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Sランクパーティから追放された回復支援職、俺がいなくなった途端に全員死にかけてるんだが? ~追放ざまぁから始まる、戦わない最強支援職の物語~  作者: 山奥たける


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第63話 知識の壁

 翌日。


 東方医術連合の拠点は、港町の古い商館に設けられた。


 大きな机。


 大量の書類。


 奇妙な形の医療器具。


 そして、数人の学者たち。


 彼らは黙々と作業をしていた。


 薬草を刻み。


 液体を混ぜ。


 記録を取り続ける。


 ノアが腕を組んで見ている。


「……徹底してるな」


 記録の量が違う。


 温度。


 時間。


 反応。


 すべて細かく書かれている。


 リオネルが振り返る。


「医学は記録です」


「再現できなければ意味がない」


 ノアが頷いた。


「正しい」


 ミナトが小声で言う。


「なんかすごいですね」


 だが、その空気はどこか冷たい。


 作業している学者たちは、こちらをほとんど見ない。


 リオネルが棚から一冊の本を取り出す。


 厚い革表紙。


 鍵付き。


「我々の医学書です」


 ミナトが目を輝かせる。


「見てもいいんですか?」


 リオネルは静かに首を振った。


「申し訳ありません」


 短い言葉。


「門外不出です」


 ミナトの顔が固まる。


「……え?」


 リオネルは淡々と言う。


「医学は危険です」


「誤用されれば人が死ぬ」


 机の上の薬瓶を指す。


「この量を間違えれば毒です」


 それは事実だ。


 ミナトは黙る。


 リオネルは続ける。


「だから知識は管理されるべきです」


「資格を持つ者だけが扱う」


 ノアが言う。


「完全な専門制度だな」


「ええ」


 リオネルは頷く。


「それが最も安全です」


 ミナトが小さく言う。


「でも……」


 リオネルが目を向ける。


「連盟は違う」


 ミナトは言葉を探す。


「俺たちは」


「現場の人でもできる方法を広めてます」


 冷却。


 補水。


 隔離。


 特別な知識ではない。


 だが、多くの命を救う。


 リオネルは少し考えた。


「それは応急処置です」


「医学ではない」


 その言葉は、少しだけ冷たかった。


 ミナトが俯く。


 だが。


 俺は言った。


「それで十分な場合もある」


 リオネルがこちらを見る。


「応急処置が」


 一拍。


「最初の医療になる」


 リオネルは少し笑った。


「哲学ですね」


「現実だ」


 俺は言う。


「現場は待たない」


 事故。


 疫病。


 戦争。


 専門家が来る前に、誰かが動く。


 リオネルは静かに腕を組む。


「だからあなたは」


「知識を広げる」


「違う」


 俺は首を振った。


「方法を広げる」


 知識ではない。


 **使い方**だ。


 リオネルの目が少し鋭くなる。


「危険な境界です」


 ミナトが小さく呟く。


「境界……」


 リオネルは言う。


「専門家と」


「一般人」


 その境界が崩れると、混乱が起きる。


 ノアが言う。


「歴史上、何度も起きている」


 医学の誤用。


 民間療法。


 毒。


 事故。


 リオネルが静かに言った。


「だから我々は壁を作る」


 知識の壁。


 専門家の壁。


 俺は言った。


「俺は橋を作る」


 部屋が静かになる。


 壁か。


 橋か。


 リオネルが少し笑った。


「なるほど」


 彼は窓の外を見る。


 港町の通り。


 人々が歩いている。


「では」


 静かな声。


「橋が本当に安全か」


 一拍。


「近いうちに分かります」


 その言葉の意味は、誰も聞かなくても理解できた。


 問題が来る。


 そしてそれは。


 議論ではなく――


 **現場で決まる。**

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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