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第十章 共同生活(2)

 楽しんでいただけたら幸いです。

 あれから一睡もできずに夜が明けた。


 その間、俺は鋼の精神でもってして、どうにかジャンヌの体に触ることを耐え抜いたのだ。健全な青少年にこの状況はキツかった。いくら俺がその手の事に興味があまりないとはいえ、それでも一応は男なのだから、そういうエロい事に興味があるのは仕方のない事で―――――――――。


 俺は自分で自分を褒めてあげたかった。自分でも信じられないくらいなのだから尚更か。


 それにしても、この女は本当に太々しいというか、肝が据わっているというか。普通合って間もない男の部屋で眠りこけるか? いくら酒を飲んでいたからといっても、途中でアルコール成分が抜けてきて起きないのか。


 こんなに酔いつぶれるなんて、どのくらいの量の酒を飲んだんだよ、と俺はジャンヌの計画性皆無に呆れるも、いい加減に起きてほしいためまだ夢の中にいるジャンヌの意識を呼び起こすため、拘束されて不自由な腕で揺り動かす(これが中々に難しい)。


「おい、おい。そろそろ起きろって。いつまで寝てるんだよ」


 わりと乱暴に揺すっているのだが、ジャンヌは目を覚ます気配がなく、それどころか「う~ん」と唸りつつ俺の方へと擦り寄って来たのだから始末に負えない。あまり身動きの取れない俺にしてみたら一種の拷問に等しい。


 俺は朝の生理現象を彼女に悟られたくないという気持ちもあって、何ていうか我ながら少々大人げなかったと思う行動をとってしまった。


 今思えばよくあんな体勢であのような行為が出来たなと思うけど、それだけ必死だったのだ。そのことだけは分かって欲しい。


 つまり、何をしたのかというと―――――――――、寝ていて無防備な体勢のジャンヌを蹴り落したのだ。


 寝ていて意識のないジャンヌの体は俺の蹴りがもろに食らった瞬間、嘘のように軽々と吹っ飛ぶと、何やら嫌な音を立てて床の上に落ちた。


 俺はその音を耳にするとすぐさま我に返り、ついで自身のした行いを思い出して、サァーと顔が血の気を失う。


 いくら諸々の事情があったからって、流石に寝ている女の子を蹴り飛ばすなんて、なんて鬼畜な所業をしてしまったんだ俺は。それ以前に”あの”ジャンヌ・ダルクを蹴ってしまった、なんて現代に戻って際に知られでもしたら―――――――、拷問されてもおかしくないであろう。


 それほどまでにジャンヌ・ダルクは人気があるのだ。


(逃げよう!! 今がチャンスだ!!)


 俺は衆人観衆に拷問される未来の俺を想像し、そのあまりの恐怖にすっかりパニック状態に陥ってしまう。その様な事は絶対起きないのであるが、徹夜明けで妙にテンションが高い彼にはそんなことまで考えが及ばないのだ。


 俺はどうにか転がりながらドアの方までいけないか、と俺は同じ体勢で一夜を過ごしたせいか、激しい筋肉痛と関節痛を患ってしまったため、正直なところこの方法での脱出方法は不可能に近い。


 だが、このままここにいるなんていう勇気は俺にはない。


 どうにかしてジャンヌが起きてくる前に逃げ出さなければ。なに、ここから逃げ出せれればどうにでもなる。そんな確証はないのだが、今はそう思えなければやっていられなかったのだ。


 俺はゴクリと唾を嚥下して、固く瞼を閉じると、意を決して横向きに転がって逃げようとした矢先、なにやらベットの下からどす黒いオーラのような物が立ち昇って来るのを感じ、俺は閉じていた瞼を開けてそのオーラを放つ人物を確かめようとする、と。


 うっすらと開けた視界の先に見えたのは、どす黒いオーラを纏いながら、ゆらりとまるでゾンビのように不気味な動きで立ち上がるジャンヌ・ダルクの姿であった。


 どうやらあの時の衝撃で目が覚めたようだ。そして、自分の置かれた状況を冷静に分析し、結果的に俺が何かしたと推測したのであろう(まぁ、ここには俺とジャンヌしかいないから、いずれバレるが)。


 それにしても起きてすぐにしてこの頭の回転の速さ・・・・・・。


 流石はあのジャンヌ・ダルクというべきか、と自分の置かれた状況も忘れて、素直に彼女の頭の良さに脱帽する。


 って、そんな悠長に事を構えていられないを思い出し、俺は芋虫のようにベットの上をもがくようにして移動するも、魔女の魔の手からは逃れなかったようで。


 ベットの上でもがく俺の足首を掴むと、女の子とは思えないほどの腕力で引きずり下ろす。抵抗する余裕もなく俺の体はベットの上から床の上へと叩きつけられた。その時の衝撃で両足首に嵌められた足枷が外れてしまい、不覚にも俺は両足の自由を得ることが出来た。


 徹夜明けの体へと理不尽な仕打ちが襲う。


 クッションも何も引いていない木の床へとしたたかに腰を打ち付けてしまい、俺は蛙が潰れたような呻き声を上げて痛みに悶える。


 その俺を冷めた表情で見下ろすジャンヌ。その青い瞳には怒りの炎が揺らめいでいるのが視認できた。


 まぁ、流石に蹴り落したのは拙かったか。


 それでも俺の心情も考慮してほしい。恋人でもない女の子に、激しく自己主張している部分に顔が当たっているのを耐えられる思春期真っ盛りの男がいるであろうか。


 中にはいるだろうけど・・・・・・、少なくとも俺は無理だ。恐らく草食系男子なら誰しもがそうでなかろうか。


 けど今はその事は置いておいて、ジャンヌの怒りをどう上手く逸らすかという事で・・・・・・(恐らく無理だろうけど)。


 ここは大人しく彼女の折檻を受けた方がいいのかもしれない。流石に殺されはしないであろう。多分半殺しくらいじゃないかな、と甘く考えているが、果たして―――――――――。


 俺は固唾を飲んでジャンヌの一挙一動を見守るが、どことなくジャンヌの様子が変だ。


 俺をあの湖で捕らえた際には思い切り背中を踏みつけて、まるでゴミを見るかのような侮蔑の籠った視線で見下ろしてきたのに比べると・・・・・・、いやに大人しいというか。まるで別人のような錯覚を抱いてしまう。


 もしかしてこの女は・・・・・・、ジャンヌ・ダルクの双子の妹とか? いや、そんなことはない。ジャンヌには四人の兄弟妹がいたというが、双子の姉妹がいたとは聞いたこともない。


 なのでこの少女はジャンヌ本人には違いないのだが・・・・・・、それにしても態度か雰囲気とか初対面の時と比べて変わり過ぎじゃないだろうか。


 一体俺が捕らえられている間にどんな心境の変化があったのかと小一時間ほど問い詰めたいほどだ。


 しかし、ジャンヌの意図が全く読めない今。下手な事は考えない方がいいであろう。ジャンヌ・ダルクの意向を見守ってからでも遅くはないであろう。


 だからかな、沈黙がすごく辛い。いや、辛いというか気まずいのだ。


 俺はどんだけ痛めつけられてもいいから、どうにかジャンヌから何かアクションを起こしていただかないと事が進まないし。それになんていうのかな。この体勢はまずいと言うか。下からジャンヌを見上げるというポージングは色々とマズイ。


 あと数ミリほど首を動かすと彼女のきわどい部分が見えそうになるのだ。そしておそらくパンチラなどの生温いものではないであろう。流石に朝っぱらから拝見する様なものでもないので、俺はどうにかジャンヌのきわどい部分を見ないように視線を逸らしつつ、


「・・・・・・おい、ジャンヌ。いや、ジャンヌさん。さっき蹴ったことは謝るから、その俺の上からどいてくれませんかね。できたらこの手首の拘束も解いてほしいんだけど」


 彼女の動向を待っていたんじゃ埒が明かないと判断し、俺は自分から先ほどの愚行を謝ることにし、そしてさり気なく自身の要求も付け加える。

 

 だがその言葉にも反応することはなく、ただただジャンヌは無言で俺の事を見下ろすばかり。その様子に何だか恐れをなした俺は動ける範囲でジャンヌから逃れようと試みるも、そう簡単にはいかなかった。


「・・・・・・・ッ」


 と、どうやら急に俺が自分の下から動こうとしたのが癪に障ったのか、ジャンヌは不機嫌そうに眉根を寄せると、不意に俺の目線に合わせるようにしてジャンヌは四つん這いの態勢になる。


 まさかまさか。


 あのジャンヌ・ダルクがそんなエロ漫画みたいなポージングを取るとは想像できなかったので、俺はただただジャンヌの予想だにしなかった行動に唖然となるばかり。


 そんな俺を置いてけぼりにしてジャンヌは、その端正な美少女顔をゆっくりと俺の顔へと近づけさせていくのを黙って見続けていると、なんと俺があっという間もなく己の柔らかそうな唇を、ポカンと開けている俺の唇に重ねてきたのだ。


 唇が重なる瞬間、甘い体臭と柔らかな唇の感触が寝起きの頭に五感を通じてリアルに伝わって来て、俺の脳は不意打ち過ぎる出来事にショート寸前であった。正直に言ってあのジャンヌにキスされるなんて露ほども思っていなかったからだ。


 何が何だか分からないまま俺とジャンヌの唇は、彼女が満足して離れるまでずっと重なっており、俺は目を白黒に差せてしばしジャンヌとのキスの余韻に浸るのであった。


 

 ―――――――――――まさか、これが俺の初キスになると知らずに。




 初キスはレモンの味とか言いますけど、それはきっと嘘ですね。

 キスの経験はありませんが、恐らく食べた物の味がすると思います。

 でも初キスは嬉しくてきっと気持ちが舞い上がって、なんの味も匂いもしないんでしょう。

 まぁ、とにかくキスっていいよねって話です、はい。

 では、次回に。

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