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第七章 暗躍(4)

 楽しんでいただけたら幸いです。

 いつも読んで下さる皆様には感謝しかありません。

 これからもどうぞよろしくお願いします。

 ”人間狩り”が失敗に終わったクラリスは次なる作戦計画を考え出し、完璧に作戦を完遂させるべく自分一人で作戦を決行することにした。


 その作戦とは実にスマートなもので―――――本当に作戦と呼んでいいものかも定かではないが――――、作戦の内容は黄昏の森の魔女を味方に引き入れるというものであった。


 そもそも人間狩りなどという作戦は回りくどかった。単純に我が魔女派の戦力を増大させれば、人間も人間派の魔女たちも簡単に駆逐することが出来るのだから。使えない部下を考えもなしに無駄に使役するより、優秀な魔女を味方に引き入れる努力をした方がよほど賢い作戦だ。


 それに我が”過激派”に属する魔女は、私のように人間を激しく憎んでいる者がいい。狂気に満ちた、どこか他人とは違う禍々しいオーラを纏った者が。


 そしてそれに該当する女が私が知っている限り数人ほどいる。その中でも魔女でありながら武芸の才にも優れた女が”黄昏の森”で一人孤独にひっそりと生活していることも知っていた私は、つい先ほどマーサ達を拷問している最中にとある妙案を思いついたのだ。


 人間はトラウマを刺激されると、正常な判断が出来なくなるかもしくは鈍くなる。


 私にとっては最愛の妹の死が当てはまり、あの女は――――――――”信頼していた者からの裏切り”かしらね。恐らくそこを突けば、彼女はトラウマから逸脱しようとなりふり構わず私たちに協力するはずだ。


 それほどまでに、トラウマとは根深いもの。簡単には取り払われやしない。


 それは数百年経った今でも私たちの心の奥底に潜み、時折思い出したように牙を剥いて襲いかかる。その時の苦しみや恐怖、悲しみや怒りは計り知れないほどだ。


 いっそのこと殺してくれと叫んだこともある。


 しかし、人は簡単に死ねないものだ。特に自分で自分の命を絶つなんて余程の勇気がなければ。


 だから、私はこうもしぶとく生き残っている。自分の自殺衝動を抑え込むために、他人の命を代りに奪い、時には自身の体に傷を付けながらみっともなく今ある生にしがみついている。


 きっとこのサイクルは永遠に続いていくであろう。今までも、これからも。


 だからか、私は確信する。


 あの女―――――――――、ジャンヌ・ダルクも私と同じ穴の貉だと。





 ”黄昏の森”。


 誰がそう呼んだかは分からないが、この森は昼夜問わず黄金色の靄に包まれており、風もないのに永遠に枯葉が舞い落ちる、何とも不思議な空間であった。


 この森では生物はおろか人間すらも生きてはいけず、その理由としてはこの森ではまず食料となる木の身や果実が実らない。ということはそれを餌にする草食の動物や鳥類が寄り付かない。ともすればその動物たちを餌にする肉食動物も来なくなる。


 いくら人間が雑食性とはいえ枯葉や石ころなどが食べれるわけもないので、これがこの森に住めない大きな要因の一つと言える。


 他にもいくつか原因はあるのだが敢えてもう一つ上げるなら、この森のを包む黄金色の靄であろうか。この靄はあたりの酸素を養分にして生きているので酸素濃度が極端に低いのだ。魔力あのある魔女ならば何の問題もないであろうが、普通の人間や動物などは三日くらいしか息が続かないであろう。


 不便だからこそ、彼女はこの森を終の棲家と選んだのだ。


 他人を寄せ付けたくないというジャンヌ・ダルクには、これ以上ないってくらいに好条件なロケーションであり、正直に言ってクラリスもこの森に永住したいと思ってしまった。


 だがまだ為すべきことは山積みであるのを思い出したクラリスは頭を振って、ひとまずこの腑抜けた考えを振り払うと、気を引き締めて森の中へと足を踏み入れるのであった。


 いざ森の中へ分け入ってみると、この靄のお陰なのか分からないがもうじき日も暮れるというのに、辺りは真昼のように明るかった。これなら松明はいらないほどである。


 落ち葉で敷き詰められた林道を歩き進めていくこと数十分。何やら遠目にフードを被った人間の姿が見えたので声をかけようとしたところ、その人物はこちらの存在に気づいたのか慌てて背を向けて走り去ってしまう。


 クラリスも逃げ出した相手の姿を見失わないように、風の魔法を足に纏わせて移動速度を上げつつその後を追いすがる。


 どうやらあの人間がジャンヌ・ダルクで間違いない様だ。


 にしても声をかける前に逃げるなんて―――――――、なんて礼儀知らずなのかしら。これはもう追いついたら少々痛めつけないと気が済まない、と一瞬物騒な発想を抱いてしまうが、今回はジャンヌ・ダルクをいたぶりに来たわけでないのを思い出し、つまらなそうに舌打ちをするクラリスであった。


 機嫌を損ねたらそれこそこの作戦そのものがパーになってしまうし、ここは慎重に慎重に。なるべく下手に出ないと・・・・・・。


 と、しばらく追走劇を繰り広げていた間に、どうやらジャンヌ・ダルクの隠れ家らしき場所に辿り着いたようだ。思わぬ展開になってしまったが、まぁ森の中を延々とさ迷い歩くよりはマシかしらね、と納得することにした。


 ジャンヌ・ダルクらしき人物が住処としている場所は、どうやら森の最深部のようだ。長年かけて開拓したのであろうか? 半径2K四方には大木どころか雑草一つ生えておらず、色とりどりの花々が咲き誇っていた。その花々に囲まれるようにして一人が暮らすには十分な大きさの家屋が建造されていた。


 この大きさの家を一人で建築したのかと思わず目を見張ったが、そう言えば彼女はここに来る前は騎士隊に属していたのを思い出し、力仕事ならお手の物かと一人納得する。


 男所帯で生活していたのなら、自然と力も身に付くであろうから、時間をかければ彼女一人でも家を建築できることが可能だったのであろう。幸いなことにこの世界は時間だけはたっぷりある。


 それに加えて彼女は魔女としても目覚めていたので、魔法を使ってこの森を自身にとって住みよい場所へと少しずつ変えていったのであろう。


 何故ならここだけ動植物が自営しており、それらが生きていくために必要な水も豊富に湧き出ていた。どうやら彼女が魔女で人工的に小さな滝を作り出したようだ。その水を無駄にしないように大きなため池を滝の水が落ちるすぐ下に掘りあげていた。


 家のすぐ傍には自給自足を窺わせる畑らしきものが見え、そこにはたくさんの野菜が色鮮やかに実っていた。数も豊富であり、ざっと見たと限りでは十数種類ほどあるであろうか。


 どこから種を仕入れたか不明ではあるが、まぁこの野菜も魔法で生み出したのかもしれないが。それにしてもジャンヌの人を寄せ付けない生活は徹底されていると、本来の目的を忘れて感心したくらいであった。


 ここまで自給自足ぷりが出来上がっていると、本当に誰とも交流せずとも生活できてしまうであろう。生きるのに必要な衣食住は最低限ではあるが揃っているのだから。


 本当にジャンヌ・ダルクの自由な生き方を見ていると、何だか群れて生活している自分が本当に馬鹿らしくなってくる。魔女とは本来彼女のような生き方が性に合っているのではないか。


 こうやって群れて暮らしているのって、何だか昔の生活を捨て切れてないみたいに思えてくる。


 クラリスは木の陰に隠れてジャンヌの住処を注意深く偵察するうちに、何だかこうやっている自分が馬鹿らしく思えてきて、思わずこの作戦を中止して引き返そうとしたが、



『―――――――――クラリス』



「――――――――――――!?」


 不意に聞きなれた、今の自分が最も聞きたかった少女の声が脳内に響き、クラリスは揺らぎかけた自身の心の弱さや甘えに喝を入れるべく叱咤する。


(・・・・・・そうよ。私は、ハイネを取り戻すためにここまで来たの。一切の情や甘えは捨てないと)


 クラリスは己の頬を二、三回軽く叩き、自身のやる気ブースターに発破をかけると、決意した気持ちが削がれる前にジャンヌの邸宅へと強行突破するべく行動に移すのであった。

 

 申し訳ございません。あともう一話だけ追加いたします。

 次回でこの章は終わり、次々回から新章が始まりますので、よろしくお願いします。

 では、次回に。

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