」
「え、何? わっ!」
ユアの肩を掴んで回転させ、耳を押さえた。
「え、え? ユウヤ?」
「悪いな、少しだけ我慢してくれ」
ユウヤの手をはがそうとするユアに一言だけ伝える。その声音で重大さを悟ったユアは大人しくなった。
「ごめんね、ユウヤ。本当は別の場所に行ってもらいたいんだけど、危険だから」
二人のやり取りが落ち着いたことを確認したタクヤは謝罪をして『質問』を始めた。
「アンタは橙のカラーズだな。俺らを襲った目的は」
「…………」
「目的は」
「…………」
黙り続ける男に、タクヤはため息を吐いた。
「君のスタンスは理解した。でも、次からはちゃんと答えてもらうよ」
最後の警告を口にして『質問』を再開する。
「橙の正体は?」
「……ぅぐッッ!」
何かが折れたような鈍い音が響く。
「もう一回聞くよ。橙の正体は?」
「…………」
再び、耳を塞ぎたくなるような破壊の音と呻き声。
「口、あるんだから使おうね」
その冷えた声に思わず体が反応してしまう。
時たま震えるユウヤに心配の声がかかるが、ユアに悟らせてはいけないと必死に抑える。
「困った、全然言わないな」
「もう一本やる?」
「そうだね。取り敢えず、この質問はあと三本分だ」
その会話に体が強張る。
これが、裏の世界で今日まで生き抜いてきた人間。殺しが日常となった時、人はこんなにも残酷になれるのか。
思わず俯いたユウヤにふっと影がかかる。
今日は雲ひとつない快晴。まだ日も落ちきっていない。人の気配もなかったはずだ。
そもそも、この作戦には四人しか参加していない。
ーーそれならば、この人影は。
「やってくれるじゃないか」
突然降ってきた声。想定外の状況となったことを理解したユウヤは咄嗟にユアを庇う。
「……ッ! 誰だ!」
「どうした!」
ユウヤの声に反応してこちらを確認する二人。『質問』されていた男は動けずに倒れたままだ。
「ふむ。報告では男が二人のはずだが……」
予定外の人物、白衣の男が訝しげに辺りを見回し、一歩前へ踏み出した。男はユウヤのことなど目に入らないかのように歩みを進める。
「女がいるなんて話は聞いていないな。……ああ、そんなところにいたのか」
「ッ……!?」
男の手が伸ばされると同時に、地面が意志を持ったかのように飛び出し、伏していた男を壁に叩きつけた。
「本当に役立たずだな、貴様らは」
圧迫される気管を少しでも広げようと必死にもがく男に吐き捨て、その力を抑えることはない。
「ぐ……ぁ……」
「どこまで私の邪魔をする? この私の崇高な研究に理解さえ届かない凡人が」
「か、ふ……」
男の顔は赤を通り越して、色を失っていた。命が消えるのも時間の問題だろう。
「ユウヤ、待て!」
タクヤの制止を聞かずに飛び出したユウヤ。それをつまらなさそうに眺める男は、もう片方の手をこちらに向ける。
「……目障りだ」
その言葉に呼応して地面が揺らいだ。ユウヤは壁を足場に飛びかかろうと跳躍する。
「ぐはッ……!」
しかし、その足場がユウヤを妨げた。飛んだ位置の真上から壁が盛り上がり、ユウヤを叩き落とす。
「ユウヤ!」
ユアが駆け寄り、ユウヤの肩を揺する。
高所から落下し、思い切り背中を打ったユウヤは動くことができない。必死に酸素を取り込もうと喘ぐ様を一瞥し、磔となっている男に視線を戻す。
男はもはや虫の息だ。最後の力を振り絞って白衣の男の方へ手を伸ばしている。
ーーどうして。
そんな言葉がぴったりだ。
「お前は用済みだ。消えろ」
男が手の平をゆっくりと閉じる。それと連動するように男の体も不自然な音を立て、中央に寄せられる。
「ユアっ!! 目を閉じろ!」
初めて聞くタクヤの怒号とも言えるその声に、ユアは反射的に身を竦ませる。タクヤの指示に従ったのではなく突然怒鳴られ目を瞑っただけだろうが、それが功を成した。
次の瞬間、何かが砕ける音が響き渡り、何かが流れ出る音が続く。
首がその方向に傾いていたユウヤは、全てを見ていた。
ユウヤは知っている。これは命が終わった音だと。無理矢理にその輝きが消された音だと。
ユアが震えている。安心させなくては。かろうじて動かせる手をユアの膝の上に乗せた。
ユアがびくりと反応して目を開けようとする。
「開け、るな。瞑った、ままで、いろ」
うまく声が出せない。背中が酷く痛む。内臓がどうにかなってしまったような気持ち悪さがある。
「ユ、ユウヤ。今、音が。酷い、音が聞こえて」
ユアは途切れ途切れになった言葉を無理やり繋げてユウヤに問いかける。
「ああ。絶対、目を、開ける、なよ」
「どう、なってるの? 私、どうすればいいの?」
泣きそうな声を出しながらもユウヤの言うことを聞き続けて目を閉じるこの少女に、ユウヤは何もしてやれない。ここから連れ出すことも、その震えを止めることも。
「動けないのか。やはり人は脆いな」
ユウヤは無理に首を動かして男の顔を確認しようとするが、視界がはっきりしない。悲鳴を上げる体を黙らせ、ユアを守るために立ち上がろうとする。しかし、支えとなる手が震えて使い物にならない。
「安心したまえ。その女に手を出す気はない。震えることしかできないつまらない人間に興味はないのでね」
そんな様子を見下ろす男はポケット入れていた手を、ユウヤの方へ伸ばす。
ユア、逃げろ。
呼吸さえままならないユウヤには、その一言を紡ぐことができない。
男の手がユウヤに触れる直前、巻きつけられた影によって停止する。
「アンタ、虹だな。こんなに早く出てくるのは想定外だったけど、ちょうどいい。死んでいくかい?」
その発動主は路地裏一帯の影を操り、男を拘束していた。しかしこの量には無理があったのか、肩で息をしている。
「戯言を」
男の言葉と共に地割れが起こった。地割れの中心は二人の足元。後ろへ大きく下がり、距離を取る選択を強制される。
「一つ、確認したいだけだ」
その結果を見届け、振り返った男はユウヤに尋ねる。
「貴様が赤を殺したというのは本当か」
この確認には何の意味があるのか。答えてはいけないのではないか。その意図を考える余裕はない。
「……そう、だ」
「ふむ、そうか」
朦朧とする意識の中、答えを口にしたユウヤ。
男は口を動かした。何を言ったかは分からない。ただ、その口元に微かな笑みをたたえていた。
「近いうちにまた会おう」
そう言い残し、男は光へと消えていった。
「ユウヤ、無事か! リズ、ユアを連れてここを出てくれ。急いで!」
「分かってる! ユア、いいと言うまで目は開けないで。私が引っ張るからついてきて」
男が姿を消した瞬間に飛んで来たタクヤに支えられる。
茫然自失のユアはリズに引きずられながら遠ざかって行った。
「よ、かった……」
「おい、ユウヤ! しっかりしろ!」
ユアが安全な場所へと向かって行くのを見届けると意識が遠くなるのを感じた。
ーー誰も傷つかずに済んで良かった。そんな安堵に身を預け、目を閉じる。




