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第三十章 貴方に、会いたくて(31)

 楽しんでいただけたら幸いです。

 もうそろそろ頃合いか。


 ケティはググゥ~と大きく伸びをして、十分換気が出来たであろうボロ小屋へと視線を向ける。


 かれこれ数十分ほど経過したか。


 さほど大きくもない小屋なので、換気するのにも時間も手間もかからないハズだ。


 視界良好かつ呼吸が満足に出来るようになればーーーーー、虫や蜥蜴など怖くないケティを阻む障害は何もない。


 未だビクビクと怯えているクラリスたちを尻目に、ケティはよく使い古された愛用の銀製の短剣を手に取る。


 古来から銀は魔物を滅するとされ、ケティたち傭兵の間でも敬虔な信者たちは御守りとして持ち歩いていた。


 こう見えてキリスト教の敬虔な信者であるケティ。


 彼女も例に漏れず純銀製の短剣を常日頃から持ち歩いていた。


 この剣が悪しき者から我が身を護ってくれる。


 魔物や悪人、そして悪霊からもーーーーー。



「・・・・・・ふぅ。落ち着け、落ち着くんだ」



 ついさっき私たち以外に誰もいないことは確認済みだ。ならば何も怖れる事はない。堂々と突入すべきだ。


 だというのにーーーーー、意思とは裏腹に足が言うことを聞かない。


 表面上では幽霊など怖くも何ともない、だなんて偉そうに豪語したものの、やはり心のどこかでは怖れていたのだろうか。


 しかし、クラリスたちの手前(大見得も切った上)、まさか今更怖いとか言えるハズもなく・・・・・・。


 ケティは覚悟を決めてボロ小屋へと歩いていく。剣を握る手に力を込めて、息遣いと足並みを合わせながら。


 墓場特有の生温い空気を肌に感じながら、ケティは一思いに小屋へと突入する。


 薄暗いものの砂埃などが晴れたおかげで、まだ室内が見える、視認できる。


 外観ばかりでなく内装もボロボロだ。 

 

 ほら、その証拠にーーーーー、


「・・・・・・っと、手に取って確認出来ないか。これでは調べようがないな」


 何気なしに手に取った本がボロボロと崩れ落ちた。


 いやはや風雨の影響は凄まじいものだな。手に取った全ての物が壊れてしまう。


 とはいえーーーーー、何か証拠を掴まないことには話にならない。


(ここは本当にマリ・ド・サンスの家なのか? とてもじゃないが人の住める環境ではいし、人の住んでいた痕跡もない)


 ザラザラと砂が混じった埃がうっすらと覆う机の表面を指でなぞる。指先には埃がびっしりと付いていた。


 至る所が傷みに傷みーーーーー、パッと見は人が住む体は取ってあるが・・・・・・、これならばまだ豚小屋の方がマシに見える。


 それほどまでに劣化や腐食が進んでいた、このボロ小屋は。


(この小屋は人の目を欺くためのダミーか? にしても何故こんな回りくどい事をする?)


 一体何を企んでいる?


 ガサゴソと手当たり次第に取っては朽ち壊れて、を繰り返すがーーーーー、マリ・ド・サンスに繋がる有益な情報を持つ代物は一つも発見出来ず、


「・・・・・・無駄足だったか」


 落胆して踵を返そうとした、その時。


 ケティはある物を視界の隅に捉えて立ち止まる。


 それは巷にありふれた、ごくごく普通の子供用の玩具であった。


 木を削って作られた、兵士の姿を象った木工細工だ。実にちゃちな作りであるが、中々に味のある作りだ。


 男の子供が好きそうな、どこにでもありそうな玩具ーーーーー、いや、待てよ。


 ケティはさる疑問を抱いた。


 何故こんな所に子供用の玩具が落ちているか。しかもこの玩具だけが妙に綺麗で・・・・・・、腐食の一つもない。


 しげしげと玩具を観察するケティ。隅々まで観察しているとある重要な事実に気づいた。


 それと同時にケティは胸につっかえっていた物が晴れていくのを感じた。


(そうか、これはやはりマリ・ド・サンスに繋がるか)


 グッと強く玩具を握り締めて、ケティはボロ小屋を後にする。


 もうここには用はない。


 ケティは未だ恐怖の淵から逃げ出せていないクラリスたちの元へと戻る。


 足取りは軽く、沈んでいた気持ちも上がる一方だ。


 手がかりを得たことで、停滞していた状況が良い方向へと舵を取り始めた。


 ケティは手の中にある兵士人形を天高く掲げて、



「ーーーーーこれでアラタの元へと行けるぞ!!」



 掲げられた玩具には小さくこう刻まれていた。



 ”親愛なるネロヘ。永久なる愛を込めて。マリ・ド・サンスより”



 と。


  

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