第105話 ルドルフくんのお話し その1
ルドルフくんの話は次のとおりだった。
はじめね、パパとママを乗せて湖を越えてヴァルトラントに入ったんだ。目立たないように夜、低いところを飛んだんだ。しばらくすると明るい街が見えたから近くに降りて、歩いてそこに行ったんだ。ママは元気ないからパパと二人で手を引いて街に入った。もちろん僕は人間の姿になった。時間が遅かったからその夜は宿をとって、寝ただけだよ。
翌朝ね、目が覚めたらママが僕をなでてくれていた。ママにくっついたらママは幸せそうだった。なんか居心地がよくて、もう一度寝ちゃったよ。
朝ご飯はね、宿の食堂に降りて食べた。あんまり大きな宿じゃなかったんだけど、なんかワイワイしててね、みんな忙しそうにしてた。パパがそんなおじさんの一人に話を聞いてみたところ、
「国境が封鎖されているからね、果物が輸出できなくなってね、値崩れしてるんだ。俺達はそれを安く買い叩いて都市部で売るんだよ」
とのことだった。それを聞いて、ママの顔がまた暗くなった。するとパパはね、
「その果物は、とってもおいしいんでしょう、僕達も食べてみたいな」
と言ったんだ。そしてらそのおじさんが、
「これから買いつけにいくところだ、ついてくるかい?」
と言うので僕達はついて行ったんだ。
果物の買付に来ていたおじさんは、ウルリッヒさんといった。宿のある街から農場まで、ウルリッヒさんの馬車に乗せてもらった。
「あんたら何しにこの街に来たんだ?」
馬車でウルリッヒさんに聞かれた。これにはぼくが正直に答えた。
「あのね、ママが近頃元気ないからね、おいしい果物を食べてもらおうとパパと一緒に来たんだよ」
「そうか、ママ、元気ないんだ。それならこれから行く村のベリーがいいな。甘いんだがたまに酸っぱいのが混じっていてな、目が覚めるよ」
「そうなんだ、ママ、ベリー好きだから、楽しみだね」
ママは僕の方を見て、弱くうなずいた。
ヴァルトラントは森の国だから、馬車から見える景色は狭かったよ。だけどね、パパとママに挟まれて馬車に揺られているのは、なんか幸せだった。ママは元気ないけれど、お腹だけは鳴ってたね。ゆっくり進む馬車ってのもいいもんだね。
森を抜けて景色が急に広がったところにその村はあったよ。村の周りにね、背の低い木がいっぱいいっぱい生えててね、紫色の実がいっぱいついてたんだ。
「このベリーはね、この土地にもともと生えていたものでね、種とか苗で増やすことができないんだ。だから貴重なものなんだよ。生でもおいしいんだが痛みが早いんでね、ヴァルトラントの首都よりもノルトラントの国境のほうが近いからね、いつもはノルトラントに輸出していたんだよ。だけど今年は国境が封鎖されているからね、農家の人たちも困っているんだよ」
するとママが横から口を挟んだ。
「ドライフルーツにはできないのですか」
「できますし、やってますよ。それでも生食用がかなり余っちゃっているんですよ」
「なるほど」
「もちろんドライフルーツを増産しているんですが、それでも余った分を腐らすしか無いって話ですよ」
「それはもったいない」
「待っていましたよ、ウルリッヒさん」
「待たせたね、ダニエルさん」
村に入ると広場で農家の人が待っていた。ウルリッヒさんは昨日のうちに連絡を入れていたのだそうだ。
「ウルリッヒさん、そちらのお若い方たちは?」
「ああ、この人たちは美味しい果物を求めて旅しているんだ、宿で知り合ったんだよ」
「ステファンといいます。妻のアンと息子のルドルフです」
「なんかお隣の国の王子様みたいな名前ですな、国境が封鎖されて、残念ですな」
「そうですね」
「まあ、こっちの国から戦争仕掛けたんだから仕方ないですけどね。戦争のあと、あちらの聖女様にはずいぶんと良くしてもらったと聞いていたんですが、急に国境封鎖なんて、なにかあったんですかね」
「どうなんでしょう、私もよくは知らないんですよ」
どうもあの事件のことは、ヴァルトラントの人たちには知らされてないみたいだったよ。
「お見かけするところ貴族様のお忍びのようですが、それでもご存じないんですな」
「すみません、旅行中なもので」
「それもそうですな」
パパはうまいこと話を合わせているようだったよ。
ダニエルさんは話を続けた。
「奥さんは黒髪ですな、ノルトラントの聖女様のようですな」
「はは、名前もアンですからね」
「失礼ですがなにかお元気がないようですね」
「ええ、すこし思い悩んでいるようでしてね。こちらの美味しいベリーでもいただけば元気になるかなと思いまして」
「ここのベリーは野生種でしてな、とれたてはここでしか食べられないものです。それでちょっと元気になってもらって、国境がもとにもどったらノルトラントの聖女様に治していただけばいいですよ」
「外国人でもいいのでしょうか」
「ええ、あの方は戦争の処理もずいぶんとヴァルトラントの事情を考慮していただいたようですしな。そうそう、オクタヴィア姫もノルトラントでお世話になっているくらいですから」
「アン聖女様はそんなに人気なのですか」
「もちろん今のヴァルトラントに聖女が不在なのもありますが、なんでもあの方は先の戦争でヴァルトラントの戦死者のためにも祈ってくれたというではないですか」
ウルリッヒさんも言ってたよ。
「アン聖女様は平和と学問を愛する方だといいますから」
ママは困ったような顔をしてたけど、パパはちょっといたずら心を起こしたみたいだった。
「竜使いだとか、火炎瓶だとか、物騒なうわさもありますよね」
ママはパパを横目でにらんだ。それを見たわけではないだろうけれど、ダニエルさんはママを絶賛したよ。
「それがあの聖女様のすごいところですよ、聖なる力に加え、ドラゴンも手懐け、科学技術にもお詳しいということではないですか。おそらくノルトラントはあの方のお導きで栄えますよ。ココだけの話、このあたりがノルトラント領になっても、私は文句を言わないですよ」
パパはちょっと慌てたみたいだった。
「そんなことを仰って大丈夫ですか? だれが聞いているかわからないですよ」




