4.こちら側
そろそろストックが不安な頃に。
切れた場合は書き終わり次第投稿という形になります。
時間帯が前後するかもしれません。
「お待たせ」
「あ? 今さら来てもお前のメシはねぇから」
屋台飯で昼食を取る二人の前にタクヤともう一人、さっきとは別の女性が現れた。
「いや、俺食べてきたし」
ユウヤ渾身の一言は効果を発揮しなかったようだ。視線を落とし、無言で昼飯を口に運ぶ。
「ごめんって。事情があったんだよ」
「事情だ? 女と遊ぶことが?」
「あんた、本当に最低ね」
まさかの隣からの非難。この女性はタクヤの味方ではないようだ。
「いや、それ乗ったら今俺と遊んでるのは君だってことになるけど」
この場の全員に批判され完全に孤立したタクヤだが、平然とそう言い放った。
そして横から飛んでくる拳をひらりと躱す。
ユウヤはその拳の鋭さに驚く。風を切る音まで聞こえるような拳だった。
「ほら、怖がってるよ。やめなよ」
ユウヤの驚愕を恐怖と勘違いしたタクヤは彼女から距離を取るとこちらを指差した。
「他に人がいるなんて聞いてないんだけど」
「言ってないからね」
「えっと、誰、ですか……?」
実際に怯えていたユアが尋ねると、いつも通りの笑みを浮かべてタクヤ。
「諸々説明するから、取り敢えず宿に帰ろうか」
◆◇◆◇◆
全員がベッドに腰掛けたのを確認したタクヤが話を進める。
「それじゃあ自己紹介ね。あっちからユウヤとユア。一般人」
「何だその言い方」
『一般人』と言う必要はあるのか。そう思っていた矢先、タクヤの胸ぐらが掴まれた。
「聞いてないんだけど!」
「言ってないからね」
タクヤはがくがく揺さぶられながらも笑みを崩さない。
何が起こっているのだろうか。この二人の関係性が見えない。恋人、ではなさそうだが。
「どんな関係なの……?」
ユアはユウヤの言いたいことをそのまま口にした。
「関係か。手を繋ぐほど仲良くはないね」
「誰があんたと手なんか繋ぐか。気持ち悪い」
散々な言われ様だ。タクヤは天井を仰ぎ、遠くを見ているふりをする。
「あー。君のこと紹介すると全部言わなきゃいけないんだよなー。やだなー」
「あんた、まさか自分のことも……」
「言ってない」
彼女は頭を押さえて重いため息をついた。
その原因はと言えばけろっとしているのが対照的だ。
「……仕方ないか。ユウヤ、前に来たるべき時が来たら教えるって言ったの覚えてる?」
「ああ。お前がはぐらかしたやつか」
「どうやら来ちゃったみたい。言いたくなかったんだけど」
とんでもなく渋い顔で一言一言を告げるタクヤ。
「そんなに言いたくないか」
「そうだよ。巻き込みたくなかった。俺が言わなければ、何かあった時も『知りませんでした』で済むかもしれない話だったのに」
ふざけた答えが返ってくると予想していたが、真剣な表情だ。そこに普段のおちゃらけた様子は全く見られない。真面目な話なのだと居住まいを正す。
そんなユウヤの様子を見たタクヤはため息を吐き、意を決したように口を開いた。
「俺は斡旋屋なんだ」
「まわしや?」
そんな職業、少なくともユウヤは聞いたことがない。隣を伺うとユアも首を傾げている。
「そう。依頼の斡旋。それが俺の仕事」
「何の依頼だよ」
肝心の仕事内容について触れないタクヤに痺れを切らして尋ねる。
「汚れ仕事だよ。ーー殺し、とかね」
「殺し……!」
絶句する二人を見て、ほら見ろと言わんばかりの顔で同意を求めるために横を向いたタクヤ。
彼女は知らん振りをしている。
「俺と、今俺のことを無視したこの人はリズって言うんだけど。俺たちは表向きは存在しない人間ーー裏の世界の人間だ」
裏の世界。聞いたことのない話だ。何も言わずにタクヤの言葉を待つ。
「裏の仕事はたまに護衛とかもあるけど、基本は殺し。依頼を受けて標的を殺し、金を貰う。そうやって生きているんだ」
「じゃあ、お前も……」
「俺はちょっと立場が違う。依頼を受けるんじゃなくて紹介する、いわば仲介人だ。俺が動くことはほとんどない。実際に動く人は他に居るから。この場合はリズがそうだね」
視線をやるとリズはあからさまに目を逸らした。
「この世界では基本、組織単位で活動する。組織に居た方が何かと便利なことが多いからね。リズは昔、有名な組織にいたんだ。今は個人でやってるけど」
「何でだ?」
組織にいた方が便利だという話をした直後の矛盾した現状について純粋な疑問を覚え、タクヤに尋ねる。
「それは、俺からは話せない」
はっきりと口を噤むことを宣言したタクヤ。その断固とした意志の強さを知り、リズを見る。
「私も、言わない」
目を逸らしたまま一言。深い事情があるのだろう、と自分を納得させる。
「どうして」
なぜ普通に生活するという道を選ばなかったのか。人を殺すことができるほどの才能は、きっと他に活かせる場所があるはずだ。
タクヤの苦笑。分かっていない、とばかりに首を振り、諦めたように。
「仕方ないんだ。この世界は魔術を中心に回っている。魔術が使えなくて仕事に就けなかったり、捨てられたり。これはそんな連中が生きるために唯一残された選択肢なんだ」
「でも、お前は魔術が使えるだろ?」
この目で何度も見た。ユウヤが裏の人間でない以上、ユウヤよりも魔術を使いこなしているタクヤがそうであるのはおかしな話だ。
その疑問はタクヤの言葉、衝撃の一言で解決した。
「俺は生まれてすぐに捨てられた。聞いたところによると、母親が薬物中毒だったらしくてね。薬を買う金が無くなって、俺を捨てたらしい。赤ん坊を金の代わりにしようとしたんだってさ。笑っちゃうよね」
実際に笑いながら話をしているが、全く笑えない。そんなユウヤの様子を感じ取ったか、特に悲しい話ではないと説明される。裏の世界では日常茶飯事だとも。
「そんな俺を拾ったのは裏を取り仕切る連中の親玉だ。そんな環境で育てば必然的にこうなる。しかも、俺は魔力がほとんどないからあまり使えない。表に出たところで生きる術が無いんだよ」
タクヤの身の上は状況こそ違えど、ユウヤと似ている。
拾われて、その人物に育てられた。そしてその人物に多大な影響を受けたのが今の二人だ。
「だからね、ユウヤは俺たちと同じだと思ってたんだ」
『だから』では繋がらない話に戸惑いを隠せないまま、ある答えに行き着く。
「俺が人を殺しそうに見えるってことか」
「そうじゃない。さっき、裏の連中は魔術を使えないって言っただろ? 俺たちはどうやって戦うと思う?」
見た目による評価ではないことが分かり、さらに質問をされ、訳が分からないながらも考える。
「どうって……武器、とか」
「それも正解だけど足りない。答えは体術だ」
「体術……」
体術はユウヤの得意分野だ、と言うよりも今までは魔術が使えなかったのだから当然だ。幼い頃からみっちり仕込まれてきた分、それなりに自信もある。
「体術を使うのは裏の人間だけ。だから俺は魔術が使えなくて体術を使うことができるって言ったユウヤはこっち側の人間だと勘違いした。でもそうなると、どうして一般人のユウヤが体術を使えるのかって話になる」
「どうしてって、オレはアレンにーー」
はたと気がつく。裏の人間は体術を使う。ユウヤも体術を使う。そしてそれを、身を守る術として教えてくれたのはーー。
「不思議だったんだ。一般人にしては異常なほどずば抜けた体捌き。そして、体術を教えたアレンという存在。考えれば簡単な話だった」
「ま、待て。それじゃあ、まさか……そんな、こと」
タクヤの言う通りだとすれば、まさか、アレンは。
縋るようなユウヤの視線は、タクヤの次の言葉を止める力を持たなかった。
「アレンは俺たちと同じ、裏の世界の人間の可能性が高い」
一方こちらは書いていて辛かった回。
そして次回が本番。




