第七章 暗躍(3)
短いですが楽しんでいただけたら幸いです。
興奮と歓喜に彩られたクラリスの瞳に映るは、首に付けられた首輪にから伸びる鎖に繋がれた、怯えた表情を浮かべる三人の少女であった。
彼女たちはこれから自分の身に起きる事を知っているのか、全身をガクガクと恐怖に震えさせて「ヒック、ヒック」と嗚咽を漏らし始める。
この少女たちはクラリスが率いる”過激派”に属する魔女であり、確かは名前は右から順にアンナ、クラリッサ、マーサだったはず。何せ過激派に与している魔女の総数はざっと数えても100ちょっとほどいるから、正直全員の名前を憶えている保証はない。
それでも、此度の任務遂行のために、各々の能力値などを鑑みて自分で選出したのだから、流石にそのメンバーの名前くらいは憶えているつもりだ。
それにしても、もう少し考えておくべきだったわね、と悩ましげに眉を顰めて後悔するクラリス。
ハインリッヒの邸宅にはリリアルチを向かわすべきだった。完璧に自分の采配ミスだ。
此度の失敗は全て彼女たちの責任とするつもりはないが、それでもやはり”見せしめ”の意味も込めて、ここはやはりお仕置きを敢行するべきであろう。
一を知って十を知る、とまでは求めないまでも、私にとってハインリッヒという人間がどれほど大切な存在なのかを、過激派に属する者ならば事前に把握して然るべきだ。
それを怠った罰の意を込めて、クラリスは怯えと恐怖に支配されている少女達へとゆっくりと歩み寄る。足音が近づくにつれ、少女たちの体の震えは最高潮に達する。
過去には恐怖のあまり失禁する者もいたのに比べ、この少女たちはよく耐えている方だと思う。
しかし、その気丈な態度もどれくらい待つのか? その瞬間を垣間見るのも醍醐味の一つだ。
クラリスはまず右端の鎖に繋がれているアンナの目と鼻の先まで近づくと、可愛らしい顔を青ざめてこちらを見上げるアンナの細顎を掴み、
「――――――――確か、アンナといったかしら?」
「は、はい。クラリス様」
「お前、なぜ自分がここにいるかその理由は分かる?」
「・・・・・・は、はい」
「では、述べてみなさい」
なるべく優しい声を出すように努めると、アンナはクラリスの怒りがそれほど深刻でないと確信したようだ。先ほどよりも幾分か顔色もマシになったように見える。
「・・・・・・そ、それは私たちが、クラリス様の命令を無視して、は、ハインリッヒ様と交戦した、からです――――――――ヒッ!!!!!!!!!!!!!」
当たり障りのない事しか言わないアンナの着ていた上着を強引に縦に引き裂くと、アンナの口から引き攣ったような悲鳴が漏れ、その様子を横から見ていた他の二人も目を剥いて絶句する。
柔肌を露にしたアンナは恐怖と羞恥心が入り混じった複雑な表情を浮かべ、どうにか自由の利く両腕を使って体を隠そうともがくのを、首に付けた首輪から伸びる鎖を引っ張ることで阻止する。
「私が聞きたいのは、そんなことではないのよ。言いたくないなら、私が代わりに言ってあげる。お前たちは勝手に交戦した挙句に、私の親友であるハイネを行方不明にさせてしまった。その罪は死ぬより重いのよ」
「あ、あの、も、申し訳ありません」
ガクガクと小刻みに体を震わせながら必死に許しを請う三人。
まぁ、それもそうだろう。いくら魔女と言っても体は生身の人間そのもの。痛覚だって感じるし、誰だって痛いのはなるべく避けたいであろう。私だって他人を痛めつけるのは好きだけど、かと言って自分が痛いのは勘弁願いたい。
彼女たちの気持ちは痛いほどよくわかる。けれど、その気持ちに同情しては拷問なんて出来ないし、ほらよく言うでしょう。”他人の不幸は蜜の味”ってね。
けれど、曲がりなりにも彼女たちは私の部下でもあるわけだし、流石に四肢を欠損させるのは可哀想か。それに体に欠損が出来ると任務にも支障をきたしそうだし・・・・・・。ここは比較的軽い方がいいかしらね、とクラリスは自身が過去に行ってきた拷問リストを脳内で照らし合わせる。
数百ある内の拷問の中で、比較的マシであろうのを選出したクラリスは、杖を取り出し短く呪文を唱える。すると、何もない空間から細長い棒のような物が現れ独りでに移動すると、クラリスの手の中にすっぽりと納まる。
その棒はどうやら焼き鏝のようで、少女たちはこれから自分の身に降りかかるであろう不幸を悟ったらしく、必死に首輪を外そうとジタバタと暴れ続ける。
しかし、そんなことはしても無駄と示すように、クラリスは鎖を思い切り踏みつけると、焼き鏝の先端に魔法で生み出した炎の中へと突っ込む。数千度の高温よって赤く熱せられた焼き鏝を目にした少女たちは半狂乱に陥り、
「や、止めて、止めてください!! お願いしますそれだけは!!!!」
感情の昂ぶりからか、アンナの体から水色をした魔力の帯が漏れ始める。
どうやらこの焼き鏝が何に使用されるかが分かっているようだ。
クラリスはアンナの必死の懇願にも耳を貸さず、手にした焼け焦げた鏝の先端を、先ほどクラリスによって上着をビリビリに破られ素肌がむき出しになった腹の上に強く押し付ける。
「あっ、アァァァァァァァァァァァアッァアアア!!!!!!!!! ガッ、ハァ、アァ、ア、ァ!!!!!!」
ジュワ~と肉が焼け焦げる匂いが室内に充満し、ついでアンナのこの世のものとは思えないほどの絶叫が部屋中に響き渡る。
それもそのはずだ。数千度に熱せられた鏝が素肌に押し当てられたら、痛いなんて軽い表現では済まないであろう。皮膚が焼けただれる痛みに喘ぎながら、アンナは全身から滝のような汗を流し、懸命にこの激痛に耐え続けていた。
両の目からはとめどなく涙を、鼻からは鼻水、口からは涎を垂れ流していた。まぁ、失禁はしなかったようだから、ここは素直に称賛の意を送るべきか。
この拷問で漏らさなかった者は数えるほどしかいないので、このアンナは余程忍耐力が他人より高いのであろう。
アンナが苦しみ悶える様を見下ろしながら、クラリスは鏝を離す頃合いを計る。感覚で言うと五分くらいか。もう十分なはずね、とクラリスはアンナの腹に押し当てていた鏝を外す。
すると、彼女の白い肌に鏝の先端に描かれた模様が火傷の痕として痛々しく刻まれていた。鮮やかな朱色の円形の刻印がしっかりと白い肌に刻まれているのを確認したクラリスは満足そうに頷く。
その刻印にはルーン文字でこう書かれていた。
”私は、命令に叛きました”
この刻印は魔女専用の物で、これを押された魔女はこの刻印の効力が消えるまでの二週間は魔力の類を一切封じられる。
魔女にとって魔力が一時的にでも消えることは耐え難い苦しみであり、罰としてはとっておきの効果を発するので、クラリスはこの拷問をよく愛用していた。
それに四肢を切り離すより、よほど手間がかからないし、それに体が血液などで汚れないで済むから、という理由もある。
さて、拷問を受けたアンナというと、あまりの激痛に気を失ったようで・・・・・・・、ピクリとも動かなくなってしまっていた。
まぁ、もうこの少女の拷問は終わったので気絶でも何でも好きにやらせることにした。
それに、とクラリスは再び鏝を手に取って残りの二人の少女達へと向き直る。
クラリスと目が合った少女たちは、凄惨過ぎる拷問をその身に受けた仲間を横目に見て、自分たちも同じ目に遭うことを否応なしに理解していたので、せめてもの抵抗とばかりに動ける範囲で暴れはじめる。
だが、そんなのは抵抗と呼ぶにはあまりにも非力で・・・・・・、クラリスはあまりの滑稽さに目を横長に細めると、
「暴れるんじゃないわよ!!」
クラリスは暴れる二人の頬を思い切り平手打ちをする。よほど力が強かったのか、平手をもろに食らったクラリッサとマーサの頬は大きく腫れあがり、その衝撃で唇の端が裂けて血がにじみ出ていた。
クラリスは手のひらに付いた二人分の血液を舐めとると、茫然自失状態のクラリッサとマーサに向かって、
「――――――――――――この私に二度も歯向かった罰として、特別に二本にしてあげる。安心して、死にはしないだろうから!!!!!」
と、二人にとっては慈悲の欠片もない言葉を吐き捨てて、どこからか取り出したもう一本の鏝を空いてるほうの手に握ると、最早抵抗する気力も失せた無抵抗の少女たちへと大きく振りかぶると、華奢な肢体に向かって振り下ろすのであった。
お仕置き部屋から漏れる笑い声が混じった嬌声と痛々しい悲鳴を、扉の外で仁王立ちの体勢で待機しつつ耳にしている少女がいた。
その少女とは―――――――――リリアルチであり、彼女はクラリスの命令でこの部屋の護衛を任されていた。小柄な体躯には似つかわしくない鋭い眼光で辺りをくまなく見渡しつつ、この付近に不審者が近づかないよう警戒していた。
彼女はクラリスの加虐趣味を昔から知っていた。だが、それでも自分の慕う主君であるには違いないので、変わらぬ忠誠をクラリスに捧げていた。
そりゃ同胞である魔女たちが拷問の餌食になるのは可哀想だなとは思うが、しかし元はと言えばクラリスの指示を無視したことによる罰なのだから甘んじて受けるべきだとも思う。
勿論、自分が彼女たちの立場なら甘んじてクラリスからの罰を受け入れる所存だ。
そうでなければ忠臣とは言えない。極端な考えだが、当のリリアルチは真剣にそう考えていた。
だから、リリアルチは疑問こそ抱くが、彼女のやること為すことに反対の意を唱えたこともない。クラリスのやることは必ず理にかなっているのだ。例えそれが周囲に理解されなくとも、自分だけはクラリスの理解者であり続けようと、そうリリアルチは考えていた。
それこそが真の意味での忠臣である、とリリアルチは本気でそう思っていた。
フンス!! と鼻息荒くしていたリリアルチであったが、不意に扉が開く音がして慌ててその場からのいて敬礼すると、満足そうな実に満ち足りた表情を浮かべているクラリスがお仕置き部屋から出てきた。
クラリスは敬礼しているリリアルチに気づくと、
「あの子たちをよろしく頼むわ。しばらくは使い物にならないだろうから、各自の部屋に軟禁しておいて。それと、この部屋を綺麗さっぱりに片づけておくこと。いいわね?」
「―――――――――はっ、仰せのままに」
と、クラリスの勅令を聞いたリリアルチは了承の意を込めて再び敬礼すると、クラリスに一礼してすぐさま下された命令を遂行するため行動に移そうとするが、その前にと、
「―――――――失礼を承知でお聞きしますが。クラリス様はこれからどちらへ?」
いつもなら平手の一つも食らうところであるが、機嫌のよいクラリスはリリアルチの問いにも素直に答えてくれた。
「決まったこと。―――――――”黄昏の森”よ。人間派よりも先手を打たなくてはね」
とだけ答えると、クラリスは上機嫌に手を振りながらリリアルチに背を向けてその場から去って行く。
リリアルチはそんな主人の後姿を見送りつつ、すぐさま自分に課せられた命を続行すべくお仕置き部屋へと姿を消すのであった。
次回でこの章は終わる予定ですが、もしかしたら一話だけ追加するやもしれませんのであしからず。
拷問にはいろんな種類がありますよね。考えただけで悍ましいですが。自分がその時代に生まれていなかったことにホッと安堵しています(だって痛そうなんですもん)。
では、次回に。




