第十六話
貴方は今、自分にとって最高の恋人と遊園地に訪れています。
遊園地には貴方達を待ち受ける数多くの素敵なアトラクションが広がっています。
そんな中で、貴方ならまず最初に何処へ行きますか?
A『ジェットコースター』
B『オバケ屋敷』
C『観覧車』
D『メリーゴーランド』
「……えっと、桜夜? これはイッタイ?」
「私の作った心理テストです。もし橋那ちゃんなら、何処に行きますか?」
「いや、ボクに恋人ってのは…………うぅ、わかったわかった。少し考えるからちょっと待ってよ」
今まさに司達がデートに訪れている遊園地――の、メインゲート上部。
屋根の照明の影にこっそりと潜んでいた橋那は、そんな桜夜の唐突な心理テストに頭を悩ませていた。
何故彼女が急に心理テストなんかを始めたのかも分からないし、そもそも橋那には“恋人”という概念がどうも分からない。
ついでに言うと、アトラクションという言葉自体の意味は分かるのだがどういうモノなのかも分からない。
かくいう橋那も、今日初めてこの遊園地という場所を訪れたのだ。
「ジェットコースターっていうのは……あの高いところで凄い速さで動いてるアレだよね。オバケ屋敷は、まぁ分かるか。観覧車は……あのゆっくり動いてる円形の? メリーゴーランドはアレ? 馬に乗って回ってるだけだなんてつまらなそうな……って、何でそんな恐い顔するのさ」
さて、困った。
どのアトラクションにもぶっちゃけて言えば興味が無い。
ジェットコースターの速度ぐらいなら自力で出そうと思えば出せるし、高高度から落ちてもどうとも思わないので嘘でも楽しそうとは思わない。
オバケ屋敷は要するに人力肝試しだが、橋那は人の気配をごく自然に察知してしまうので意味が無い。オバケ役の人に申し訳ないが、万が一の場合は反撃することもやぶさかではない。
メリーゴーランドは……見ている限り、馬を模した乗り物に乗って回っているだけでとても退屈そうである。
「じゃあ……ボクは、観覧車にしようかな」
残った選択肢が観覧車しかないのでそれを答える。
実際、橋那は高い所から景色を見回したりするのは好きだし、現に今もこうして高い所から建物や人々を見下ろしている。遠目から人の動きをみるのは意外と退屈しない、むしろ忙しなく動いている日常を垣間見るのはなかなかに楽しいのだ。
「なるほど、なるほどー。橋那ちゃんは『C』の観覧車ですかー。ふむふむ……」
「桜夜は?」
「私ですか? 私はですね、えっと…………えと、うぅんと………………その……うぅん……」
自分の作った心理テストなら結果も知ってるだろうに、桜夜は今この瞬間出題されたかのように真剣に悩み始めた。
時々心の声を外に漏らしながら、挙句の果てにその場で右往左往し始める。
自作の心理テストでここまで悩むヒトもいないだろう。
橋那は若干呆れつつも、延々と悩み続ける桜夜の姿を眺めていた。
「……ところで、この心理テストで何が分かるの?」
「あ、はい! この心理テストでは『貴方が恋人と大切にしたいモノ』がわかるんです」
「大切にしたいモノ……?」
そうです、と一拍置いてから桜夜は自分の答えもそっちのけに各設問の解説に移る。
「『A』のジェットコースターのようなスリル満点なアトラクションを選ぶ人は、恋人に“共感”を求める人です。シンパシーとも言えましょうか。小さな出来事でも、一緒に喜んだり悲しんだりすることを大切にしたいというタイプですね。こういう人は、年下の恋人さんと相性がイイかもしれません」
「じゃあ、オバケ屋敷を選んだ人は?」
「『B』のオバケ屋敷を選ぶ人はズバリ“信頼”ですね。恋人に頼ってもらいたい、寄り添ってもらいたいという頼もしさを感じてほしいっていうタイプです。自分という存在を恋人に大きく見てもらたい人ですね。相手が年上の人だとちょっと難しい反面、見事に信頼を得られればそれは絆となって二人を結びつけると思います」
意外としっかり(?)とした心理テストらしく、今目の前で右往左往してたヒトとは思えないほど整然と、アトラクションとそれを選んだ人の心理分析を結びつけている。見た目ほど桜夜が抜けていないのは分かっていたつもりだが、こういうコトとなると水を得た魚のように生き生きとする辺り、流石は縁結びの神といったところか。
「一つ飛ばしまして『D』のメリーゴーランド。これを選んだ人は何より“時間”を大切にする人です。楽しいコトはもちろん、辛いコトも悲しいコトも、何もかもをひっくるめて恋人と一緒に居たいっていう人です。そりゃ、メリーゴーランドも傍から見たらツマンナイかもしれませんけど、恋人と一緒に乗るとあっという間に時間が過ぎちゃうんです。盛者必衰ってヤツですね」
「……たぶん、栄枯盛衰って言いたかったんだよね? それを一時に結び付けるのも少し怪しいけど」
くるっと明後日の方向に向き直り、げほんごほんと本気でむせたような咳払いで誤魔化した桜夜は指を立てた。
「は、橋那ちゃんが選んだ『C』の観覧車を選んだ人はですね、“価値観”を大切にする人です。自分が感動した映画や景観を、恋人が同じように感動してくれた時同じように幸せを感じる人です。“共感”と少し似ていますが、決定的に違うのはそれが一瞬の感覚ではなく絶対的な感覚にあるトコロでしょうか。これを選ぶ人は、お互いのすれ違いに弱いと思われます」
「共感……ねぇ?」
恋人という概念に興味のない橋那としては当たっているのか外れているのか見当もつかない。橋那の答えはさておき、では桜夜は結局どれを選んだのだろうかと訊ねてみると、
「…………答え聞いちゃったら、心理テストの意味がありませんね」
あははは、と乾いた笑いを浮かべたので、橋那としては珍しく軽い溜息を吐いてしまった。
※
そんな桜夜たちに監視されているとは露知らず、忍とがっちり手を繋がれている司は空いている片手で今一度地図を確認していた。
今司達のいる場所がメインストリートを基点に、園内は様々なアトラクションで埋め尽くされている。
まず目につくのが正面にそびえる超大型ジェットコースター『有頂天』。地図には日本最速かつ最恐という物騒な売り文句がでかでかと記されている。縦にも横にも、バレルロールさえお手の物という驚異のアトラクション。さっきから何度も搭乗者の絶叫が縦横無尽に響いてくるのだが、傍目から見ていると恐怖で悲鳴を上げているようにしか見えない。そのくせ年齢制限も身長制限も見当たらない。大丈夫なのか、このアトラクション。
「なんだ、司はジェットコースターに乗りたいのか? なら早く並ばないと一回しか乗れないぞ」
末恐ろしいような忍の言葉に司が口を挟む。
「いや、こういうのって一回乗ったら十分じゃないか?」
「何を馬鹿なことを。乗れるうちに何度も乗るのが普通だろ。並ぶのに時間が掛かる半面、ジェットコースターはあっという間に終わってしまうんだ。一回乗った程度じゃ満足できるわけがない」
最低でも三回は乗りたいな、と意気込む忍を見て司は戦慄した。
あれを三回? それじゃ楽しむどころかほとんど罰ゲームじゃないのか?
日本最速にして最恐のジェットコースターを眺める忍の瞳は、心なしか無邪気な子供のような輝きを放っているように見える。……とても一回で満足するような様子には見えなかった。
と、一度視線を地図に下ろし再三確認。
ジェットコースターは他にも種類があるのだが、忍曰くどれもこれも“普通”とのことだった。司としては変にスリルを求めなくとも普通のジェットコースターで大いに結構なのだが、乗るなら『有頂天』一択だと忍に強く念を押されてしまった。他に目立つアトラクションといえば……
「じゃあ、これは? 『ダイビングフォール』っての」
司達のいる場所から見て西の方角に青い塔がそびえ立つのが見える。
ちょうど司達が視線を向けた時、塔に面したリフトが徐々に徐々にと高度を伸ばしていき、やがて頂点に辿りつくや否や急降下を始めた。
垂直落下による一瞬の無重力感が醍醐味の、文字通り上げて落とすタイプのアトラクションだ。
「近くまで行かないと分からないけど、ジェットコースターに比べたら多少早く遊べるんじゃないか? どっちかって言うと、俺はアレに乗ってみたい」
「あれは……うぅん。あんまし面白くはないと思うぞ。ただ上って、落ちるだけだし」
「ジェットコースターも似たり寄ったりな気がするぞ……」
優柔不断というわけではなく、単純に司も何処へ行くべきなのか悩んでいる。
かと言って決してはしゃいで目移りしてるわけでもない。
今の司の感覚としては様々な種類の石橋を叩いている状態だ。
「時間的に昼飯を先にするべきか?」
「……腹が一杯の状態で縦にも横にも揺れられたらお前はどうなる?」
「じゃあ……忍に任せる。適当に選んでくれ」
「ほう……私に一任してしまって大丈夫なんだな?」
最初の反応からして忍はジェットコースターを選ぶのだろうと適当に高を括っていた――のだが、手をぐいっと引っ張られ向かった先は司の予想に反したアトラクションだった。
「……ここか?」
「そうだ」
メインゲートから北東、緩やかな傾斜の道を上っていくこと十数分。
小高い丘の上におどろおどろしい様相を呈した廃屋のような建物に辿り着いた。
血糊(装飾)がべったりと塗りたくられた看板には『惨劇迷宮』とこれでもかと赤い文字。いちいち口にするまでもなく、この場所が何のアトラクションなのかがすぐ分かる。
「オバケ屋敷、か」
※
「オバケ屋敷に入るみたいだよ。……桜夜、どうする?」
「う……建物の中に入られちゃうと様子が分かりませんね。そしたら……ば」
「まぁ、見ようと思えば透視ぐらい出来るしそれで……って、桜夜? 何時の間に私服に着替えたの?」
「私たちも行きましょう! 変装すればバレないはずですし!」
「ボクは元からあの人たちに知られてないんだから大丈夫なんだけど」
「せっかくだし橋那ちゃんも着替えましょう! そんなカッコで入ったら、オバケ屋敷のオバケよりそれっぽくてちょっと申し訳ないです!」
「……そりゃちょっと傷付くな」
オマケっていうか、本編に割り込んできた心理テストでした。
ちなみに俺は……いいや。
あとで活動報告に書きますわ。




