第十章 共同生活(8)
楽しんでいただけたら幸いです。
昼食を終えた俺はというと。
食べ終えた食器類を片づけているジャンヌから、独房に収監されていたケティを移動したことをそれとなく聞き出し、少しそこら辺を散策すると言い残すと、ケティの様子を見に行くべく行動に移す。
独房から出されたってことは、あのゲキブツスープを飲んだという事で・・・・・・。俺はケティが死んでいないかを確かめるべく、危険を顧みずケティの元へと向かっていた。正直もう一度ジャンヌに見つかったらどうなるかは想像に難くはないのだが、それでも様子を見ないわけにはいかないのだ。
俺はなるべく足音をさせないように気を付けながら歩を進める。ここにはジャンヌだけでなく、彼女の魔法で操られた少女たちもいるのだ。その監視の目を潜り抜けて、ケティの元へ辿り着くのは中々に容易ではないであろう。
しかし。だからこそやりがいがあるのであって・・・・・・、俺は意識を研ぎ澄ませて周囲の様子をクリアリングする。辺りには敵影はないしと。
俺は息を殺し身を縮こまらせて、新たにケティが収容されている小屋へと向かう。
その小屋は掘っ立て小屋のような粗末な作りであったが、それでも地下の独房よりかははるかにマシではあろう。独房はいるだけで健康を害しそうだし。それに小屋にはベットもあるだろうから、怪我人で衰弱しているケティにはこれとない程の好待遇になったはずだ。
俺は今一度辺りに誰かいないか確認すると、素早く小屋の中へと身を滑り込ませた。勿論、ドアを開閉する際も細心の注意を払って、極力音を出さないように気を付けながら。
どうにか無事に小屋へと侵入することに成功した、俺は肺の中に溜めていた二酸化炭素を息として吐きだす。どうやら呼吸すらもすることを忘れていたのか。それほどまでに気を張っていたんだな。
まぁ、それも無理ないか。
一度ジャンヌに怪しまれて釘を刺されたばかりだもんな、少々用心深くなっても仕方ないよな。
数回ほど深呼吸を繰り返し、どうにか落ち着きを取り戻した俺は改めて小屋の中へと意識を向ける。たいして広くない部屋の中には、これまた粗末な作りのベット一台のみが置かれていて、そのベットの上にケティは寝かされていた。
規則正しい呼吸からして彼女は眠っているようだ。だが俺が先ほど独房で聞いた寝息に比べるとだいぶ安定して、彼女の体力が少しだけ回復したことが分かった。あのゲキブツを飲んだからかは知らないが、顔色とかも結構よくなったようで。
(一先ずは安心かな。ケティには無事に村まで帰れるほどの体力をつけてもらわなければ。道中には魔物とか野生動物もいる事だし)
そう、この森に来る前の道中だってたくさんの魔物と遭遇し、その全てをケティが退治してくれたのだ。つまり俺たちが大した怪我もなく無事にこの森に辿り着けたのは全てケティのお陰であり、ケティこそが俺が考え出した計画の要なのだ。
正直に言おう。
ケティが復活してくれないと、この計画は全てオジャンだ。
百戦錬磨のケティ様でないと、あの少女たちを連れて魔物から守りつつ村まで帰還することは、ほぼほぼ不可能に等しいであろう。
だからこそ、俺はケティには元気になってもらいたくて・・・・・・。
俺は安らかな表情で眠るケティの端正な顔を、彼女の傍まで歩み寄って見下ろすと、彼女が目を覚ます前に、ジャンヌが怪しむ前にこの場から退散することにした。
名残惜しいがあまり長居するわけにはいかない、と俺はケティに背を向けて小屋から足音もなく出て行った。
小屋の扉が閉まってから数秒後。
先ほどまで寝ていたケティの瞼がゆっくりと開き、彼女はつい先ほどまで己の傍にいた少年の姿を思い浮かべて、血色の良くなった顔で綻んだ笑みを浮かべた。
少年の存在を強く噛み締めたケティは、心地よい安心感に包まれながら、彼の厚意を無碍にすることなくまずは己の体力回復に努めることにして睡眠へと意識をシフトする。
それがまず自身の成すべきことだと本能的に悟ったケティ。
そんな彼女が再び深い眠りにつくのにはさほど時間がかからなかった。一定の間隔で聞こえる寝息を小屋の外で聞いている存在にも気づかずに。
さて、とケティの小屋から誰にも見つかることなく出てくることに成功した俺は、何くわない表情でジャンヌの元へと戻ると、今しがた昼食の後片付けを終わらせたジャンヌと鉢合わせになり、彼女は俺の姿を視界に捉えると花が咲き誇ったような、見ていて愛らしい笑みを浮かべて走り寄って来た。
「兄さん、散策はどうだった? いい気晴らしになったでしょう? この辺りは自然豊かだし、空気も美味しいから」
「あぁ、そうだな。それでジャンヌは仕事終わったのか?」
「ちょうど終わった所よ。昼食は品数が少なかったから片付け事態はそんなに大変じゃなかったしね。それと片づけている片手間にあの子たちと捕虜に食べさす昼食を用意していたの。今頃食べているんじゃないかしら」
「そうなのか。ちなみに昼食のメニューは? もしかして俺達が食べ残した残飯じゃないよな?」
恐る恐ると言った風にジャンヌに確認を取る。
はっきり言ってその可能性は十分にあった。
俺は固唾を飲んでジャンヌの回答を待っていると、ジャンヌはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ、
「そうよ。残飯で十分でしょ」
まさか、本当だったとは!!
俺があまりのショックで目を見開いて固まっていると、その様子を見ていたジャンヌが腹を抱えて笑い声を上げた。
「あはははは!! 兄さんってば冗談に決まっているでしょ!! ちゃ~んと別に用意しているから安心して」
流石の私も残飯なんて食べさせないわよ、とジャンヌ。
どうやら俺はからかわれたようで、正しくジャンヌに一杯食わされた。
しかし、ジャンヌがこんなジョークを言うなんて正直意外であった。
ジャンヌの性格からは想像できないお茶目な一面を垣間見て、俺は今まで抱いていたジャンヌ・ダルク像を今一度見直してみる機会だと思った。
考えてみたら俺が知っているジャンヌは表面的なものだけで、彼女の性格とかそんな些細なことなど何一つ知らないのだ(前も言った気がするけど)。
とにかくジャンヌがあまり非道な魔女でないことを知れただけでも朗報か。
俺は気恥ずかしさからか真面にジャンヌの顔を見れなくなり、彼女の顔からそっぽを向けて自身の居心地の悪さを誤魔化すようにして話題を変えた。
「そ、それでこれからどうするつもりなんだ?」
「えっ? あぁ、今から晩のおかずを獲りに行こうかなって思っていたところなのよ。自給自足だから、自分たちで食べる分の食材は自分自身で確保しなければいけないの」
「獲りに行くって・・・・・・、一体何を?」
「そうね、今回は猪か鹿か。余裕があったら熊とか?」
熊? 何、ジャンヌさんってば意外と肉食系? というか熊とか狩れるの? すごくない?
俺ってば一人だと猪すら兎も狩れなかったのに・・・・・・、と格の違いを見せつけられた気がして、ガクリと力なく膝をついて項垂れる。
そんな俺を他所にジャンヌは着々と狩りに行く準備を整えていく。
「まぁ、兄さんは苦手なら大人しくここで待っていて。慣れてなかったら怪我するから」
弓一式や剣を装備したジャンヌがズバリとそう言い放つ。
正しくその通りなんだけど、そこまではっきり言われると、ただ黙っていられないのが男という生き物であって。
俺ってここまで負けず嫌いだっけ? と自分自身の意外な一面に驚きつつも、俺を”弱い存在”と認識しているジャンヌの鼻面を明かしたくて、心にもない事を口走った。
「待てよ!! 誰も行かないなんて言ってないじゃないか!! 俺も狩りに同行させてもらう!!」
言ってすぐに俺は後悔したが、言ってしまった以上今更撤回することは出来ず・・・・・・。
俺が同行することに気を良くしたジャンヌの麗しい顔を横目で眺めつつ、「はぁ~」と重々しい溜息を吐いて己の無謀さに呆れはてるのであった。
ジビエ料理って美味しいんでしょうか?
なんか血生臭い気がして・・・・・・。
けれど一度食べてみたい気がします。
では、次回に。




