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第十一章 深手(1)

 楽しんでいただけたら幸いです。

 アラタたちが森の中で一悶着あった頃、もぬけになった家の中をうろつく一人の少女の姿があった。その少女は小屋に軟禁されていたケティであり、つい先ほどまで一人で動くのも困難なくらい衰弱していたのが・・・・・・、どうやらジャンヌが作ったスープを飲んである程度体力が回復したようであった。


 ケティは息を殺して、家の中の物を物色している最中であり、中々使えそうな物を厳選して、これまた家の中から拝借した麻袋の中に詰めれるだけ詰め込んでいた。


 しばらくは小屋の中で大人しくしていたケティであるが、小屋の周辺に人の気配が全くしないのを確認し、ここから逃げるための物資確保に出向いたというわけで・・・・・・。


 正直に言ってこんなにうまくいくとは思わなかった。自分が軟禁されていた小屋からこの家屋まで誰とも会わなかったのもそうだが、軟禁されたいた小屋や家屋に鍵がかかっていないのも幸運だったとしか思えなかった。


 というかいくらなんでも不用心だろう。


 まぁ、この森には盗人なんていないであろうから、鍵をかけるという感覚がないのも頷けるが。そのおかげでこうやって物資調達出来ているんだと思うと、・・・・・・なんだか複雑な気分であったが贅沢は言うまい。


 今の自分の調子ではとてもじゃないが太刀打ちできないだろうし(たとえ全快でもあのジャンヌには勝てる自信はないが)。


 今の自分がすべきことは、アラタと逃げる際に入り用な十分すぎるほどの物資を確保する事であった。自身が持っていた武器や荷物などは全てジャンヌに没収されてしまったため、欲を言えば代わりの武器を入手したいところであるが・・・・・・・、そもそも武器庫がどこにあるのかも定かではないので、もし散策中に武器庫を見つけたら入手することにしておいて、こちらをメインの目的に考えないようにした。


 今必要なのは数日分の食料に、傷などを手当てする医療用品などである。出来る事なら三日ほどの物資は欲しいが、あまり荷物が重くなっても困るのでここは控えめにして、とケティは厳選に厳選を重ねて物資を確保していく。


 せめて一日半ほどは確保したい。いざとなれば飲まず食わずで逃げることも視野に入れてはいるが、それでも多少の食料は必要不可欠だ。食料があるという事実だけで全然モチベーションが違う。


 それにだ。


 自分は行軍に慣れているからいいとして、全くの素人である飲まず食わずの逃避行はアラタには酷すぎるであろう。それに傷を負っている今の自分にも。


 だからこまめに休憩を挟まないと、すぐにスタミナ切れで行動不可能になってしまう恐れがある。せめて黄昏の森から抜け出さないとルーシア様たちに助けも呼べやしない。


「―――――――――――――まぁ、いざとなれば私が身代わりになって」


 此度の任務はアラタの身の安全が最優先だ。二人そろって逃げきれないのならば、自分が囮となってアラタを逃がせばいいだけの事。彼さえ助かればどうとでもなる。


 それに元より、私は数百年前に処刑されて殺されていた身だ。今更、己の生にしがみつくつもりはない。


 傭兵隊に属していた身だ。いざとなれば己の命を投げ出す覚悟はある。


 戦いに身を投じる者として、戦場で命を散らせるなんて本望なことだし、有人を守れて死ねるなんてとても名誉なことだ。


 数百年ぶりに、自分は戦いの中で死ねるかもしれない。あのような不名誉で理不尽な死に方ではなく、とケティは興奮のあまり体が小刻みに震えるのを感じた。


 これは歓喜か、それとも恐怖か。


 どちらの感情かは分からなかったけど、いわゆるこれが武者震いというやつか、とケティは震える体をも気にせずに物資を収集していく。


 時間も惜しいし、この武者震いの理由など今はどうでもよい事だ。その答えはその時が来たら、自ずと分かってくるはずだから。


「ふぅ、さて。目ぼしい物は一通り頂いたかな。にしても、外部との交流を断っている割には物が揃っているな。これ全部自分でこしらえたのか?」


 数百年という長い歳月は戦う事しか知らなかった少女に、色んな知恵や技術を身に付けるのに十分な時間であったのであろう。


 ここにある物は全て彼女の手製で溢れている。家屋も家具も、畑も井戸も、何もかも。慣れぬ仕事でも決して投げ出すことなく、ジャンヌは一人で生きていく術を長い時間をかけて習得したのだ。


 そんな生き方は、おそらく自分には無理であろう。途中で嫌になって投げ出すに違いない。


 人は決して一人では生きていけない生き物だ。その概念を覆したジャンヌの生き様は憧れはするが、それを真似したいとは思わなかった。


 自分はやはり他者と雑じって暮らすのが好きだ。傭兵隊で皆と集団で生活していたからか、周りに誰かいないと落ち着かないのだ。一人でいると不安になる。


 自分で言うのも何だが、私は結構な寂しがり屋だと思う。


 だから、先の戦争の時に私だけが生き残ってしまったのも辛かったし、自分一人だけが隊の皆と同じように名誉ある戦死じゃなく、不名誉な処刑で死を迎えることがすごく悲しかった。


 でも、私は死ぬことはなく、この世界に連れてこられて、そしてルーシア様たちに出会うことが出来て、再び私は愛すべき仲間や友と巡り合うことが出来た。


 それが、私とジャンヌ・ダルクの違いであろう。


 もし、自分もジャンヌと同じ運命を辿っていたならば・・・・・・、私自身も”魔女”へと身を窶していたかもしれない。


 それほどまでに”孤独”とは恐ろしいものなのだ。


 自分自身を根底から変えてしまうほどの―――――――――、”深き闇”。


 それを身に纏えば最期。それを振り払う術はなく、大人しくそれに飲まれるしかない。


 そんな仲間を、たくさん見てきた。そして、変わってしまった仲間の末路も。


 ジャンヌもおそらくその中の一人であろう。


 ”オルレアンの聖乙女”と持て囃され、本来の目的も忘れて図に乗った。その末路がこれだ。


 まぁ、私もそんなジャンヌの生き方に憧れて、傭兵隊に入隊したようなものだから、あまり彼女の事を偉そうに言えないが、と自嘲する。


 と、考え事をしているうちに、もう麻袋の中は物資でいっぱいになっていた。これ以上はもう入らない事を視認したケティは一先ず自身が軟禁されていた小屋まで撤収すべく、周囲をクリアリングしつつ外に繋がる扉まで忍び足で向かう。


 ほんの少しだけ扉を開けて、周囲に誰かいないかよ~く目を凝らし、誰もいないことを確かめたケティは長身の体を縮こまらせて迅速に移動する。


 もし一人くらいならば体術で始末することも視野に入れつつ、ケティは庭の隅の方に建っている小屋へと向かう。


 すると、その道中。すぐ右横の茂みがガサガサと蠢く気配がしたので、ケティは速やかに息を止めて、何かが潜んでいると思しき茂みへと近づく。


 もし魔物だったら逃げるしかないが、人間ならば傭兵時代仕込みの暗殺武術で―――――――――!!


 呼吸を整えて、相手の出方を待つ。少しでも動きがあるならば、容赦なく屠る!! と身構えていたのだが、いくら待っても茂みの裏に潜んでいる何かが襲ってく様子もなく。


 怪訝に思ったケティは、恐る恐るという風に茂みの裏へと覗き込むと、そこにいた”何か”の正体を目の当たりにし、あまりの驚きに両の目が大きく見開いたのを感じた。


 そう、そこにいたのは―――――――――――――――。



「・・・・・・・あ、アラタ?」



 

 全身血だらけで息も絶え絶えの、どう見ても満身創痍のアラタの姿がそこにはあった。




 



 新章が始まりました。

 気長に更新していくので楽しんでいただけたら嬉しく思います。

 では、次回に。

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