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第十章 共同生活(9)

 楽しんでいただけたら幸いです。

さて、つい強気に出てしまったものの、俺はすぐさま先ほどの己の発言を今すぐにでも撤回したい衝動に駆られていた。


 その理由とは――――――――


「・・・・・・はぁ、なんで俺あんなこと言ってしまったんだろう」


 ジャンヌの狩りに付いていくことになったからである。俺はジャンヌの売り言葉に買い言葉で、つい彼女の狩りに同行すると口に出した俺は、あれよあれよという間に再び黄昏の森深くにやって来ていた。狩りの装備にと渡されたのは使い古された弓一式と刃が少し欠けた短刀一本のみで、防具類の類は一切貸してくれなかった。


 ジャンヌ曰く、


「素人が急に防具を身に着けたら重くて動けなくなるから」


 だそうで。


 自分は立派な金属製の防具一式を身に纏っている癖に、とやさぐれはしたものの、現実はそう甘くはない事を嫌というほど知っているので、彼女の決断には素直に従うことにした。


 大体何の訓練もしたことのない人間がいきなり防具を身に着けても、そのあまりの重さに動けないことは火を見るより明らかだ。ゲームの主人公のようにありとあらゆる武器や防具を、一般人の俺がいとも簡単に扱いこなせるわけがないのだから。


 それにしても、と俺はジャンヌから下賜された武器を見下ろすと、手慣らしの意味を込めて軽く振ってみることにし、まずは短刀を鞘から取り出してみる。


 ケティから譲渡された剣とは雲泥の差があるこの短剣・・・・・・、こう言っちゃなんだけどただ単に欠陥品を渡されただけなんじゃないのか。こんな刃毀れした刀身じゃ豆腐すら切れないであろう。それが硬い肉なら尚更だ。


 恐らくこの短剣は仕留めた獲物の肉を解体する様なんだろうけど。もう少しいいのを渡してほしかったな。こんなナマクラを渡されるなんて、まるでジャンヌから遠回しに”戦力外”と言われたようで釈然としない。


 まぁ、でも実際その通りなんだけれども。


 しかし、それを他人から言われてると癪に障るというか。こういうのを男のプライドというのかな。ぜひジャンヌには男の心情というか、心の機微を理解していってもらいたい。


 にしても、一人でこの不気味な森に立っているっていうのも心細いもので―――――――――、一体ジャンヌはどこまで行ったんだよ、と無性に不安に駆られて俺は、一人で森の奥深くへと姿を消したジャンヌの姿を首を伸ばしつつ待ち続ける。


 彼女は妙に張り切った様子で、


「今日は久しぶりに大物を狩ろうと思っているの。獲物はそうね。熊なんかが手ごろかしら」


 と、人が制止する間もなく、そう呟くと脱兎のごとくの俊敏さで森の奥へと駆けて行った。その素早さときたら忍者もかくやであった。というかあんな重たそうな防具を着用しているのに、よくあんなに素早く動けるなと感心してしまい、その隙にジャンヌは俺の視線から完全に姿を消してしまっていた。


 こうなっては追跡も不可能なので、ここで大人しくジャンヌが帰って来るのを待っていた方が賢明だ。そう判断した俺はかれこれこの場所から一mも動かずに彼女を待つこと数時間。


 待てど暮らせど、ジャンヌが帰ってくる気配は一向になく―――――――――。あまりに遅いため業を煮やした俺はもうジャンヌの事など置いて帰ろうかな、と重たい腰を上げて来た道を戻ろうとしたその時。


 俺のすぐ背後から何者かが蠢く気配を感じ、俺は思わず息をするのを忘れて気配の主の正体を探ろうと意識を集中する。


 しかし、恐怖の方が先行してしまい、中々に集中できないでいた。気が乱れてしまい、これ以上の索敵続行は無理だと速やかに判断すると、俺は得体の知れない奴から逃げるべく、混乱と恐怖に支配されて満足に動かない足へと指示を出す。何回も足がもつれそうになるも、どうにか動けるようになったことに安堵し慌ててこの場から離れようと駆け出した。


 だが、―――――――――――逃げることは叶わなかった。


 俺の体は俺の意志とは裏腹にその動きをピタリと止めてしまい、まるで全身が金縛りにかかったかのように動かなくなってしまった。


 どうにかして俺はこの状態から脱しようと試みるが、その試み虚しく俺の体は一mとも動かなかった。自分の体なのに自分の思い通りに動かせないことがすごく歯痒かった。


 それよりもっと情けなかったのは、何の抵抗も、反撃の意志も見せずに、逃げるという選択肢を選んだ俺の弱い意志にだ。


 あれだけ息巻いていても、俺は自分の身が可愛いのだ。


 そのことを改めて眼前へと突き付けられたようで・・・・・・、物凄くやるせない気持ちになった。


 意気消沈している俺に追い打ちをかけるように、ゆっくりとした足取りで固まって動けない俺のすぐ真後ろまで何者かがやって来て―――――――――、ついに俺の耳裏に息がかかるまでの距離まで接近してきた。


 その距離はほぼゼロ距離と言っていいであろう。


 顔にかかる吐息の甘い香りに、俺はなんでか知らないけど心臓が激しく鼓動するのを感じた。


 恐怖からか? 否。


 では、何故か?


 それは分からない。分からないけれど・・・・・・、その感情を知ることは”罪”になりそうな気がして、俺はそこで考えるのを止めた。


 それにだ。


 もう俺をこんな状態にした奴の見当はついた。野生動物や魔物でないのなら、まだ交渉の余地はある。こんな手間のかかったことをするのは”あいつら”しかいない。


 そう、不可思議な力を操る存在――――――――”魔女”であると。


 しかし、魔女であると当たりを付けたはいいが、その魔女の正体までは分からなかった。まさか俺の事を”兄”と慕う今のジャンヌがこんなことをするわけないし。だとしたら今俺の背後にいるのはジャンヌとは別の魔女か。


 恐らく俺の事を突け狙う”魔女派”の魔女であろう。


 ならば、やっぱりこの状況は緊急事態なのでは? 殺されたりはしないであろうが、拉致られる可能性は十分にある。こうして体の動きを封じたのがその証拠であろう。


 俺は動かない四肢に力をこめるも悲しいかな。ピクリとも動かなかった。


 そんな俺の様子を愉しむかのように、俺をこんな状態にした魔女は、悠然とした足取りで俺の眼前へと己の姿を現した。


 俺の視界に映った魔女は俺が今まで出会った度の魔女とも外見が一致しなかった。いや、正確には外見が把握できないからであった。目の前の女は全身黒のローブを纏っており、顔も分からないようにフードを目深に被っていた。どうやら初対面のようであるが、それは俺だけのようでこの魔女は俺の事を、最初から知っているような素振りで微笑みかけてきた。


 この魔女の事を問い質したいが、忌々しい事に金縛り状態の口は一向に開く気配すらない。微かに開いた唇の隙間から、まるでゾンビのような低い呻き声だけか漏れ出る。


 そんな俺を哀れな生き物を見るかのような視線で見つめた魔女は、


「体動かないんでしょ? まぁ、それもそうよね。私の魔術から逃れられた者は誰一人だっていないもの。ねぇ、今どんな気分? って、聞かなくても分かるけどね。ねぇ、アラタ?」


 いちいち癇に障る女だ。


 しかし、そんなことより気になることが一つだけあった。


 この女・・・・・・、何故初めて会った俺の名前(偽称だけど)を知っているんだ。


 どれだけ考えても謎が埋まらない俺を見かねてか、手持ち無沙汰気味に己の髪の毛を弄りながら魔女が口を開く。


「貴方の事は魔女派の中では噂になっているもの。あのヴァネロペ様が求めてやまない、はじめての男。みんなあなたに興味を示しているわ。勿論、この私もね」


 それがどれほど光栄な事か、愚かな貴方には到底理解できるものではないだろうけども、とも付け足す女。どこまでも上から目線な物言いに腹が立つも、そのことに文句一つすら今の俺には口に出す事も叶わず――――――――。


 どこまでも俺という存在を否定する気の女に、俺は抑えきれないほどの怒りと殺意を覚えた。


 もし今すぐにでもこの体が動いたなら、一発その顔面を殴らないと気が済まない。それほどまでに俺の苛立ちは頂点に達していた。


 そんな俺の気も知らずに、目の前の少女は喋る口を止めない。


「ヴァネロペ様はしばらく動けそうにないから、代わりに私がヴァネロペ様に変わって動いているというわけよ。そこで、床に臥せっているヴァネロペ様の代りに様子を見に来たのだけれど・・・・・・。なんだかすごく面白くない方に事が運んでいるようね」


 何を、言っているんだ? この女は?


 いや、そもそもこの女は”魔女派”の中でも相当偉い地位の魔女なのか? 


 というか、全くこの女の言っていることが理解できない。


 あまりにも得られる情報量の多さに脳が処理できないでいると、少女はふとマシンガンのように喋っていた口を噤み、何やら下卑た笑みを浮かべて金縛り状態で満足に動けない俺のすぐ傍まで近寄ると、


「ふふふふふ、少しだけ”現実”に戻してあげる必要があるかもね」


 何を、とこの少女の言っている意味が分からずに動かぬ体で身じろいでいると、


「――――――――――――ふぅ」


「!?」


 何のためらいもなく、俺の襟首を掴み上げ自身の方へと引き寄せた少女は、己の唇と俺の唇を重ね合わせたのだ。チュッと唇同士が触れ合う際の湿った音が二人の間に響く。


 人生二度目のキスに驚きと戸惑いを隠せず目を白黒にさせていると、不意に背中に感じる身も凍えるほどの殺気に心臓が収縮するのを感じ、しかし、それでも満足に動かない体じゃ唇を重ねるこの女を振り払う事も出来ず――――――――。


 いや、決して言い訳してるんじゃなくて、ただ事実を言っているだけであって!!


 出来うることならすぐにでもこの女を振り払って、俺の背後にとんでもない殺気を纏って近づいてくる存在に平謝りしたい。したいけれども!!


 悲しいかな。


 俺の意志とは裏腹に、俺の体は、俺の唇はこの女との口づけにすっかり興奮している始末。


 この時ばかりは、俺が男であるという事を恨んだ。


 しかし、身体は本当に正直なもので、もっとこの甘美な快感に浸りたいと要求する。


 俺の要求を鋭敏に感じ取った少女は、勝ち誇ったような笑みを浮かべて、余韻たっぷりに重ねていた唇を離すと、ただ一言。


 俺の背後にいるであろう存在に告げる。





「――――――――――――――これで、目が覚めたでしょう。ジャンヌ・ダルク」




 

 俺はその名前が出ても大して驚きはしなかった。


 だって、こんなに悲しそうな嗚咽を漏らすのは、彼女しかいないと分かっていたからだ。


 主人公に接触した魔女は誰なのか? すぐに判明すると思います(爆)

 では、次回に。

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