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第三十章 貴方に、会いたくて(32)

 楽しんでいただけたら幸いです。

「おい、いつまで震えているんだ」


 トン、とクラリスの頭を軽く小突くケティ。その表情には呆れの感情が浮かんでいた。


 小突かれたクラリスは後頭部を擦りながら、


「だ、だって!! 怖いものは怖いんだもの!! 仕方ないじゃない!!」


 涙目で口を尖らせながら、まるでか弱い乙女の如くそう訴える。


 ったく、魔女だというのにーーーーー、なんと情けない。


 そう言えばこの女は滅多に墓場へと足を踏み入れない、と言っていたのを思い出す。


 なるほど、単に出不精というだけでなく、幽霊が苦手という理由もあったのか、ケティはポンと膝を叩く。


 まぁ、その原因というか理由は良く分かる。


 多かれ少なかれ、魔女はーーーーー、人間を殺戮してきた。


 罪があろうとも、罪がなかろうともだ。


 それ故に、彼女たちは怖れるのだ・・・・・・、霊という存在を。


 自身の殺めた人間の霊を見るのが怖いのか。


 魔女という生き物は存外繊細で脆い存在なのだ、ケティは小屋で入手した兵士人形を手の中で弄ぶ。


 だからといって諦める訳にはいかない。折角有力な情報というか手がかりを入手出来たのだ。


 クラリスにも是非手伝ってもらいたい。


 ケティは未だプルプルと震えているクラリスの眼前に、先ほど入手したばかりの人形を差し出す。


 クラリスはチラッと人形へと視線をやると、


「・・・・・・これは?」


「これはあの小屋で見つけたんだ。よくよく見てみるとこの人形はマリ・ド・サンスがネロという名の少年に贈ったものだと分かった」 


 差し出された人形を受け取るクラリス。しばらくその人形を見ていたクラリスは表情の読めない顔で呟いた。


「ーーーーーわずかにだけど魔力が感じ取れるわね」


「そうなのか? 私には何の変哲もない普通の玩具にしか見えないが」


「当たり前じゃない。ただの人間には感知すら出来ないほど、ごくごく少量の魔力しか残ってないもの」


 貴女たちもそうでしょ、とクラリスは手にした人形を、ついさっきまで一緒に震えていた少女たちに見せる。


 少女たちは同意する様に大きく頷いて見せた。


「ご託はいい。それで? この人形がここに落ちていて、魔力が残っている理由は何故なんだ? 手短かつ分かるように言え」


 逸る気持ちを抑えきれず高圧的な物言いになってしまうケティ。彼女の心情が理解できるのかクラリスも嫌な顔をせずに答えてくれた。


「この人形はここと異次元を繋ぐ、一種の入り口というやつよ。高度に練り上げられた転移魔法が付与されているのが分かるわ」


「ーーーーーそんなことが分かるのか?」


 ケティは驚きに両の瞳を大きく見開ける。あまりの衝撃的な事実に周りにいた少女たちの間にもどよめきが起こる。


 魔力を自在に操る魔女といえど、そんな小物に僅かに残った魔力のカスからどんな呪文が付与されているのが分かるものなのか、と。


 やはりヴァネロペの右腕と称される女だ、とケティは表情を強ばらせて生唾を飲み込む。


 ”杖なし”ではないものの、こと魔法の知識に関してはこの女の右に出る者はいない。


 クラリスにとってはこの程度のこと造作もないのであろう。


 ポイッ、ポイッと人形を宙に放り投げては受け取る、という実に危なっかしい動作を繰り返しつつ、クラリスは何やらブツブツと呟いていた。


 何を言っているのか定かではないがーーーーー、この人形に付与されている呪文を解読しようとしているのか。


 ついさっきまで怯えていた姿とは正反対の姿に、ケティはやれやれと肩を竦める。


 ともあれ、これでようやく物語が動き始める。


 停滞した物語をーーーーー、終わらせるべく、ケティたちは木を引き締める。


 何せ相手はーーーーー、ルーシア様やヴァレンシア様さえも軽くあしらう程の手練れの魔女なのだ。


 それに今回はアラタの命も我々の手に懸かっている。慎重に事に当たらなければ。


 ケティたちはクラリスの解読が終わるまでーーーーー、固唾を飲んで見守るのであった。


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