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暗礁2



集中治療室での面会に許され時間は、15分以内と決められていた。


福沢薫は、ベッドの上で必死に何かを訴えようとしている夕子ユキチの瞳を見て、どんな言葉をかけていいのか、まったくわからなかった。


夕子は、私が実の母であることもわからないようだった。


外科の大門医師から精神科の木戸医師のところへ行くように言われた薫は、その足で精神科の外来に向かった。


予約がなかったため、診察は一番最後に回された。40分ぐらい待って扉が開き、


「福沢さん、どうぞ」

とやっと順番が回ってきた。


木戸は黒縁の眼鏡をかけ、30代後半くらいのとても真面目そうな医師だった。


薫はぺこりと頭を下げてから丸い椅子に腰掛けた。


木戸医師は、眼鏡の奥からギロリと目を光らせ、パソコンの画面に視線を移してから薫に問いかけた。


「お嬢さんたちは軽井沢に観光でいらしたのですか?」


「いえ、娘たちは音楽活動していて、みんなでバイトをやって資金を貯めてから、ここで合宿をしていました」


「自転車に乗っていたのは?」


「せっかく軽井沢に来たのだから、時間を作って街を散策していたのでしょう?」


「なるほど、それでトラックが信号無視をして事故にあった、というわけですね」


「はい」


「あれだけの怪我で済んで、本当に良かったですね」


「右側の腕と足に骨折はしましたが、粉砕骨折していなかったのは奇跡だと、大門医師に言われました」


「そうですね、砕けた骨が血管や神経までいっていたら、手術をしても元の通りにはならなかったでしょう」


「本当に助かりました」


「それでお嬢さんの症状ですが?」


「はい」


「記憶の要である海馬に少なからず影響が見られ、今までの記憶を取り戻せなくなっているようです」


「はい、少しだけ面会することができましたが、私のことがわからないようでした」


「まだ、患者さんは若いので、薬を最小限にして、脳が徐々に本来の役目ができるように治療していきたいと考えています」


「そうしていただけると、とても嬉しいです」


「大門医師からお伝えしたと思うのですが、こちらでの入院は、お子さんの夏休みまでくらいがよろしいのではないでしょうか?」


「はい、先生から紹介された病院があります」


「どちらですか?」


「東京の順天堂大学医学部附属練馬病院だったと思います」


「大門先生の知り合いの医師でもいるのでしょうか?」


「はい、若い女の子には、話が合う女の精神科の先生がいいのではないか、と。


最近、海外から東京の病院に移ってきたとか、おっしゃっていました」


「なるほど、私も担当医として、その先生と今後の治療方針について話しておきたいと思います。


そうすれば東京に転院した時、お母さんも安心できますね」


「気を遣っていただいて、本当にありがとうございます」


「そう言えば夕子さんの写真とか、愛用していたものなど、持ってきていただけましたか」


「はい、幼い頃から今までの写真がありましたので持ってきました」


「そうですか、彼女の治療にとても役立つと思います」


「先生、夕子は記憶を取り戻せますか?」


「人間の躰は千差万別です。

必ず治ると断言することはできません。


でも今は躰の傷を治す方が先決です。

私も外科と連携を密にして、治療に取り組んでいきます。


看護師達とも話したんですが、ひらがな、カタカナから学習をはじめて、身の回りの言葉を重点的に理解できるように進めていきたいのですが、どうでしょうか?」


「はい、ありがとうございます。

それでお願いしたいと思います」


「焦らずに頑張っていきましょう」



to be continue



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