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第十章 共同生活(1)

 楽しんでいただけたら幸いです。

 俺はどうにかしてここから脱出しようと試みるが、中々思ったように事は運ばなかった。よく映画なんかでは敵に捕まった主人公が上手く縄などを解いて華麗に脱出するのだが・・・・・・・。やはり現実はこんなものだよな、と俺は遠い目をして達観する。


 そもそもだ。


 映画の主人公とは違い、俺の拘束は中々に厳重だ。両手両足を拘束され、しかも双方ともに異なる拘束方法なので、結構解除するのに時間がかかるのだ。


 しかし、あんまり悠長に解除している暇はない。もたもたしているといつあの女たちが戻って来るか分からないからだ。


 ここには俺の他には敵しかいない。恐らくケティもすでに敵の手に落ちているのであろう。


 今俺の成すべきことはここから抜け出して、この家屋のどこかに捕らえられているであろうケティを助け出し、共にこの森から逃げ出して一度態勢を整えるべきだ。


 俺たちはこの森を甘く見ていたのだ。


 いや、正確にはジャンヌ・ダルクという魔女を甘く見ていたのだ。


 それに・・・・・・、想定外の事態になっていることを可及的速やかに、村で待機しているルーシアたちに伝えなければいけない。それとエマたちにはショックかもしれないが、彼女にもこの事実を伝えなければ。その上で彼女たちを救う術を考えなければいけない。


 恐らく俺の見立てでは彼女たちは催眠魔法かなんかにかかっているのだと思う。この魔法を解くには魔法をかけた本人か、魔法を強制的に解除する薬かなんかが必要なはず。


 まさかジャンヌが魔法を解くわけないし、少女たちを救うには後者の方法しかない。


 しかし、残念ながら俺にはその方法が分からない。ケティがこの場にいたならば少しは違ったのであろうが、ない物ねだりしても仕方がないので俺はまず自分一人で出来る事をすることにした。


 にしても――――――――、この拘束きつく締めすぎてないか!? 一体どんな馬鹿力で締めたんだよ、と俺は悪戦苦闘しながら拘束を必死に解こうとするが、一向に解けない拘束に対し悪態をつく。


 まぁ、本来拘束とは逃げられないようにするためなのだから、使い方としては何ら間違ってもいないのだが・・・・・・。


 それにしてもここで逃げ出せれなかったら、ここで俺の人生は終了になる。それはつまりこの物語も終焉を迎えるという事で・・・・・・。


 どれだけメタイと言われようが構わない。


 大体主人公には主人公補正というものがついているのがお約束であって、窮地に陥ると大体上手く事が運ぶのが常識であるのに、俺ときたらその主人公補正にも見放されてしまったのか。


 あまりの仕打ちに絶望した俺はすっかりいじけて、拘束を解除するのも何だか億劫になってしまう。もうこのまま逃げなくてもいい気がする。もし殺す気があるのなら最初に会った時に殺しているだろうし、そうしないってことは俺を殺す必要がないってことで。


 ならば従順に振る舞っておくのも有りかもしれない。下手に抵抗して立場を悪くするより、大人しくして相手の出方を窺った方が得策のような気もする。


 というか絶対にその方がいいだろう。俺が従順な態度を取っていれば、捕まっているであろうケティの安全も保てるかもしれない。


 俺はそう意識を変えて、一切余計なことはせずに、このまま大人しくこの場所で待機することに決めた。まずはこの家の主であるジャンヌと対面する方が先決だ。交渉次第では、ケティたちを解放できるかもしれない。


 俺は拘束されているせいで徐々に痺れが先っぽの方から伝って来るのを感じつつ、それでも身動ぎせずに耐え抜くことにした。逃げ出さない意思を見せれば、この拘束具を外してもらえるやもしれない。そうなればこの痺れともおさらばできる。


 にしても・・・・・・、俺にはジャンヌの考えていることがさっぱり分からない。


 人間が嫌いといいつつ、それでも殺さずにこうやって捕らえて、しかも牢屋とかじゃなくて自身の家の一室に軟禁しているし。なんかこう言っている事とやっていることがちぐはぐというか。矛盾しているんだよな。


 あまり無駄な殺生を好まないのかもしれないが、腐っても魔女なのだし単なる気分次第なのかもしれない。


 それでもあの魔女派の魔女たちよりは、まだ交渉の余地があるかもしれない。あいつらは何だか話が通じなさそうだけど、ジャンヌ・ダルクならば話が通じそうな気もする。


 魔女に身を窶したといっても、仮にも騎士だった女だ。


 騎士道精神くらいは持っているであろう(騎士道精神がどういったものか詳しく知らないが)。


「それにしても、普通捕虜をここまで放置するか? もし逃げられたりしたらどうするつもりなんだ?」


 馬鹿なのか間抜けなのか。それとも絶対に逃げられないという自身があるからなのか。


 少なくともジャンヌ・ダルクという女は只者でない、と俺は再認識した。


 とりあえず俺たちの敵は強敵過ぎたという事か。


 そもそもだ。初っ端から飛ばし過ぎた気もする。ルーシアたちですらこの女の調略に失敗していたのに、この世界に来たばかりのしかもただの人間に過ぎない俺に、この大役は少々荷が重すぎた感がある。だからこうして二人仲良く捕らえられている訳なのだが・・・・・・。


 あぁ、駄目だ。


 こうジッとしていると、ネガティブな事ばかり考えてしまう。しかも、わりと堂々巡りなことばっかりで、大した中身のない実にカスカスな考えばかりが頭に浮かんでは消えていく。


 せめて何か変った事とか刺激のある事でもないと―――――――、と俺は何の気なしに扉の方へと視線を向ける、と。


 先ほどまで一mとも開かなかった扉が、鼓膜を劈くようなギギィと不快な音と共にゆっくりと開いていき、完全に開ききった先には、俺が今一番会いたかった少女が物憂げな表情を浮かべて立っていた。その背後には数人の少女たちが付き従っているのが窺えた。


 少女――――――――ジャンヌ・ダルクは、背後に控えた少女たちにその場で待機するよう指示すると、俺が横たわっているベットの傍まで遅々とした足取りで歩み寄ってきた。心なしかその表情は緊張しているようにも見えた。


 俺は傍まで寄って来たジャンヌの端正な顔を見上げつつ、彼女が口を開くまで大人しく待つことに徹する。ここでいらぬことを言って彼女の反感を買ったら元も子もないからだ。


 しかし、当のジャンヌは俺が一向に口を開かないからか、怪訝そうに眉根を寄せると大胆にも俺が寝ているであろうベットの上に片足をかけて、こちらへと身を乗り出してきたのだ。


 その距離はほとんどゼロ距離に近く、彼女の意気遣いや体温がリアルに感じられて、俺は不覚にも激しくときめいてしまった。ジャンヌの少し酒の混じった甘い口臭を嗅ぎつつ、俺は視線のすぐ先にあるジャンヌの端正な顔を真っ直ぐに見つめながら、彼女の動向を黙って見守る。


 ジャンヌは酒に酔っているようで白い頬がほんのり赤く染まっており、瞳も僅かにだか潤んでいるようにも見えた。


 俺はあまりの気恥ずかしさにジャンヌの体を除けようと、拘束された体を必死にもがくもやはり上手くはいかず、それどころかますますジャンヌは俺の体の上に己の体を預けてくるので、非常に心臓が悪い。


 流石にこのままでは埒が明かないと、俺はどうしてこのような行為に走ったのかジャンヌに問い質すことにした。


「・・・・・おい、ジャンヌ。一体何の真似だ。説明してくれよ」


 ジャンヌは俺の問いかけに反応するように、ほろ酔い状態の顔をこちらに向けると、


「・・・・・・さぁ、なんでだと思う? お前は、”兄さん”は悪い子の私を叱ってくれる?」


「兄さん? おい、一体どういう意味だ? おい」


 ジャンヌの発した『兄さん』というセリフに、俺は理解がついていかず、彼女に詳しくその言葉の意味を問い質そうとその体を揺らすも、ジャンヌからは全く反応がないのを確認する。どうやらジャンヌは寝てしまった様だ。


 ったく、人騒がせな・・・・・・。


 とりあえずジャンヌには早々にお引き取りしてもらおうとするも、ふと俺の今の状況を思い出す。


 俺は拘束されており身動きが取れない。


 しかも、部屋の入り口で控えている少女たちは、俺の体の上で眠りこけているジャンヌの言う事しか従わない(先ほど試しに呼び掛けてみたが何の反応もなかった)。


 ということは、今日一晩このジャンヌと寝所を共にしないというわけで・・・・・・。


 俺はあまりの緊急事態に目を剥いて悲鳴を上げる。


「まさか冗談だろ・・・・・・・!?」


 拘束されて身動きが取れないうえに、魔女とは言え見た目が麗しいジャンヌと一夜を明かすなど、健全な青少年にしたら生殺しに他ならない。


 俺は悶々とした気持ちのまま、眠れぬ一夜を過ごすのであった。


 唯一の救いはジャンヌの存在に神経を集中させていて、拘束具による締め付けの痛みを忘れたことくらいか。


 俺は一刻も早くジャンヌの酔いが醒めるように祈りながら、ジャンヌの甘い体臭に包まれつつ、自身の欲望が暴走しないよう素数を数えながら耐え忍ぶのであった。


 

 


 新章が始まりました。

 この章ではジャンヌとの共同生活を書いていきたいと思います。

 では、次回に。

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